分厚い雲に覆われた鈍色の空。肌にまとわりつく空気は過分に湿気を帯びており、大粒の雨が降り出すのは時間の問題であると示唆している。
申し訳ないけれど今日は非番にしてほしい。廊下から重暗い曇天の空を見上げた松井は執務部屋に出向き、審神者にそう切り出した。期日の近い書類は無いし、今は事務仕事の手も足りている。一振り抜けても支障ないと判断した審神者は松井を非番にした。
「すまないね。この埋め合わせは今度する」
執務部屋を退出した松井は厨で白湯を貰った。向かう先は自室の近くだが、自室ではない。隣の隣の部屋だ。
「……豊前、調子はどう?」
「松井……」
松井の隣室は桑名で、その隣は豊前。松井の目的地は自室の隣の隣にある豊前の部屋だった。極力音を立てないように部屋の障子を開けると、部屋の中には二つ折り座布団を枕に臥せっている豊前がいた。
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