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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    メル燐前提のりんね+しゅうの話。しゅうが巻き込まれている。カプ要素は薄め。

    ##メル燐

     国内で仕事があるため、しばらくの間日本に居る宗が事務所から寮に戻って最初に視界に入ったのは落ちているサイコロだった。今の今まですっかり忘れていた嫌な記憶が蘇る。あの日はサイコロを拾ったせいで燐音に無理矢理絡まれて大変だったのだ。
     そもそも宗は燐音に対して好意的な感情を抱いていない。普段の下品な物言いだけで顔をしかめてしまうというのに誰に対してもやたら距離が近い。その上なんだかんだと言ってみかにも絡んでいる。同じ事務所やサークルであるから最低限の会話を許容してやっているだけなのだ。
     だからここでの最適解は近くに燐音がいる可能性を考慮してサイコロを無視して部屋に戻ることだろう。仮に燐音は周囲にいなくて本当に誰かの落とし物だったとしても、持ち主が探しに来るか他の人物が拾うはずだ。別に自分以外の誰かが燐音に絡まれようと宗は気にしない。これがみかやRa*bitsのメンバーなら話は変わるが、タイミング悪く今帰ってくるという話は聞いていない。
     無視、すればいいのに。落ちている物を気付いていて無視するのはあまりにも落ち着かない。部屋に帰ってからも座りの悪さを感じてしまいそうである。宗は立ち止まって、悩んで、テーブルの上に置こうとサイコロを手に取ってしまった。
    「感謝するぜェ、宗くん」
    「…………やっぱり君か」
     宗が思い出していたあの日と同じように燐音はただサイコロが思ったより転がってしまっていっただけで、別に誰かを釣る餌にしようとは思っていなかった。ただ、転がっていった先に宗が見えて考え込んでいるようだったから見ていただけなのだ。宗が拾ってくれれば感謝の声をかけに行き、無視すればなんで拾わないのか悲しむ振りをしながら声をかけるつもりだったのである。
     つまり宗がどちらを選択しようとこのタイミングで寮に帰った時点で燐音に絡まれることはほぼ必然だったと言える。燐音がそこまで説明するつもりはないけれど。
    「俺っちもツイてるっしょ! 相手が宗くんなら言うことねェしなァ!」
    「それは良かったね。サイコロは君に返すから僕は部屋に戻らせてもらうよ」
    「おっとォ。俺っちが逃がすと思ってンの?」
     気安く肩に腕を回してこようとする燐音を宗は避けた。燐音のことだから無視してもブンブンとうるさく飛び回ることは容易に想像出来る。それでも宗に燐音に付き合う時間はない。今日の仕事は終わって後の予定は何もないのだが、余暇を割く相手に選びたくないというだけである。
    「僕以外にも構ってくれる相手はいるだろう。他の誰かが帰ってくるのを待ちたまえ」
    「え~、俺っちは宗くんに相談したいことがあったンだけどォ」
    「……君が、僕に?」
    「そう!」
     燐音のような男が宗に相談があるというだけで少し、ほんの少し興味はそそられた。しかしそれでも、宗の興味の天秤を完全に傾かせることは出来ない。相談というのも燐音の口から出任せの可能性だってある。そもそもサイコロを拾ってしまっただけで最初から宗に決めていたわけでもあるまい。やはり無視をするに限る。
     宗の結論は変わらなかった。
    「何の相談か知らないが、それこそ僕より適任がいるだろう。今度こそ本当に部屋に戻らせてもらうよ」
    「宗くんが無理ならしょうがねェか……。み~たんに相談に乗ってもらうかなァ」
    「…………今、何と言ったのかね?」
    「ン? だからみ~たんに相談に乗ってもらうって話。俺っち本当に困ってンの」
     跳ねるような声色で告げて何が困っているだと宗は反論したかった。しかし、みかが巻き込まれると聞いては進みかけていた足も止まってしまう。
     みかは人を無視することに向いていない。宗は自分と違うところもあるみかだからこそ産み出せる芸術もあると今では理解している。しているが、今の状況でそんなことは言っていられない。自分の今からの時間を犠牲にすることと、燐音に絡まれるみかを天秤にかける。
    「……僕の時間を無駄に浪費するようなくだらない相談だったら承知しないよ」
    「さっすが宗くん! 俺っちの見込んだ通りっしょ!」
    「君に見込まれても嬉しくないのだよ」
     宗のそんな言葉は意にも介さず燐音は宗の手首を掴んでどこかへ連れて行こうとした。
    「ノン! 僕をどこに連れて行こうというのだね」
    「ン? 俺っちの部屋。さすがに相談なんだからこんないつ誰が来るとも分からない場所じゃ出来ねェし」
    「それは……」
     確かにそうだと宗は納得しそうになる。こんな場所で話せる内容ならそれこそ次に帰ってきた誰かにでも燐音を押し付ければ済む話だ。内容の想像は出来なくとも燐音の中で宗は相談相手として白羽の矢を立てられる相手であったことは確実なのだ。宗にとっては立てられたくない矢ではあったが。
    「ちなみに君の同室は誰なのか一応聞いておくよ」
    「二人とも今日は仕事で遅いらしいから鉢合わせる心配はねェと思うけど、日和ちゃんとかなっち」
     寮なんてたまにしか帰ってこないからほとんどの部屋割りを宗は把握していない。だから訊いたのだけれど、告げられた二つの名前に相反する二つの感情が生まれてしまった。
     かなっちという呼び名から一人が奏汰であろうことは推測できる。奏汰ならいいどころか宗にとって大事な友人の一人なのだ。奏汰の性格を思うに部屋に入ったからと言って何も言わないだろうし、そもそも同室である燐音の許可を得ている。宗に恥じることなど何もないと言って良かった。
     問題はもう一人の方である。燐音はたまに推測が難しい名前で人を呼ぶことがあるが、名前をそのまま呼んでいては間違えようもない。日和は宗が複雑な感情を抱いている一人だ。一番強く怒りを抱いているのは英智だが、過去同じユニットだった日和にだって当然思うところはある。思うところしかないと言い換えてもいい。
     宗が内心で色々考えている結果、百面相をしてしまっているけれど、燐音にはその理由が分からなかった。奏汰と宗の仲が良いらしいことは知っている。同室の奏汰からたまに名前が出るからだ。でも、宗にとっての日和がどういう存在かは知らなかった。
     燐音だって一応夢ノ咲に関することは調べてはいる。これだけ同業者にいるのに何も調べない方がおかしいだろう。それでも自分がその場にいないのに調べられる情報には限度があるし、実際相手に対してどんな感情を抱いているかは話してみないと分からないのだ。だから、理由は分からなくとも宗が日和に対して好感を抱いていないというのは察しがついた。
     他に誰もいなければ燐音は場所にこだわりはない。
    「……あ~、俺っちは別に宗くんの部屋でもいいけど?」
    「……ふむ。本当は君を部屋には上げたくはないけれど、その方が早く終わりそうだね。ついて来たまえ」
     宗は燐音の手を払うとさっさと歩き始める。その切り替えの速さに燐音は笑いを噛み殺しながら後ろをついて行くことにした。



    「それで? 君の相談は何なのだね」
     一応は客人ということで出された紅茶を前に燐音は宗から直球で投げかけられた。もう少し会話を逸らして楽しんでもいいが、自分の部屋と違って宗の部屋なのだ。同室の人間がいつ帰ってくるかなんて知らない。さっさと話を始めた方が吉に決まっている。もし宗がそこまで予測して自室に誘導したとしたら、考えを改める必要があると燐音は胸の中だけだ思った。
    「有り体に言うと恋愛相談?」
    「………………僕は冗談に付き合っている暇はないのだが」
    「冗談じゃねェって。俺っちはマジの恋愛相談をしにきたわけ」
     燐音と恋愛相談という言葉が結びつかなくて宗は冗談として処理したかったが、どうやら冗談ではないらしい。仮に、事実として恋愛相談だとしても宗には疑問しかなかった。
    「その相手が僕である理由は?」
    「まァ、メンバーには事情があって相談しづれェし、弟くんはもちろん論外。まだ学生やってる奴らに相談するのはさすがの俺っちも抵抗がある。これを言ったら今後からかってきたり俺っちの弱味扱いする奴らもダメ。あんまり真剣に捉えられすぎてもこっちが落ち着かねェ。そこまで考えて、後腐れなくて適当に聞き流してくれそうなのは……って思い付いたのが宗くん!」
     明かされた理由に宗はため息しか出なかった。遺憾なことに燐音の提示した内容に宗が当てはまっている自覚があったからである。
    「……じゃあ僕が君の相談内容を言いふらすと言えば今すぐ帰ってくれるのかね」
    「宗くんは相手が俺っちだろうと人の恋愛相談を言いふらすなんて下世話な真似しねェっしょ」
    「言ってみただけだよ。そんな僕の品性までもが疑われることをするはずがない。というか君の口振りからすると恋愛相談というよりは適当に話を聞いてほしいだけなのだろう?」
     先程提示された内容からして燐音は明確な答えを出したいわけではないはずだ。つまり、最初みかの名前を出したのは宗に相談に乗ってもらうためだけだったにすぎないことも今なら分かる。本人が望んでいるんだから適当に聞き流して終わらせよう。宗は燐音に話を振った。
    「とにかくさっさと話したまえ」
    「宗くん最ッ高! じゃあ早速……」
     燐音が身を乗り出して咳払いをした。実際に成就しようがスキャンダルになろうがすでに付き合っていようが燐音の恋愛模様に宗の興味は無い。自分に迷惑さえかけられなければ……現在進行形で迷惑なのは一旦置いておく。それでもここまで付き合ってやったよしみで耳だけは傾けた。
    「俺っち、片思いしてるヤツがいるンだけどさァ。結構勇気出してアプローチしてンのにずっとスンとした顔しててこれっぽっちも効いてる感じがねェの!」
     片思いなのかと宗は思った。こと恋愛方面だと燐音がどういうアプローチをするのか宗に想像は出来ないが、それなりに騒々しいのではないだろうか。名も姿も知らぬ相手に少しばかり同情した。
    「事前に確かめた感じじゃあ恋人どころか誰かに片思いしてる訳ねェからフリーなのは確実なはず……。まァ、相手は作らないって言ってたこともあるけどォ」
     かなり脈は薄いのではないかね? 口に出したら話が長くなりそうだから心の中だけで飲み込んでおく。
    「それなりに人に対する好き嫌いが分かりやすいヤツだから最低でも嫌われてはいないと思ってはいるンだって。宗くんよりは全然相手してくれるし」
    「その相手が優しいだけという線もあるだろう」
    「いや……優しいかって言われるとどうなンだ? 別に腹の内を全部は知らねェけど、多分宗くんの方が優しいっしょ」
     燐音が少し思い出すように考えてから神妙な顔で言った。どうやら燐音が片思いしている相手は、宗よりは相手をしてくれる割に宗ほど優しくはないらしい。宗は自分が世間一般的に「優しい」と呼ばれる枠組みに入らないことは自覚しているし別にそうなろうとも思っていない。たまにそう言ってくる相手がいないこともないが。
     燐音の趣味が宗には全く分からず、逆にほんの少し、髪の毛の先ほどの興味は湧いてきた。とはいえ宗に相手を想像するような趣味はない。今の時間がちょっとだけマシになったという程度のものだろう。
    「付き合うとかそういうことの前にとりあえず俺っちがアプローチしてることだけでも気付いてもらわねェと始まらないってのにさァ……」
     アプローチだと気付いているが燐音は恋愛の対象外だから気付かない素振りをしている可能性は考えないのだろうか。それとも考えておいて、諦めきれないのか。相手を知らない宗にはどれが正解なのか想像も出来ない。ただ、燐音を慰めるつもりもなければ、諦めさせるほどの義理もないから言葉には出さなかった。
    「告白すればアプローチには気付いてもらえると思うのだがね」
     でも、気になったことはあったから言葉にしてしまった。燐音の口振りからしてある程度のアプローチはしているのだろう。相手がどれだけ鈍くとも告白してしまえば結果はともかく気付いてはもらえるはずだ。
    「あ~、それはそうなのは俺っちも気付いてはいるっしょ? ただ、えーっと、頻繁に会う相手だから断られて気まずくなると困るっつうか? 向こうも俺っちも表面上は今までと同じ付き合いは出来るだろうけど、好きな相手に変な気まずさを味わってほしくないみたいな?」
    「まあ、僕には関係のないことだからね。好きにすればいいのだよ」
     仕事の関係者だろうかと思いつつ、この男にも真っ当な気遣いが出来るのだと宗は思った。自分相手にはそんな気遣いを感じたことないというのに。……しかし、燐音が恋愛をしている相手と同じ気遣いをされても嬉しくも何ともないとすぐに思い直した。
     何の因果か同じ事務所で同じサークルだがこれ以上距離を縮める必要のない相手だ。こうして自室に招いてしまったのも最初で最後にしたいと宗は思っている。
     すると不意に部屋の扉をノックする音が聞こえた。宗と同じ部屋に住んでいる者ならノックなどせずに入ってくるだろう。
    「あ~、お客さん?」
     燐音の言う通り客である可能性は高い。丁度いい。燐音だってこの話を宗以外に聞かせるつもりはないようだし、相手をしている間に燐音にはお引き取り願おう。宗は立ち上がりながら口を開いた。
    「僕が相手をするから君はさっさと帰りたまえ。もう充分話は聞いただろう」
    「本当はちょーっと話足りねェけどさすがに潮時っしょ。今日のことは俺っちと宗くんだけの秘密な!」
    「遺憾だが僕の品性を疑われたくはないからね」
     燐音が残った紅茶を一気に飲んでいることを視界の端に捉えながら宗は扉を開いた。そこに立っていたのはこの部屋に用があるとは到底思えなかった相手で、二人が何か言葉を発するより先に燐音の声が耳に届いた。
    「あれ? メルメルじゃん。宗くん達の部屋に用?」
     宗はこちらが話すより先に口を挟むなと言いたかったが、目の前のHiMERUが驚いたように目を見開いて燐音を見ていたのでその言葉を引っ込めた。まあ、まさかここに燐音がいるとは思わないだろう。寮に帰るまえまでの宗だって思いもしなかったことだ。
    「えっと……すみません。うちの天城が押しかけたんですよね。後で回収しておきます」
    「そうしてくれると助かるよ。ところで何か用事があって来たんじゃないのかね?」
     後ろで燐音が何かを言っているが、宗もHiMERUも構うことなく話を続けていく。
    「ああ、そうでした。先程瀬名先輩と同じ現場でして、忘れ物をしていたので持ってきたのですが……まだ帰ってきていないみたいですね」
    「ふむ。僕が渡しておけばいいのかね」
    「よろしくお願いします。瀬名先輩には予めホールハンズで連絡を入れているのでHiMERUからだと言っていただければ分かると思います」
     HiMERUから渡された物を宗は受け取った。HiMERUの用事はこれで終わったのだろう。同じユニットなのだからさっさと燐音を連れて行ってもらおう。宗がそう口にするより早くHiMERUが燐音の方に目を向けた。
    「天城、何の用があったのか知りませんが斎宮先輩の邪魔になりますから早く帰るのです」
    「俺っち別に宗くんの邪魔した覚えねェけど~」
    「邪魔しかしていなかったのだよ」
    「あっ、宗くんひでェ!」
     ひどい等と言いながら燐音はもうHiMERUの隣に並んでいた。どうやら本当に帰ってくれるらしい。宗は心の中だけで安堵した。
    「……うちの天城がすみませんでした」
    「じゃあ宗くん、ばいば~い」
     手を振る燐音に振り返すことはせずに宗は扉を閉めた。自分に声をかけてきたときよりも燐音の声色が幾分か楽しそうだったことには全く気付かずに。
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