初恋を俺にくれ 隣で眠る男の顔は、髭があってなお可愛らしくこの目には写る。下がった眉、少し間唇から覗く白い歯。バラ色の頬。ふわふわくるくるとした髪。その全てが甘く可愛らしく、そして空を飛ぶ時の凛々しさと雄々しさが今は鳴りを潜めて目の前で眠りを享受しているのだから、それくらいには心を許しているのだと喜んでも良いのではないだろか。しかもその男は隣で、『俺の家の、俺のベッドで』一緒に寝ているのだ。
マーヴェリックとのわだかまりは全てではないにしろ、かなりの移動距離を行き来してでも会うくらいには回復し、そして修復中だとこの男から直接聞いたのだ。近くまで来ているんだから顔くらい出せとメールした結果、マーヴェリックと改めて会うのに緊張していたのか酒の周りが早く、モーテルにたどり着けずに俺の家に泊まった日の夜に。
ルースターはそのままソファで寝落ちして、体を折り曲げつつその大きな体をソファの上で横になれるように整えて、風邪を引かない様にブランケットを掛けてやった。いつもの習慣で早い時間に起きると、ソファには文字通りの鳥頭をした雄鶏君が云々唸りながら首をさすっていたのだ。寝違えた首を抑えながらまたルースターはマーヴェリックに会いに行った。
久し振りの数日の休みを有効活用し、家じゅうの掃除をあらかた終えた頃。夕日を背に再びルースターは俺の家に来た。手には俺の好きなビールを数本手にして、俺の玄関に立つあいつの首にはてらりと光るジェルが塗ってあった。
招き入れたあいつがソファに座り、その首をじっと立ったまま見下ろすとあいつは
「寝違えたって言ったら、マーヴが塗ってくれた」
そう照れくさそうに、でも嬉しそうに言ったあいつの顔がずっと忘れられないものだった。俺が知っているどの表情よりも自然体で柔らかく、温かくて。だが、胸を突く痛みだけは経験したことがあるそれだった。否定したくても過去の俺が付きつけてくる、何度か身をもって知っているその正体は『恋の痛み』だった。
俺の口はいつもの調子を忘れたように
「そうか」
その一言しか出てこなかった。あいつは手元を覗き込んでモバイルにテキストを打ち込んでいる様で、そこにちらと『マーヴ』の単語だけが強調されたかのように俺の目に飛び込んできた。その時、恋の痛みを訴えてきた胸が主張したのは、黒くどろりとした嫉妬。