「台風」「扉」「燃える関係」 嵐が来たわ。扉を閉めたの。ええ、ふたりきりね。あなたとわたし、ただそれだけ。ああ、雨音がうるさいわ。風が雨戸を叩いてる。見て、雷だけがわたしたちの明かり。それでいいの。
ええ、世界にあなたとわたし、ふたりきり。それでよかったの。これがいいの。これだけで、わたし満足なの。どうして、ただそれだけのことが叶わなかったのかしら?
嵐が来たの。あなたが他の人と笑い合うたび。私は走り去って扉を閉めたわ。だって、雨音がうるさくて。雷が眩しいの。目を開けてられない。風が。わたしを叩くの。耐えられない。
どうして、世界にあなたとわたし、ふたりきりじゃなかったの? そうじゃないと耐えられない。あなたがわたしに笑いかけてくれたなら。それだけで良かったのに。
嵐が来るの。あなたがわたしに笑いかけるたびに。扉を閉めて、閉じ込めたくなる。雨がわたしを濡らすの。冷えて、肌が熱い。雷がうるさいわ。あなたの顔が見えない。あなたの声を、風がさらってしまう。
こわいの。世界にあなたとわたし、ふたりきり。しあわせすぎて、嵐が来るわ。扉を開けて、去ってしまう。やめて。いかないで。ここにいたいの。ここにいさせて。どこにもいかないで。
嵐が来るわ。火を点けたの。あなたとわたし、ふたりきり。雨にだって消せないわ。雨戸を風が叩いてる。雷が叫んでるわ。扉を開けろって。いやよ。いや、いや、いやなの。誰にも邪魔させないわ。
嵐が来たの。あなたがここにいる。他には何もいらない。なのに、あなたは去ってしまう。扉を開けて。満足してくれない。いやなの。火を点けたわ。雨にだって消させない。扉を閉めて。ここにいて。それだけで満足なの。
どうして叶わないの?