「林」「アルバム」「正義の脇役」 アルバムにある林間学校での写真の隅に、目立たない子が写っている。
友達ではなかった。名前も思い出せない。写真を見て、ああこんな子いたなと思い出す。その程度の関係だった。
好きでも嫌いでもないというのは簡単だが、正直に無関心だったと言ったほうがまだしも誠実だろう。その子がどんな子だったのか、わたしは知らない。体育は苦手だったように思う。勉強はどうだったろうか。美術は? 音楽は? 何が好きで、嫌いだったのか。何も覚えていない。
ひとつだけ、覚えていることがある。林間学校で川を渡るとき、わたしはキーホルダーにつけていた布製の飾りを泥に落として汚してしまった。当時好きだった漫画のキャラクターのグッズで、友達には笑って誤魔化したけど、内心ひどく落ち込んだのを覚えている。
その後のことだ。誕生日に、当時の友人達がこぞってそのキャラクターに因んだプレゼントを贈ってくれた。とても嬉しかったが、気恥ずかしかった。そんなに入れ込んでいたのを打ち明けたつもりはなかったし、周囲に悟られていたとは夢にも思わなかった。
そのときのことを、今でも付き合いのある友人にこぼすと、教えてくれた。ああそれは、あの子が教えてくれたんだよ。
そうしてわたしはアルバムを引っ張り出して、当時の写真を眺めている。
あのとき人知れずわたしを喜ばせてくれたささやかな恩人は、写真の隅でひっそりと、わたしのほうを見ていた。