僅かなページは埋まらずに CQ×2というニジゲンの元に運ばれて、治療を受け、それから幾日が過ぎた。創はベッドの上からぼんやりと部屋の壁を見ていた。あの後自分の名前が【江波戸 創】ということは聞いたのだが、それを聞いてもなお、しっくりこなかった。創、なにかをつくっていたのだろうか、なんて思いながら。
最初の頃よりだいぶ怪我の状態はよくなっていた。だが、包帯を変える時、CQ×2がどこか申し訳ない顔をして創の胸を触る。胸には痛々しい傷の跡が残っていた。CQ×2から聞いたのだが、どうやら自分は認可で没討伐をして大怪我をおい、ここに運ばれたらしい。その時の傷だと教えてもらった。
「この傷だけどうしても治らなかった」
「……別にいい、痛くないし」
創はそう微笑んだ、記憶すらない自分に対してここまで治療してくれたのだ。CQ×2には恩がある、そんな命の恩人に創は心配かけないように笑った。創はそうだ、とCQ×2に提案した。
「俺、だいぶ動けるし、お前の手伝いさせてくれないか?」
「俺の?」
「その、医療行為はできないけどさ、薬品持ってくるとかなら出来るから。ダメか?」
「それなら大丈夫だ、体動かすからリハビリにもなるだろうし」
CQ×2の返答に笑顔になる創、こうしてベッドの上でじっとするのも苦痛だったからだ。前より体を動かしても痛みはなく、物を取るくらいなら出来るとずっと考えていた、そして少しでもCQ×2に恩返しが出来たら、なんて思っていた。
「なら今から」
「だめだ、今日までは休む。明日から頼む」
「う、はい……」
CQ×2は創の反応を見て笑うと部屋を出ていった。本当に大丈夫なのにな、と創は不貞腐れそうになったが、ふとずっと思っていたことがあった。
誰か自分の事を見守ってくれてるような気配を感じるのだ、CQ×2以外の誰かの気配。自分に声をかけることもなく暫くするとその気配は消えるのだ、けれど、その気配を自分は知っている。でも思い出せない。
「……いつか」
いつか記憶が戻ったら、その相手も思い出せるのかな、と思いながらそっと目を閉じた。
創が寝た時、そっと中に入る一人の人物。それはCQ×2ではなく、黙って創の寝顔を見ていた。
「……」
その人物は何も言わずに創の頬を触ると、そっと部屋を出る。その時ちょうどCQ×2と鉢合わせた。
「声くらいかけたらどうなんだ」
「……俺はまだ、創には」
そういって去っていった相手の後ろ姿を見るCQ×2、その顔は呆れも混じっており、思わずため息を吐いた。
「まったく……」
難儀な奴だ、とCQ×2は去っていった相手───創のニジゲンであるカインを見るしかできなかった。