缶コーヒー「あ、やべ」
業務の合間の少しの休憩時間、凪は創務省内にある自動販売機の前でそう呟いた。飲み物を買おうと財布を開けたのだが、丁度小銭がない。札で崩そうかとおもったが、万札しかなかった。どうしようかな、と凪は頭をかいたとき、丁度誰かが来ることに気づく。髪を結んでおり、首にゴーグルをかけていた相手に、凪は声をかける。相手も凪に気づいたのか手を振りつつ近寄ってくる。
「凪じゃん、どうしたー? 突っ立ってて」
「瀬戸さん〜、奢ってくださぁい〜。小銭なくて、万札しかなくて……」
凪より年上の先輩である瀬戸に、凪は両手を合わせて頼む。相手は奢るのが好きなはず、何度か奢ってもらったことがあるし、と凪はチラリと目を開ける。相手はニカッと笑って財布を取り出した。
「いいぜ〜、何にするんだ?」
「わーい! 瀬戸さんありがとうございます!」
小銭を入れた瀬戸が先に選んでいいと凪に言ってくれた、凪は飲みたかったコーヒーを買う。その後瀬戸もコーヒーを買って飲んでいた。
「いつもより美味しく感じる〜」
「調子のいいやつだなぁ」
「えー、そんな事ないですよ。あ! お礼に昼奢りますよ。辛いの好きでしょ瀬戸さん。俺がいつも行く店あるんで行きましょ」
凪はコーヒー缶を捨てて瀬戸にそう提案した。まだ昼を決めてなかった瀬戸は、凪の提案に快く了承してくれた。昼休みになったらここに集まろう、と約束をして瀬戸と別れた。廊下を歩きながら凪は考えていた。瀬戸は優しい、兄貴分みたいな性格で、頼りになる。自分の上司ももちろん尊敬している、けれど瀬戸みたいな頼れる相手にもなってみたいわけで。
「憧れるなぁ」
いつか自分もあのようになれたら、と笑って思うのだ。