とある人物からみた三人 自分はどこにでもいる普通の男子高校生だ。自分の学校には、誰もが知っている有名な同級生二人がいる。自分達と同じ高校生なのに、あの認可に所属しているのだ。認可ということは、作品を作ったりするのだろう、自分も実はそういった創作に興味があるが、いかんせん第一歩を踏み出せていない。認可になったからといって、そこから作者として自分の名前が売れるか不透明なのだ。
そうこう言っていたら、有名人である二人───灰野琥珀と江波戸創が教室にいた。二人とは挨拶程度はするが、あまり詳しく話したことがない。創に関しては、性格が明るいからか、いつもクラスの中心にいる人気者、といった立ち位置だった。創の親友だという琥珀は、創と真逆な性格で、物静かで自分から騒がしくするといったことは見られない。
けれど、一度話したことがあるが、自分にとっては創より話しやすいかもしれない、と思った。やや人見知りがあるからだろうか。最初は口数の少ない琥珀だったが、ちゃんと分からない所は教えてくれるし、こちらを気にかけてくれる。優しい性格なんだな、と自分はそう思った。創は明るく話してくれるが、たまに疲れる時がある。それと比べると、琥珀の方が自分にとっては話しやすい。
そんな二人は最近、この学校に転校してきた御手洗鈴鹿とつるんでいた。鈴鹿に関しては、少し怖いなと自分の中のイメージがそう思っていた。噂では喧嘩もしているらしい、前の学校とトラブルを起こした……などよく聞く。そんな相手とつるんで大丈夫なのか、と心配してしまう。
そもそも、二人といる時の鈴鹿と、二人以外の、言うなれば自分達と話す時の鈴鹿の態度が違うのも知っていた。二人といる時の鈴鹿は、よく笑うような気がするが、自分らと話す時の鈴鹿は笑った顔を見せない。この差はなんだろうか、と思いつつふと見ると、創が教室からいなくなっていた。どうやら先生に呼び出されたらしい。琥珀は反対に席に座り何か書いていた。どうやら創を待っている間に、宿題を終わらせようとしてるのだろう。
そういえば、今日の授業で分からない所があったのを思い出す。琥珀なら教えてくれるかも、といつもなら大体そばにいる鈴鹿が居ないため、話しかけやすいなと思いつつ、自分は琥珀に近寄った。
「なぁ灰野」
「どうした?」
声をかけられて琥珀はこちらの方へ顔を向ける。創の顔立ちは言わずと知れた、まるでアイドルのような綺麗な顔立ちなのだが、反対に琥珀はまるでモデルのようなまた違う綺麗な顔立ちだ。しかも優しい、ここは男子校なのだが、琥珀はよくラブレターを貰っていると聞いていた。もちろん男子校のため相手は男からだが、確かに好きになる理由はわかる、と思った。
かくいう自分も、琥珀だったら付き合えるかもな、なんてほんの少しの下心を持っていると、突然体が固まる。何かに睨まれたような、そんな感覚が襲う。
「え、なに……」
「え、どうした……? 顔色悪いけど……」
琥珀から言われても、何故か誰かから睨まれてる感覚が抜けない。まるで蛇に睨まれた蛙の気分だ。ふと、視線の先───琥珀の後ろを見て思わず悲鳴をあげた。
「ぎゃぁ!? み、御手洗!?」
「えっ、鈴鹿がなに……?」
「……御手洗って呼ばないでくれね?」
そこには鈴鹿がいたのだ。いつも髪を縛っているはずなのに、今回に限って結んでなかったのだ。だから鈴鹿が居ることに気づかなかったわけなのだ。というか、なぜ自分はこうも鈴鹿に睨まれているのだ? と焦りが生まれる。鈴鹿はそう言うが、まだ自分を見ていた。
「え、えと……」
「顔色悪いけど保健室一緒に行くか……?」
「えっ、いや、大丈夫! それじゃ!」
「え、おい!」
怖い、と自分は思わずそのまま教室を飛び出す。飛び出した時、誰かにぶつかりよろけそうになったが、肩を掴まれた。
「おっと、大丈夫か?」
そこには先生に呼ばれていた創がいた。どうやら用事がおわったらしい、至近距離で創の顔を見て固まる。自分も同じ男だというのに、何故こうも顔立ちに差が生まれるのか。あと、まだ背中から感じる睨みがきていることに気づき、慌てて創から離れた。
「だ、大丈夫……! また明日! さよなら!」
「え、おう。さよなら……?」
そう言って廊下を走る。なぜ鈴鹿から睨まれたのか、意味がわからず内心泣きそうになりながら、そのまま立ち去った。
一方、創は琥珀と鈴鹿の方へ行く。
「わりー、待った?」
「宿題してたから大丈夫」
「なんでお前毎回呼び出されるわけよ……」
「俺がイケメンだからかな!」
「…………」
「ごめん、調子乗った」
琥珀と鈴鹿の沈黙にどこか虚しくなりながらも、帰り支度をする。創はふと、鈴鹿の頭を撫でた。
「おい創、なに」
「んー? いや、なんか怒ってるかなって」
「……? 鈴鹿なんかあったのか?」
「……別に」
そう言って目をそらす鈴鹿に対して、少し考える創。少し機嫌が悪そうに見えたのだが、鈴鹿は隠すのが下手だなと笑いつつ、口を開く。
「鈴鹿、俺らの部屋くる? 勉強教えて欲しいなー」
「認可の仕事で途中で早退多かったしな……鈴鹿いい?」
「いいよ」
「よーし、なら寮行くか」
そう言って三人で教室を出る、いつも二歩くらい後ろを歩く鈴鹿の手を取り、横に並ばせた。
「おい創」
「お前も隣に来るのー」
「すれ違いそうになったら避ければいいし」
笑っていう二人に、頭をかく鈴鹿であった。