まーたこの光景だよ、と里は冷めた目をして見ていた。仕事の帰り道、出勤順でバディを組んでいた芽白───自分をこの世界に連れ込んだ張本人が、女性に声をかけられていた。どう見ても女性より歳上なのだが、歳上の色気というのか、よく声をかけられていたのは知っていた。以前、断る理由で自分を使われたため、助け舟を出す気はさらさらなくそのまま素通りしようとした矢先、おもむろに肩を掴まれた。
「はぇ」
なんとも情けない声が漏れたが、抵抗する間もなくバランスを崩しかける。なにするんだ、と文句を言おうと顔を上げると、目の前には芽白の顔が近くにあった。
「えっなに」
里が混乱しているのを横目に、芽白の顔はまた近づき、そして耳に入る音が聞こえた。その音に里は固まる。チュッ、と聞こえたのだ。その音というか、行為をドラマなどで見たことがある、いわゆるキスだ。
1898