「宇宙」「テント」「輝く大学」 この大学は宇宙についての学問に力を入れています。天体学を始めとして、栄養学(宇宙食開発)、工学(ロケット等開発)、心理学(閉鎖環境での心理的負荷について)、etc etc、クラブ対抗運動会で無重力ルーム使った宇宙遊泳を種目に取り入れるほどのガチっぷりです。
ちょっとやりすぎ? ま、そんだけ万事が万事宇宙に根差してる宇宙馬鹿の集まりってことです。わたし? わたしは……ちょっと毛色が違いまして。それで郊外の林にテントを建てて、ひとりでお茶を飲んでるってわけです。
うーん、説明が難しいなぁ。わたしはですね、そのー、好きな人に会いたくてこの大学に来たんですよ。いやいや違います。ここの大学生じゃないです。教授でもないです。事務員さんでも用務員さんでもない! 違います!
いやその人だけ受験落ちたとかでもなくってー。わたしの好きな人、あの星の向こうにいるんですよ。
あれもう五年前か。はい、わたしが今よりもっといたいけだった頃ですね。はいツッコミはいらないです。
朝ひとりで散歩してたら、知らない子の声が聞こえてきたんですよ。聞こえてきたっていうか自分の中に響いてきたんですね。いえ違います。心の病気じゃないです。ちょっと黙って聞いてください。
えーとですね。その子、ここどこって泣くんですよ。こっちもわけわかんないじゃないですか。そんでとにかく宥めすかして、でも泣き止まなくて、しまいにゃ面倒になってそのまま学校行ったんです。
薄情とか言わないでくださいー。反省してますー。んで、いつも通りの日常をまぁその子の声を無視して過ごしたんですよ。わたし以外に聞こえてなかったみたいだし。
そしたらその子、段々泣き止んで、アレなに? これなに? って色々聞くんですね。こっちには当たり前なことを。なんで建物が光ってるのとか。そしたらこっちもつい答えを思い浮かべちゃうじゃないですか。知らなかったら調べたくなるじゃないですか。はい。
まぁその、それがですね、ちょっと楽しくて。わたし笑っちゃったら。その子も笑って、ありがとうって。そのとき、その子の顔が見えたんです。そんな気がしただけですかね? まぁ、はい、一目惚れです。
ちがいますー! 幻覚じゃないですー! ちゃんと検査受けて証明されましたー。はいこれ! 第三級霊視能力証明カード! ふっふーん初めて見ました? 三級とはいえそこそこレアですからね。
うん? ああ、はい。その子の星、ちょうど砕けたところだったみたいなんですよ。ほら、星の光ってこっちに届くまで時差があって、爆発した星の光が何年も変わらず届くみたいな。だいぶちがう? そうかもですね。
まぁ、で、その砕けた光に乗った魂のひとつを受信しちゃった、ってのが事の顛末です。はい。もういない人に恋しちゃったわけです。不毛? 殴りますよ。
だってわたし、悔しかったんですもん。悔しくて、悔しくて、猛勉強してこの大学受かったんですよ? すごくありません? いやまぁそりゃ周囲の純粋に宇宙好きな人からはちょっと浮いてますけど。
いえ違います。ボッチじゃないです。友達います。たまに息苦しくて抜け出しちゃうだけです。今がまさにそうです。はい。だから大丈夫です。不毛だなんて言わないでください。殴りたくなるので。
いや殴れないですよ。うん? あ、自覚なかったんですか。はい、その子のときと同じ……あっ違います大丈夫ですあなたの星滅んでないです! わたしが訓練して生きてる人の魂も受信できるようになっただけです!
はい、そうです、死んでないです。寂しいわたしと偶々波長があっただけですから。一夜の夢みたいなもんですよ。気にしないでください。
訓練がてら、みんなといっしょにいるときに寂しくなったらひとりでこうして、同じように寂しい人とおしゃべりするようにしてるんです。捕まらないときもありますけどね。釣りみたいなもんです。
うん? ちゃ、っと……? てなんです? へー、そんなのあるんですか。へーテレパス機能ないとそういう方向に文明発達するんですね。思考翻訳は問題なく働いてるし、同じ概念もちょこちょこあるみたいだけど、面白いなー。
え? ふふ、そうですね。異星文化交流のほうに進むのもいいかもな。でも、やっぱりまずは、あの子の星の残り香を探したいです。わたしの原点なんで。
それじゃ、このへんで。あなたの星、なんて名前なんですか? 地球? ふふ、はい、いつか会えるといいですね。それでは。いつかまた。