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    つばき

    椿。ナルサスナルミツモクチェズなど。

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    つばき

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    モクチェズ作業進捗

    #モクチェズ
    moctez

     大人になると大事なことほど言葉で伝えなくなる。

     それはお互いに言わなくてもわかるだろうという共通認識があるからでもあるし、言葉にするのが気恥ずかしいからでもある。
     だから俺達の関係性についてわざわざ明言したことはなかった。「相棒」であることは間違いないし。チェズレイも直接的な物言いをするタイプではないから言葉遊びも多いし。掘り下げんでいいかい?とはぐらかす癖もまだ直っていないし。とひとしきり脳内で言い訳を重ねたところで、頭を抱える。

    (昨日のはもう、言い訳しようもないよねえ……)





    「チェズレイ、もう寝るかい?」
    「いいえ、まだ付き合いますよ」
     下戸だと言ったチェズレイが晩酌に付き合ってくれる夜は日常になりつつあった。晩酌といっても全く飲まない時もあれば、舐める程度のお付き合いの時もある。でもその日は珍しく、二人でどぶろく一瓶を空けようとしていた。
     顔色も声色も変わっておらず、ちょびちょびとお猪口を傾けながらしっとりとお酒を楽しんでいる。ように見える、が動作が少し緩慢で目線はお猪口の中の水面に注がれている。まだまだ酒には慣れておらず、やはり強くはないようだ。
     ぼうっと手元を見つめていたが、ぽてりと俺の肩に凭れ掛かる。これは飲ませ過ぎたなとお猪口を取り上げて、そこに残っていたどぶろくを飲み干した。
     飲んじゃった、っとお茶目に許しを請おうと横を向くと、ぶつかりそうな程近くにチェズレイの顔があった。思わぬ近さにわっと声を上げることも出来ず、軽口も飲み混んで込んでしまった。
     あまりにも、綺麗な横顔だった。イケメンって怖い。なのに杯を奪われ、空になった自分の手を唖然と見つめるその顔があどけなくて可愛いとも思ってしまう。
    「穴を開けるつもりですか?」
     視線を外せないでいると我に返ったチェズレイが、ニコリとこちらを見た。
     ほんっと綺麗な顔だね〜おじさん顔が近くてテレちった。そう言うつもりの口は何故か、その綺麗な顔の唇に口付けていた。
     見開かれる目。突然のことに驚いたのはチェズレイだけではなかった。相手の同意も取らず接吻してしまうなんて、自分でも吃驚する行動で。それは反射に近かった。

    「お、おじさん酔っ払っちゃったみたい〜」
     ゆっくりと唇を離して、なんとか捻り出した言葉。チェズレイの顔を見れそうに無くて、目を逸らしたまま身を引けば腕を掴まれた。
     再び唇が重なる。確かめるようにゆっくりと押し当てられた唇は熱かった。その熱さは全身に駆け巡り、熱に浮かされた頭でチェズレイを掻き抱いた。背中へ回した手は広い背を撫でた後、乱れたシャツの合間を縫って素肌を伝った。滑らかな肌の感触に思わず唾液が溢れると、触れ合う唇からくちゅりと音が鳴った。もっと触れたいと強く抱けば、後へ重心が傾いて身体がソファへと沈んだ。体の上にチェズレイが重なると口付けはいっそう深くなる。そして唇だけでなく鼻や額がぶつかり、どんどん重くなっていく。異変を感じて、お、おじさん潰れちゃうっと、身動ぎすればころりと胸の上に頭が転げた。
     そのまま身動きが取れずにいるとドキドキと煩い鼓動以外に、すーすーっと息が漏れる音が聞こえた。
    「チェズレイ……?」
     小さく呼びかけるも返答は無く。胸の上で寝息を立てるチェズレイは寝落ちてしまったようだった。
     額を手で覆いながら、ハァーっと大きく息を吐く。
    「やっぱり飲み過ぎはいかんよなあ……」
      少しホッとしたような、がっかりしたような気持ちだった。そーっとチェズレイの下から抜け出せば、空のどぶろく瓶を蹴ってしまった。
    「おっ、とと」
     鈍い音を立てて転がった瓶を拾って立てる。それにしてもあのチェズレイの意識を奪ってしまうなんて、お酒恐るべし。けれど流石に記憶までは奪ってくれないだろうという確信があった。
     関係を進めてしまった。もう元には戻せない。
     ソファに横たわる身体をゆっくりと抱き上げて、寝室へと運んだ。移動させても寝息は規則正しいままだった。
    「……おやすみ、チェズレイ」
     綺麗な寝顔を見ながらこの据え膳には手を出せないと思うのだった。





     一夜明けて。
     チェズレイは朝からシャワーを浴びていた。
     その音で起きて今に至るがチェズレイと顔を合わせるまで残された時間は残り僅か。
     もう、言い訳の仕様は無いと腹は括ったけれど……好き、とかおじさんにはハードルが高いなぁ。愛してる、はちと重すぎるかなぁ。
     そうこう悩んでいるうちにドライヤーの音が止まる。

    「おはようございます」
    「あ、ああ。おはようさん」 
     バスルームから出て来たチェズレイは風呂上がりだというのにアイロンがかけられたシャツをぴしりと着ていた。いっそう美しくなった髪を靡かせながら歩いて来て、隣に腰掛ける。じっ、と左頬に視線が刺さる。
     宣告を受けるような気持ちでそわそわと落ち着かないでいると。
    「モクマさん」
     質すように諭すように名前を呼ばれた。
    「あのね、そのー」
     腹を括ったと言いながらも言い淀んでしまうのは許して欲しかった。見上げると視線がぶつかる。おずおずと膝の上に置かれた手の上に手を持っていき、尋ねた。

    「……触ってもいい?」
     恐る恐る聞くと、目を見開いて驚く。
    「……朝からですか?」
    「……や、違うくて!手!! 握ってもいい?」
     すると視線を手に落とし、それから何とも形容し難い顔をした。
    「もちろんです」
     風呂上がりだけれど手は無防備だった。手袋をしていない手に許可を得て手を重ねれば、フフフと妖しく笑うのと対照に照れたような表情を浮かべ、きゅっと遠慮がちに指を握り返された。
    「あぁー、一生守り手するね、俺……」
     自分より大きい大の男なのにいじらしい行動に胸が締まった。
    「……? 今更、何を言ってるんです。はぁ……慣れない、ですね……」
     手を見つめながら言うその言葉からチェズレイの素肌に触れられることはそれだけで特別な事だとわかる。大事にしよう……そう思いながらも触れている手の甲がしっとりと柔らかで、その肌がいかに滑らかだったか、昨夜の事を思い出してしまった。
    「やっぱり……ちゅーくらいはしてもいい?」
    「フフフ……どうぞ」
     恥も外聞もなく言えばチェズレイは目を伏せる。窓から入る朝日に照らされて、美男はキラキラと輝いていた。王子様にときめくように年甲斐も無くドキドキする。頬へ手を添えると僅かに口元が弛んだ。王子様のような男を目の前に“らしい”言葉は結局飲み込んでしまう。ただお姫様にするように優しく、薄い唇へキスを落とした。
     王子や姫なんて柄にもない下衆と悪党の関係はこれでいいのかもしれない。
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