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    ナガレ

    ほとんど書きかけ。書き上げたらぷらいべったー(https://privatter.net/u/7nagare_na)に移して非公開にしています。ツイッター @7nagare_na

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    ナガレ

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    もだもだぶぜまつ(未成立)意識しまくりで複雑なお年頃。

    豊前と松井と洗濯物の話「手伝いありがとう。今日中に収穫できてよかったよぉ」
    「そーか。そりゃよかったな」

    豊前江が桑名江に「暇なら畑仕事手伝って」と畑に連れ出されたのは昼過ぎの事。明日の天気は雨だから、今日中にできる限りの作物を収穫したいらしい。畑仕事はあまり乗り気のしない豊前だが、そういう事情なら仕方ない。首にタオルを巻き、両手に軍手をはめて黙々と作物を収穫する事にした。
    刈り取っては籠に入れて、千切っては籠に入れて、引っこ抜いては籠に入れて。桑名からここによろしくと頼まれた籠が作物で一杯になる頃には、日が西の地平線に向かって傾き始めていた。

    「明日からは雨続きだし、洗濯当番も今日中に色々洗わないとって張り切ってた」

    それは豊前も知っている。今日は同胞の篭手切江が洗濯当番で、洗面所で会った時に「汚れものがあれば洗濯に回してくださいね」と言われたのだ。そういう事ならといくつか汚れた衣類をまとめて洗濯機に突っ込んでスイッチオン。朝餉が終わる事には洗濯が終わっていたので、干し場の隅を借りて干してきた。薄手の衣類ばかりだからもう乾いているはずだ。後で回収しに行かねば。
    決まった時間までに取り込まれなかった洗濯物は洗濯当番がまとめて回収し、所有者のわかる物は所有者の元へ、所有者のわからないものは畳んで置き場に置かれる。この時間だと干しっぱなしだった豊前の洗濯物は洗濯当番に回収されているだろう。後で置き場へ取りに行こう。
    豊前がほぼ半日しゃがみっぱなしで縮こまってしまった体を伸ばしていると、桑名がぽつりと呟いた。

    「さっき松井が洗濯物を取り込んでいるのを見たけど、今日って松井も洗濯当番だった?」
    「いや、知らねーけ、ど……」

    松井が洗濯物を取り込んでいた。その一言で豊前は思い出した。朝、何を干してきたのかを。そしてさあっと血の気の引いていく音を聞いた。それは見られて困るものではない。ないけれど、そういう問題じゃない。後で、なんて悠長な事を言ってる場合ではなかった。

    「……すまん。急用を思い出したから先に戻る!」
    「え!ちょっと豊前!」

    収穫した作物を厨に届けるまでが畑仕事。いくら打刀の中では力のある桑名でも、これだけの量を一度に運ぶ事はできない。葉物は短刀達が先に厨に運んでくれたが、重たい根菜類は残っている。今日は力自慢の刀達が揃って不在にしているから豊前を手伝いに呼んだのに。
    また今度手伝うからそれでチャラにしてくれと桑名に詫びを入れると、豊前は洗濯当番達が洗濯物を畳んでいる部屋に急いだ。彼がそれを手に取ってしまう前に、一刻も早く。

    * * * * *

    「洗濯物、今日中に乾いてよかったですね」
    「そうだね」

    縁側に面した一室、通称・洗濯部屋。簡素な整理棚だけがどんと置かれたこの部屋は、取り込んだ洗濯物を畳むために使われている。整理棚には名札が貼られており、所有者のわかる洗濯物はそれぞれの名札のついた棚に置かれる仕組みだ。
    今日の洗濯当番は篭手切と堀川国広、それと臨時で松井江。朝から晴天だった事、明日の天気予報は雨である事、その二つが重なって今日の洗濯機は午前中ずっと動いていた。当然、洗濯物の量もそれに比例する。乾いた大量の洗濯物を取り込むのに格闘していた二振りを見かねた通り掛かりの松井が手伝いを申し出たというわけである。
    まずは布巾や共用のタオルを畳み、次にこの時間までに取り込まれなかった個刃の洗濯物を畳んでいく。男士の中には勝手に畳まれるのはちょっと……という者もいたが、それなら洗濯当番よりも先に来て取り込めばいいだけの事。もしくは共用の干し場ではなく自室で干せばいい。大所帯で共同生活を送る以上、一定のルールは必要だ。

    「今日は大量だ」
    「こんなにも天気がいいとお洗濯したくなるからね」

    てきぱきと手を進める篭手切と堀川を微笑ましく見守る松井。次はこの山を片づけようかなと洗濯物の山に手を伸ばし、山の一番上にある黒色の洗濯物を手に取ったその時だった。

    ――ダダダダダダッ

    勢いよく廊下を走る足音。その足音はこちらに近づいてきている。一体誰だろうかと三振りは顔を見合わせた。

    「……それ、俺んだから貰ってく」

    ぱしっ。開けっ放しの部屋の前で急ブレーキをかけて止まった豊前が、松井の手から洗濯物を引ったくるように奪い取った。

    「あと、これとこれと……これも」

    内番着の替え、寝間着代わりにしている着古したTシャツ、靴下。素早く洗濯物をいくつか手に取ると、豊前は部屋に入ってきた時と同じ勢いで出て行った。その早業に篭手切は「りいだあ?」と尋ねるのが精一杯だったし、堀川もきょとんとしたまま見送る事しかできなかった。松井に至っては固まったままだ。

    「松井さん……?」
    「あれ、豊前のだったんだ……」

    黒色のボクサータイプ。それ自体は万屋街にある衣料品店で三枚いくらで売ってるものだし、松井も色違いで同じ物を持っている。が、持ち主を知ってしまうと何となく恥ずかしかった。
    呻きながら顔を覆って俯いてしまった松井に慌てる篭手切と堀川。松井が顔を覆ってしまった理由は何となくわかるから、何と声を掛ければいいのかわからなかった。
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