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    仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話②
    気まぐれに続きます

    #イデアズ
    ideas

    陸に上がって初めてできた先輩は、何かと人の正気を疑ってくる失礼な男だった。
    陸の礼儀に則って完璧な挨拶をしてみせたというのに、衣服を深く被って視線を逸らす。その隙間から覗く黄金色の細い瞳と、青く揺れる髪が印象的だった。
    ああ、陸にはこんなものもあるのかと。
    共に海からやってきた双子も同じ色の瞳を持っているが、彼の黄金はどこか陰がさしていて、ただ輝くだけではなかった。どちらかと言えばその反対で、薄暗く見えるのに時折、ひらりと光を反射して瞬く。ほとんどが暗闇に包まれた海の底とは違って、地上は光に溢れていた。沈みゆく茜色の太陽に照らされて、その黄金色と、淡く揺れる青がきらきらと。
    彼の髪が「炎」というものだと知ったのは、後になってからだった。

    「シュラウド先輩。おはようございます」
    「……おはよう。きみ今日もいるの」
    「先輩だって来てるじゃないですか」

    入部した日から三日、アズールは放課後になるとボードゲーム部の部室へと足を運んでいた。
    散々こけにされたチェスの腕を磨きたかったのもあるし、彼の言う「他のゲーム」にも関心があった。部室には海の中で学んだものとは桁違いの数のゲームがあって、そのどれもがアズールの興味を引く。特別ゲームが好きなわけではないが、古今東西から集められたそれらには一つ一つ物語があって、その集積はつまり陸の文化や歴史の縮図とも言える。
    ひとりの時は部室にあるゲームを片っ端からひっくり返して、他に部員がいる時はチェスの練習相手になってもらって。けれど手加減されているのかその程度なのか、「付け焼き刃」のアズールでも勝ててしまうのであまり練習にはならなかった。結局腕を上げるに足る相手は彼しかいないようだ、と思いながらそんな話をしたら、きみほんとに可愛くないね、とため息混じりに言われた。それはお互い様だろう。
    視線も合わなければ息をするように人を馬鹿にして煽り散らし、全くつくづく失礼な男だというのに、イデア・シュラウドは存外面倒見のいい男でもあった。どこぞの回遊魚よろしく、悪態をつかなければ死んでしまうのかと思うほどその口はよく回るが、プレイの戦略や展開に対する指摘はどれももっともで勉強になる。アズールのレベルに合わせておすすめだという指南書を渡された時には少なからず驚愕した。意外すぎて思わず素直に受け取ってしまったほどだった。後から対価は何かと尋ねると、数秒変な顔をして固まったあと、人を煽る時の笑い方をして言った。早く腕上げて拙者の相手になってよ、まあ無理だろうけど。本当に可愛くない人だと思いながら、アズールは青筋立てて望むところですと語気を強めたのだった。
    イデアが部室にやってくると、アズールはこの数日で随分使い慣れたチェス盤を持って対局を挑む。イデアは面倒臭そうな顔をしながらも席に着いて、アズールの相手をしてくれた。

    「今日もよろしくお願いします。シュラウド先輩」
    「ハイハイ。今日もさくっと終わらせるでござる」
    「ふん、そう言っていられるのも今の内です」

    事実として、アズールの実力は着実に上がっている。例え今日明日には難しくても、近い将来必ずイデアに勝ってみせる。アズールはそう意気込んで一手目の駒を動かしながら、彼の細い目が物言いたげに自分を見ているのを見落とさなかった。

    「何か?」
    「エッ」
    「何か言いたそうじゃありませんか。どうぞ」
    「え、あ、……や、大したことじゃ、ないけど」

    そう前置きしながら、イデアは自身のポーンを動かす。さっと伏せられたその視線は交わることなく、こういう時の彼の舌はいつもの半分も回らない。たかだか数日対話しただけでも、アズールはよく分かっていた。

    「その、名前…………ファミリーネームじゃなくて、さ」
    「……イデア先輩?」
    「あ、そ、そう、それで良いから……」

    そういうイデアの様子は、まるで何かに怯えているようで。アズールには、似たようなものに覚えがある。人の目、他人の目。自分を眺めるその視線が、恐ろしかった。
    嫌なものを思い出しつつ、アズールはイデアの言葉が親しくなったからファーストネームで、というようなものでないことは察していた。

    「僕は、構いませんが。何か理由でも?」
    「う、い、いや……あんまりファミリーネーム呼ばれるの好きじゃないから……」
    「……なるほど?」

    あまり答えにはなっていない。が、深追いするのも逆効果だろう。シュラウド、という名は確かに聞き馴染みのない姓だが、何か特別な意味でもあるのかもしれない。一度個人的に調べてみよう、とアズールは思った。
    それはそれとして、自分だけファーストネームで呼ぶというのも落ち着かない。アズールはにこりと笑んで口を開いた。

    「では、僕のこともアズールと」
    「え。……きみのその笑い方胡散臭いんだけど……ほんとにいいの?」
    「あなたも本当に失礼な方ですね。別に構いませんよ。アーシェングロットというのも長いですし」
    「あーね、まーね、思ってたけど。じゃあ、アズール氏?」
    「……氏? まあ、いいですけど」

    イデアの使う言葉はたまによく分からない。
    が、意思の疎通で困ったことはそれほどない。アズールは文字通りまあいいことにして、次の駒を動かした。この日も結局、ゲームはイデアの勝利で終わった。
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    MAIKING仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話②
    気まぐれに続きます
    陸に上がって初めてできた先輩は、何かと人の正気を疑ってくる失礼な男だった。
    陸の礼儀に則って完璧な挨拶をしてみせたというのに、衣服を深く被って視線を逸らす。その隙間から覗く黄金色の細い瞳と、青く揺れる髪が印象的だった。
    ああ、陸にはこんなものもあるのかと。
    共に海からやってきた双子も同じ色の瞳を持っているが、彼の黄金はどこか陰がさしていて、ただ輝くだけではなかった。どちらかと言えばその反対で、薄暗く見えるのに時折、ひらりと光を反射して瞬く。ほとんどが暗闇に包まれた海の底とは違って、地上は光に溢れていた。沈みゆく茜色の太陽に照らされて、その黄金色と、淡く揺れる青がきらきらと。
    彼の髪が「炎」というものだと知ったのは、後になってからだった。

    「シュラウド先輩。おはようございます」
    「……おはよう。きみ今日もいるの」
    「先輩だって来てるじゃないですか」

    入部した日から三日、アズールは放課後になるとボードゲーム部の部室へと足を運んでいた。
    散々こけにされたチェスの腕を磨きたかったのもあるし、彼の言う「他のゲーム」にも関心があった。部室には海の中で学んだものとは桁違いの数のゲームがあって、そ 2184

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    MAIKINGいずれ💀🐙になる仏゛部のふたりが仲良くなるまでの話①
    気長に続きも書けたらなと思います。
    ボードゲーム部は、文化部の中でも地味で大人しい部活である。
    軽音楽部のようにウェイな陽キャが新入生歓迎会で壇上からダイブすることもないし、サイエンス部のように変人が集って料理をしたり演劇の手伝いをしたりすることもない。所属するのはただゲームが好きなだけの目立たない生徒ばかりで、端から活動自体があまり活発とは言えないし、参加も自由だから所属してるだけの者も多い。一応新歓期間ということで活動日を増やしているこの一週間だって、部室にやって来てるのは精々四、五人だ。
    それでも平時に比べれば多い方だ。いつもは一人か二人、多くて三人。対戦相手がろくろくいないから来る者も減るという、分かりやすい悪循環である。
    もっとも、そんな所もイデア・シュラウドは気に入っていた。
    一人でひっそりと過ごしていたいイデアにとって、いつ来てもほとんど人のいない部室は貴重な安全圏だ。どうしても校舎に来る必要があるとき、あるいはデジタルではなく直接駒に触れてゲームをプレイしたいとき。イデアはこの人気のない部室の片隅で、一人盤面と向き合う。
    だから、まあ、この時期にやって来たのはイデアにとって失敗だった。
    いつもより人が多い 5310

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    MAIKING💀🐙香/水パロ⚠n番煎じ⚠冒頭部分のみです⚠「別れましょうか」

    そう言って、真っ直ぐに自分を見つめるその空色の瞳を、今でも夢に見る。
    寝覚めはいつだって最悪だ。襲い来る自己嫌悪の嵐。何度忘れようとしたって無駄だった。それは空を見るたび、海を見るたび、胸の奥底から濁流のように押し寄せてくるのだから。
    我ながら、未練がましくて嫌になる。そもそも未練を抱けるような立場でもないのに。またこうして夢に見ては、取り返しのつかない過ぎた日のことを思い返して。
    イデアは、のそりと上半身を起こした。ベッドサイドの青白い装置の中で弟がスリープモードに入っているのを見て、今が日中でないことを知った。確か最後の記憶では夜中に帰宅してそのままベッドに倒れ込んだから、下手をしたら丸一日眠っていたのかもしれない。
    ナイトレイブンカレッジを卒業して、三年。
    イデアは魔導工学に特化した民間の開発機関で、研究員の一人として働いていた。
    働いていると言っても、学生時代からこの分野の最先端を独走して来たイデアは引く手あまただ。就職活動などするまでもなく、イデアの前には世界各国の研究機関から数え切れないほどのオファーが舞い込んできた。その中から、一番条件の良いものを選 1897

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