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    いずれ💀🐙になる仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話①
    気長に続きも書けたらなと思います。

    #イデアズ
    ideas

    ボードゲーム部は、文化部の中でも地味で大人しい部活である。
    軽音楽部のようにウェイな陽キャが新入生歓迎会で壇上からダイブすることもないし、サイエンス部のように変人が集って料理をしたり演劇の手伝いをしたりすることもない。所属するのはただゲームが好きなだけの目立たない生徒ばかりで、端から活動自体があまり活発とは言えないし、参加も自由だから所属してるだけの者も多い。一応新歓期間ということで活動日を増やしているこの一週間だって、部室にやって来てるのは精々四、五人だ。
    それでも平時に比べれば多い方だ。いつもは一人か二人、多くて三人。対戦相手がろくろくいないから来る者も減るという、分かりやすい悪循環である。
    もっとも、そんな所もイデア・シュラウドは気に入っていた。
    一人でひっそりと過ごしていたいイデアにとって、いつ来てもほとんど人のいない部室は貴重な安全圏だ。どうしても校舎に来る必要があるとき、あるいはデジタルではなく直接駒に触れてゲームをプレイしたいとき。イデアはこの人気のない部室の片隅で、一人盤面と向き合う。
    だから、まあ、この時期にやって来たのはイデアにとって失敗だった。
    いつもより人が多い。ほとんどが同じ寮の生徒だから教室ほど緊張はしないものの、限られた人数の中で何かしらのリアクションやコミュニケーションを要求されたらと思うとぞっとする。イデアはパーカーのフードを深めに被り、部屋の隅で一人チェス・プロブレムに興じながら退散する機会を伺っていた。
    理想は、他の部員の何人かが帰るタイミング。他人の物音と気配に乗じて少し遅れて部室を後にする作戦だ。しかしこの作戦は、誰かが席を立つまでイデアも帰れないという非常に効率の悪い作戦である。
    とはいえ、自ら機を作る勇気と度胸などないイデアには他に良い方法も浮かばない。いっそ弟に連絡して迎えに来てもらうことも考えたが、それはそれで他の部員の目を引くのは間違いない。
    どうしたものか、と考えながらイデアがチェスの手を思案していたその時、こんこんと控えめにドアをノックする音が聞こえた。
    自然と部室内の人間の視線がドアへと向かう。ノックなどするまでもなく部室のドアは開いているのだが、律儀に入室の伺いを立てるということはまず間違いなく新入生だ。また人が増える。しかも知らない人間だ、と胃が縮こまるのを感じながら、イデアもまたちらりとその新入生に視線を向けた。
    アシンメトリーに揺らめくシルバーの髪。一年生にしては大人びた、そして整った顔立ちには口元の黒子が映え、シンプルなデザインの眼鏡の奥には空色の瞳が覗いている。
    うわ、顔面SSR。
    イデアは遠目に盗み見た横顔にそんな感想を抱きつつ、この部活には似合わないな、とも思った。
    地味で目立たず大人しく、明るさや華やかさとは無縁の部活だ。部員のほとんどは活動に参加しないし、来たって各々に好きなゲームをして帰るだけ。ああいう人目を惹く容姿の人間は、演劇部とか映研とか、あるいは軽音部だとかグリークラブだとかの方が余程充実した日々を送れるだろう。……もっとも、今年の新歓を見て軽音部に入ろうという者はそういまいが。
    きっと何かの間違いで来てしまったんだろう。もしくは勘違いか。去年も見学に来た生徒はイデアの他にもいくらかいたようだが、イグニハイド以外の生徒は大抵辞めるか幽霊化していった。この子も見学だけで入部はしないか、仮に入ってもそう活動に来ることはないだろう。詰まるところ、イデアとは関わりないだろう人物だ。
    イデアは視線を戻してチェス盤に向き合い直した。さて、ここからどのタイミングで退室しようか。新入生が来て早々に退席するのも感じが悪いだろうか。いや、もう会うこともないだろう人間の印象など気にする必要もないか? そもそも何のきっかけもなしにチェスの盤と駒を片付けて席を立つのが難易度EXなのであって。
    そんなことを再びぐるぐると考え始めたイデアの元に、不意にそれはやってきた。

    「あー、イデア、丁度いい。相手してやれよ」
    「……ハ?」

    何を言われたのか俄かには理解出来ず、イデアは思わず顔を上げた。
    視線の先、入口のそばで新入生と話していた部員の一人がこちらを見ている。このボードゲーム部でも比較的コミュニケーションがましで、それ故に新歓の対応にも駆り出されている同寮の奴は、何をとち狂ったのか新入生の世話を丸投げしてきたらしい。
    イデアは数秒越しにそう理解すると、珍しく声を張って抗議の意を唱えた。

    「いやいやいや無理無理無理、根暗陰キャの拙者にきらきら新入生の相手なんか出来るわけなかろう 正気か」
    「そう言うなって! お前も一人だから丁度いいだろ?」
    「何も良くな……っあっちょっちょっとまって」
    「さ、アー……シェングロットくん、だっけ? あの先輩が対戦相手になってくれるから、好きなゲームで遊んでいてくれたまえ」
    「はあ……」
    「嘘でしょ……」

    この裏切り者。
    信じられないものを見る目で今世紀最大に愚かな采配をした部員を睨みつけるが、当の本人は新入生の背を押してさっと目を逸らす。この恨み許すまじ。今後は電子工学や情報の分野で何を聞かれても一切教えてなんかやらない、とイデアは固く心に誓った。
    そうこうしている間に、部員らのやり取りに怪訝な表情をしながら新入生の彼がイデアの元にやって来た。真新しい制服をきちりと身につけ、黒手袋の左手を胸に彼は口を開いた。

    「アズール・アーシェングロットです。よろしくお願いします」
    「あ、ああ……イ、イデア・シュラウド……よ、よよよよろしく……」

    その整った顔面に浮かぶ爽やかな笑みに視線を逸らしつつ、イデアは明後日の方向を向きながらもそう答えた。挨拶を交わしただけでも手汗が酷い。もう少し可愛げのある様子ならまだ良かったのに、一丁前にこの学園の生徒らしく胡散臭くて隙のない笑みだ。
    イデアはフードを深くして視線を合わせないようにしながら、とりあえず向かいの席を勧めた。アズール、と名乗った彼は失礼しますと断ると大人しく腰を下ろした。丁寧だが、丁寧すぎるとも取れる態度。一年生にしては本当に可愛げがない。
    向かい合ったはいいものの、これからどうしたものか。突如として降って湧いた高難易度クエストを前に、イデアは早々にして手詰まりを感じていた。

    「シュラウド先輩」
    「ひっ、あっ、なな、なに?」
    「これは、チェスというやつですか?」
    「えっ? そ、そうだけど……」

    目の前の新入生は真剣な顔でチェス盤を見詰めている。こんなものどこの国でも知られているゲームだというのに、まさか初めて見るのだろうか? ボードゲーム部なんてニッチな部活を訪れていながら、そんなことが有り得るのか。
    似合わないとは思っていたが。イデアは改めて彼の様子を眺めるが、どうやら芝居や演技ではなさそうだ。

    「チェスというのは、二人で行うゲームだと聞いていましたが。先輩はお一人で?」
    「う……こ、これはチェス・プロブレムって言って……作りものの局面と、提示された条件のもとで特定の解を導く……」
    「ほう」
    「……た、例えばこれは、あと三手で黒をメイトするのが条件で……」

    イデアのたどたどしい説明に、アズールは興味深そうに相槌を打つ。その視線は盤面に注がれたままで、僅かに皺の寄った眉間から察するに、その覚束無い知識でプロブレムを解こうとしているのかもしれない。
    とはいえ、時に天才とも謳われるイデアが興じる問題だ。ルールくらいは頭に入っていたとしても、初めて実物を見た程度の彼には相当難しいだろう。
    そう思って、なけなしの勇気で助け舟を出そうとしたところだった。

    「き、きみにはまだ難しいよ……他のゲームに」
    「……僕には解けないと?」
    「ヴェッ。こ、こここわい顔しないでっ。だってこれ上級者向けだよ……」

    心底心外だ、とでも言うように、可愛くない後輩はさらに可愛くない顔をする。美人が凄むと迫力があるのだ。こんなことで実感したくなかった、とイデアは若干涙目になりながらさっと視線を逸らした。
    ああ、もう、胃も心臓も心も痛い。針のむしろ。僕が何をしたっていうんだ。
    俯きがちに沈黙したイデアに悪いと思ったのか、新入生は戸惑いがちに口を開いた。

    「……すみません、怖がらせるようなつもりは」
    「……い、いや……こ、こちらこそ……」
    「ですが」
    「ですが」

    思わず身を縮ませるイデアなど気にも留めず、彼は少しばかりむすっとした顔をして続けた。

    「端から出来ないと侮られるのは、不快です。撤回を求めます」
    「……」

    イデアは子供みたいに顔をしかめるアズールを見つめた。胡散臭くて隙のない後輩だ、と思っていたのもつかの間、随分分かりやすい顔もするものだ。大人ぶるには、まだまだポーカーフェイスが足りていない。もっとも、年相応の振る舞いをしていた方が可愛げがあるというもの。
    イデアは目の前の後輩が思っていたよりはティーンらしい顔をするのを悪くないと思いつつ、それはそれとして自らの力量を測り違えて他人に噛み付くその姿勢は、純粋に感心しなかった。
    イデアはフードの端からそのしかめっ面を見つめ、先程までとは打って変わって落ち着いた声で口火を切った。

    「……でも、きみ、初めて見たんだよね?」
    「それは、そうですが……でも僕だってルールくらいは頭に」
    「ルール知ってる程度じゃ解けないんだって。これは実戦の練習用じゃなくて洗練された解を導くものだし、何の経験もなしに付け焼き刃にも満たない力じゃ到底無理」
    「なっ」
    「第一、拙者はまだ難しいって言ったの。分かる? 別にきみを軽んじたわけじゃない。初心者には初心者に適した問題があるし、まずは練習を積んで力をつけないと。自分の実力を見誤って身の丈に合わないことをするのはただ出来ないより尚悪い。……つまりきみにこの問題はまだ早いし、出来るかどうかの見極めすらつかないのに手を出して威嚇するなんてもっての外。お分かり?」
    「……」

    そうイデアが言い立てると、アズールは不服そうな顔をしながらも、分かりました、と控えめな声で答えた。無駄な反論は重ねてこない辺り、自分を客観視する力は元来備わっているのだろう。
    と、後輩の品定めをしているような場合ではない。
    見学に来た一年生を論破して黙らせるなど、新歓としては最悪なのではなかろうか。いや、イデアとしては新入部員がいようといまいとどうだっていいし、元を辿れば自分なんかが対応させられたことがそもそもの間違いなのだが。
    初めて会った人間との気まずい沈黙など、とても耐えられそうにない。イデアはやっちまったなあ、とどこか遠い目で自己嫌悪に陥りつつ、とりあえず現状を打開出来はしないかと恐る恐る口を開いた。

    「……あ、あ、アーシェングロットくん……? いや、えっと、言うても拙者の個人的な見解っていうか、その、ごめ、」
    「いえ。先輩の仰ることはもっともです」
    「あ、え? えっと」
    「確かに先輩の言う通り、僕にはこれを……チェスをプレイした経験もありませんし、実力が伴っていないのも事実です。でも経験を積んで力をつければ、この問いも解けるようになるんですよね」
    「え、う、ま、まあ……取り組みしだいだとは思うけど……」

    戸惑いがちにそう答えると、アズールは結構、と言って眼鏡を押さえた。それからふんっと得意げに笑うと、張りのある声で高らかにこう宣言した。

    「このアズール・アーシェングロット、必ずやこのプロブレムも解いてみせます。二度と実力不足だなどとは言わせません」

    ドヤア。
    そんな効果音が良く似合うその笑顔を、イデアは思わずぽかんと眺めた。いや、その自信は一体どこから来るんだ。そう問いかけてみたくなるが、中々どうしてその端正な顔立ちのドヤ顔は何だか愛らしく見えてくる。
    例えば、そう、百点満点のテストを見せびらかしに来た子供みたいな。
    イデアはそんな想像をしてくっと笑いをこらえた。目の前の後輩はむっと眉をひそめるが、なんでもないと手を振って答える。そんなイデアに咳払いをして場をとりなしながら、アズールはにこっと胡散臭い笑みを浮かべて言った。

    「そんな訳ですから、これからよろしくお願いいたしますね。シュラウド先輩」
    「……エッ」

    そう言ってすっと差し出された紙切れには、入部届けの文字とアズールの名前が踊っている。イデアはそれを受け取ることも出来ず、目をぱちくりさせて問いかけた。

    「……しょ、正気?」
    「勿論ですよ。陸のゲームには興味がありますし、あなたと過ごす時間も面白そうだ」

    ね、と言ってアズールが笑う。
    イデアはその無駄に爽やかな笑みに圧され、渋々と一枚の紙切れを受け取った。
    ボードゲーム部、入部届け。アズール・アーシェングロット。
    この紙切れの受領をもって、イデアとアズールのボードゲーム部での日々が始まったのだった。
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    MAIKING仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話②
    気まぐれに続きます
    陸に上がって初めてできた先輩は、何かと人の正気を疑ってくる失礼な男だった。
    陸の礼儀に則って完璧な挨拶をしてみせたというのに、衣服を深く被って視線を逸らす。その隙間から覗く黄金色の細い瞳と、青く揺れる髪が印象的だった。
    ああ、陸にはこんなものもあるのかと。
    共に海からやってきた双子も同じ色の瞳を持っているが、彼の黄金はどこか陰がさしていて、ただ輝くだけではなかった。どちらかと言えばその反対で、薄暗く見えるのに時折、ひらりと光を反射して瞬く。ほとんどが暗闇に包まれた海の底とは違って、地上は光に溢れていた。沈みゆく茜色の太陽に照らされて、その黄金色と、淡く揺れる青がきらきらと。
    彼の髪が「炎」というものだと知ったのは、後になってからだった。

    「シュラウド先輩。おはようございます」
    「……おはよう。きみ今日もいるの」
    「先輩だって来てるじゃないですか」

    入部した日から三日、アズールは放課後になるとボードゲーム部の部室へと足を運んでいた。
    散々こけにされたチェスの腕を磨きたかったのもあるし、彼の言う「他のゲーム」にも関心があった。部室には海の中で学んだものとは桁違いの数のゲームがあって、そ 2184

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    MAIKINGいずれ💀🐙になる仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話①
    気長に続きも書けたらなと思います。
    ボードゲーム部は、文化部の中でも地味で大人しい部活である。
    軽音楽部のようにウェイな陽キャが新入生歓迎会で壇上からダイブすることもないし、サイエンス部のように変人が集って料理をしたり演劇の手伝いをしたりすることもない。所属するのはただゲームが好きなだけの目立たない生徒ばかりで、端から活動自体があまり活発とは言えないし、参加も自由だから所属してるだけの者も多い。一応新歓期間ということで活動日を増やしているこの一週間だって、部室にやって来てるのは精々四、五人だ。
    それでも平時に比べれば多い方だ。いつもは一人か二人、多くて三人。対戦相手がろくろくいないから来る者も減るという、分かりやすい悪循環である。
    もっとも、そんな所もイデア・シュラウドは気に入っていた。
    一人でひっそりと過ごしていたいイデアにとって、いつ来てもほとんど人のいない部室は貴重な安全圏だ。どうしても校舎に来る必要があるとき、あるいはデジタルではなく直接駒に触れてゲームをプレイしたいとき。イデアはこの人気のない部室の片隅で、一人盤面と向き合う。
    だから、まあ、この時期にやって来たのはイデアにとって失敗だった。
    いつもより人が多い 5310

    Cornet_twst

    MAIKING💀🐙香/水パロ⚠n番煎じ⚠冒頭部分のみです⚠「別れましょうか」

    そう言って、真っ直ぐに自分を見つめるその空色の瞳を、今でも夢に見る。
    寝覚めはいつだって最悪だ。襲い来る自己嫌悪の嵐。何度忘れようとしたって無駄だった。それは空を見るたび、海を見るたび、胸の奥底から濁流のように押し寄せてくるのだから。
    我ながら、未練がましくて嫌になる。そもそも未練を抱けるような立場でもないのに。またこうして夢に見ては、取り返しのつかない過ぎた日のことを思い返して。
    イデアは、のそりと上半身を起こした。ベッドサイドの青白い装置の中で弟がスリープモードに入っているのを見て、今が日中でないことを知った。確か最後の記憶では夜中に帰宅してそのままベッドに倒れ込んだから、下手をしたら丸一日眠っていたのかもしれない。
    ナイトレイブンカレッジを卒業して、三年。
    イデアは魔導工学に特化した民間の開発機関で、研究員の一人として働いていた。
    働いていると言っても、学生時代からこの分野の最先端を独走して来たイデアは引く手あまただ。就職活動などするまでもなく、イデアの前には世界各国の研究機関から数え切れないほどのオファーが舞い込んできた。その中から、一番条件の良いものを選 1897

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