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    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
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    ちょこ

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    チェス盤
    現パロ、よその子さんお借りしてます

    「ちっちゃくて気づかなかったわ」
    「蹴るぞお前!」
     高校の廊下、時間はもう放課後になっており、今から部活動に行く生徒や帰り支度をする生徒、帰る様子もなく友達と話している生徒もいた。先程の会話をしていたリュカとユアンは、それぞれスポーツをしていた。リュカはフェンシング、ユアンはアーチェリー。お互いに選手として成績を残しており、こうやって軽口を叩き合いながらもプロになろうと約束もしていた。約束するほど仲がいいのかなど言うと、二人は口を揃えて『それはない』と言うのだが。
    「お前、この前の大会優勝しただろ」
    「俺様負けねーしな」
     自信満々にそう答えるリュカを見ていると、本当に負けない気がする、と呆れつつユアンは時計を見る。
    「やべ、急がねぇと」
    「あ? 何急いでんだ?」
    「今日練習場所違うんだよ、いつも使ってる所点検で使えないし。少し遠いからもう行くわ」
      いつも使っている練習場所は、リュカが使っている場所に近いためなんだかんだ二人とも一緒に行くのだが、一週間前点検で使えないと連絡があり、その場所はあまり行ったことがない所だった。道に迷って練習時間が減るのは嫌なため、スマホで地図アプリを開きながら確認する。
    「歩きスマホすんなよ~、お前チビだから運転手が見逃すぞ」
    「しねーよ! 殴るぞお前! じゃっ!」
     ユアンはキーッ! と言いつつ学校を後にする。道を歩き、立ち止まって地図アプリで道を確認しつつ歩く。少し遠いが迷う道では無いため、ここからは大丈夫だなとスマホをカバンの中にしまう。
     歩いていくと横断歩道が見えてきた。横断歩道の前には、七歳くらいの女の子も横断歩道の前で止まっていた。あそこで渡ればすぐだ、とユアンは歩いている時違和感を覚えた。
     向こうから来る車の様子がおかしいのだ。まだその車は遠くの方にいるが、フラフラと蛇行運転をしているようにも見える、対向車線に車が走っていないからいいものを、もし走っていたら事故を起こしそうな程に危険な運転をしていた。そして、信号が赤になり、横断歩道が青になる。横断歩道の前で止まっていた女の子が歩き始める。だが、その車がスピードを落とす様子がない事にユアンは荷物を捨てるように投げて、全力疾走した。女の子は車の存在に気づき、恐怖で固まってしまっていた。
    (おいおい!? なんであの車スピード落とさねぇんだ!? 女の子が轢かれる!)
     全力で走る、横断歩道で固まっている女の子の腕を掴むと、歩道側まで力強く引っ張り飛ばした。もう少し優しく助けたかったが、状況がそれを許さなかった。恐らく女の子は大丈夫だろう、ユアンはそう思うと安心した。
     そして、ユアンに強い衝撃が襲った。

     夜、月が見えない新月。少し息を切らしたリュカが病院の中へ入る。練習が終わった時、リュカのコーチが慌てた様子でリュカを呼んだのだ。コーチの口から言われた言葉に、リュカは目を見開いた。
    「ユアンが事故にあった」
     その言葉を飲み込む前に、リュカは練習場所から走り出した。病院内は昼間と違って外来は閉まっており、誰もいない。静かな誰もいない、薄暗い空間だけが広がっていた。手術中のランプが光っている扉の前で、ユアンの両親が居ることに気づいた。ユアンの母親がリュカが来たのに気づき、リュカの元へ行く。
    「リュカくん、来てくれたの……?」
    「おばさん……あいつに何があったんだ」
    「目撃者がいて……危険運転してた車が信号無視して……横断歩道を歩いてた女の子を助けて轢かれたって……。すぐ病院に運ばれたけど、体を強く打ったから……」
     そう言うと、母親はハンカチをギュッと力強く握りしめていた。恐らく先程まで泣いていたのだろう、目元は赤くなっていた。父親が母親の肩に優しく手を置く。
    「リュカくん、送っていくから……。来てくれてありがとう。……あの子なら大丈夫」
    「…………」
     リュカは何も言えずに、ユアンの父親と共に病院を後にした。お互い無言のまま、送迎が終わったあとに父親から後で連絡を入れると言われ、今日は終わった。いつも通りになるはずだった日常が、狂った感覚だった。
     数週間後、面会の許可がおりたと連絡が入り、リュカはまた病院に訪れた。あの時の静けさとは違う、患者がいて、看護師がいる病院内をすれ違いながらユアンのいる病室へと足を運ぶ。ユアンの病室は個室と聞いており、その病室の前に来ると、少し深呼吸をしたリュカは勢いよく扉を開けた。
    「よぉ~、元気か?」
    「うぉ、ビックリした……。ノックくらいしろ! 全く……」
     数週間振りのユアンは、右手だけではなく、腕全体に包帯が巻かれていた。腕だけではなく、脚も、服の上からは見にくかったが、チラリと胸元にも包帯が巻かれていた。事故にあってここまでの怪我をしたというのに、ユアンはいつも通りに見えた。
    「いやー! 当たっちまったわ! 女の子も無事だって聞いたし。良かった良かった、早くリハビリして治さないとな~」
     そう、いつもみたいに笑っていたからだ。他の人が見たら、そう思うだろう。だが、リュカはいつものような軽口を叩くことなく、口を開いた。
    「おい、空元気すんな。俺しかいないだろ、ここには」
    「……」
     リュカの一言で、先程まで笑っていたユアンは固まった。おもむろにリュカから目を逸らすと、目を伏せてポツポツと話し出す。
    「……検査して、脳には異常なかったんだ。……退院したらリハビリとか検査はしなきゃだけど……。………リハビリで日常生活には支障は無くなるだろうって……けど、けど……」
     ふるふると毛布を掴む手が震えていた。そして、ポタ、ポタと音がする。ユアンが、ボロボロと泣き出していた。試合に負けても、何があっても泣かなかったユアンが、ボロボロと泣いていた。
    「もう、競技するのは無理だって……。事故の影響で身体ボロボロになったみたいで……。…………もうプロになれない、選手に戻れない。約束破っちゃった……」
     両親の前でも我慢していたのだろう、ユアンは縮こまるように、体を丸めて泣き続けた。女の子が助かったと思った気持ちも本心で、そして今、悔しくて悲しくて泣き続けてるのも本心で、その気持ちがせめぎ合ってぐちゃぐちゃになっていた。
    「んだよぉ……いつもみたいになにか言えよ……。空元気だって見破ったくせにさ……」
    「……」
    「……わり、今日はもう帰ってくれね。……ありがとな、来てくれて」
     リュカの顔を見るのが辛くなり、そう言ってユアンは顔を逸らす。リュカは黙ったまま病室から出ていった。それが彼なりの優しさなのだろうと分かり、ますます目の前の風景が涙で歪んで見える。
     医者からそう言われた時、それでも諦めずにリハビリをすれば選手として戻れるのではと考えた。諦めなかったら、そう思ったのだが、奇跡はそう簡単には起きない。自分の体は自分がよく分かっている、感覚ですぐにわかった。本当に二度と選手として戻れないと痛感した。いつまでも悲観してはいけない、とユアンは目を擦る。深く深呼吸をする、これから自分はどうすればいいのか。

     一ヶ月が経った、数日後には退院する。あれほどの事故に逢い、怪我をおったというのに一ヶ月で退院出来たのは、ユアンがリハビリなど頑張った結果なのだろう。そんなユアンから病室に来て欲しいと連絡があった、あの日以来来ていなかったリュカはおもむろに病室の扉を開ける。
    「ノックしろって言ってるだろ!」
    「おめーしかいないから大丈夫だろ」
     あの時の空元気とは違い、いつもどおりのユアンだった。ユアンは早く座れとどこかウキウキとしており、椅子に座ったリュカを見たユアンは笑顔で話す。
    「俺考えたわ。考えた結果、社長になってお前をアスリート社員として雇うってことに決めたわ」
    「は?」
     突拍子のないユアンの話に、リュカは気の抜けた声が出た。ユアンは冗談で言ってるようには見えず、ユアンは話を続ける。
    「目標は決めた、大学在学中に起業して社長になる。簡単な道じゃないのは分かってるけど、決めた」
    「……本当に脳は無事だったか?」
    「お前殴るぞ。……お前はプロになるだろ、いや、なれる。……勝手なことを言うけど、俺の代わりに夢を叶えろ。俺の夢も持っていけ、俺はもう選手には戻れないけど、夢を手伝うことは出来る」
     そう、ユアンはずっと考えた。ずっと考えて、考えた結果、その道に決めた。リュカの道を手伝おう、と。リュカなら負けない、折れないはずだ。勝手な事だが、自分が果たせなかった夢をリュカに託そうと決めたのだ。一方、ユアンの話に頭を少し抱えるリュカ。
    「……突拍子ねぇなぁ……。お前らしいといえばらしいけど……。お前、言ったからな?」
    「あぁ、大舟に乗ったつもりでいてくれ」
     ユアンはそう言って笑う。もうその笑顔に迷いもなく、無理に笑っている様子もない。


     後に、本当に大学在学中に起業し社長になり、その会社が大きくなり、リュカに話を持ってくるのはまた別の話。
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