朝隣で眠る我が伴侶たる相手の安らかな寝顔はいくら見ても見飽きることがないと、タンガロアは思う。目を覚まして一番にこの目に映る光景が、隣で何の不安なく安心しきった様子で寝入る愛しい相手の寝顔である度、胸に小さな火が灯るのを感じずにはいられないのだ。愛しき伴侶に安らかなひと時を己は与え、護ることが出来ているのだという安堵と喜び、幸福を噛み締めつつ、そうして胸底にある伴侶に対する愛しさであったり、この穏やかな時間を失わせまいという決意たちを取り出しては静かに確かめることが、タンガロアが伴侶と迎える一日の始まりなのだった。
窓から差し込む柔らかな薄水色の夜明けの光が、包むようにほのかにその顔を照らしている。いつまでもこの穏やかな寝顔を眺めていたいと思いながら、いつ目を覚まして己を見てくれるだろうとも待ち望む間に時間は過ぎて、やがて相手もまた目を覚ます。瞼がゆっくりと持ち上げられ、己の姿が薄墨色の瞳に映る。タンガロアは表情を緩め、その名前を静かに呼ぶ。低く落ち着いた声音に熱が籠る。
「……サモナー」
名を呼ぶと、ゆるゆると表情が解けていく。タンガロアの姿を認めた彼女もまたタンガロアの名を呼んだ。
「おはよう、タンガロア」
「ああ……」
ふふ、と吐息を漏らして微笑む姿と甘く胸に染み込む声がタンガロアの胸に火を灯す。沸き上がる愛しさのまま、彼は頬に手を伸ばした。褐色の厳つい手で陶器のような肌を撫でてそれから、身を寄せて口付ける。濡れた音を小さく響かせながら二度、三度と唇を啄めば、サモナーは拒むことなく応じ受け止めていた。心地良さそうな吐息さえ溢すものだから、タンガロアの中で愛しさが益々募っていく。口付けの行為がこんなにも心地好いものだとは知らなかった。唇を離して顔を見合わせた時、きっと己は甘ったるい顔を見せていることだろう。
名残惜しくも唇を離し、タンガロアはサモナーを見やった。タンガロア、と蕩けたような微笑みを浮かべ己の名を呼ぶ声は一層甘い響きを伴っていて、タンガロアを掴んで離さない。
「……起きるか、それとももう少し眠るか。俺はどちらでも構わぬが……」
腰まで伸びる艶やかな黒髪の一房を手に取りながら、そう言い終わるかしないうちに眷属たる白い大蛇たちがずるりと背の刺青から這い出てくる気配を感じて、タンガロアは口を閉じた。少し後ろに振り返って持ち上げた片腕に、二匹が体を擦り付けてくる。二匹は細長い舌先でタンガロアの指先と舐めると、サモナーの方へと顔を近づけていった。ほんの一瞬、少し驚いたように目を見開かせると、サモナーは笑って大蛇たちに手を伸ばした。己よりもずっと小さく華奢な手が頭を撫で、指先で喉元をくすぐる。その愛撫に満足すると、礼とばかりに二匹は頬に顔を擦り付けてこちらに戻ってきた。胴をゆらゆらとくねらせ、こちらの顔を覗き込む二匹の表情は心なしか嬉しそうで、タンガロアはふと息を吐いて微笑んだ。もう一度、眷属たちの頭を撫でてやる。
「いい朝だね」
サモナーに目を向ければ身を横たえたまま眩しげに目を細めてこちらを見て言った。