告白 昨日、芥川に告白してされた。
『君と僕が恋仲になってみても面白いんじゃないかな』
同道した散歩の途中での事だった。あまりに平素の雰囲気だったので冗談かと顔を上げたが、自分を見つめる目に真剣な色を見つけて息を呑んだ。
『よく考えて答えて欲しい。待つから』
室生はその返事をしようと図書館を歩き回って、ようやく彼の姿を見つけた。人気のない中庭に誘うと芥川も心得たように頷いた。
「一晩考えたんだが」
「うん」
四阿のベンチに座って室生は切り出した。心地の良い風が通る。
「作家としてのお前は、俺にとって理想だ。文学に対する姿勢を尊敬している。教養のある佇まいは羨望してやまないし、それでいて隣人としてのお前には親しみを感じている」
「うん、嬉しいよ」
「お前の今の、姿形も好ましい。いや、好きだ。他にも美形は大勢いるが、ここで一番、至上だとすら思っている」
「うん?」
「だからこそ、だ。隣にも美しいものを置きたい。分かるだろう?」
「いや、さっぱり分からないよ。なんでそう繋がるの」
「以上の理由でお前とは恋仲にはなれない。これは俺の如何ともし難い好みの問題なんだ。すまん」
「いや、納得できないよ、僕の好みの問題はどうなるんだい」
「お前も美人は好きだろう」
「それはそうだけど、芥川龍之介には特に美人でもない愛人もいたよ」
「……」
「なんで不満そうなの」
「別に」
「うん、わかった。一週間、時間を置こう」
「なんで受け入れることが決定事項になってるんだ」
「だって僕、犀星からの好意しか聞かされてないよ」
「ねえ君、実は動転してる?」
「そんなことはない。若造じゃないんだから、一晩あれば落ち着く」
「そう」
「なんだよ」
「犀星はかわいいね」
「お前、何を、突然」
「あーーーーーー!!」
「こんな子供っぽいの、お前がっかりしただろ。撤回するなら今の内だぞ」
「忠告には感謝するけど、それはないかな」