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    n_h_0614

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    n_h_0614

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    りかおせ🤍💙

    https://poipiku.com/1334829/9108960.html のつづき
    次は https://poipiku.com/1334829/9109013.html

    #りかおせ
    rikaose
    #カリ腐マ
    crsm bl

    (未完)「あの子に会える魔法の小瓶」No.022.
    ――結局いつもこうなる。
    風呂から上がり、水を飲もうとリビングに向かいながら理解は思った。
    些細なことで大瀬は謝る。俯き苦しそうに。それを見て、理解も苦しくなる。
    苦しめたのは私なのだろうか。いや、私は悪くない。
    恋人について知りたいと思うことが、悪であるはずがない。
    理解の思考は堂々巡りしていた。
    自分は悪くない――なら、大瀬が謝るべきなのだろうか。それもまた違うように思われた。

    「あ、理解君」
    リビングには騒がしい先客がいた。
    理解に気づいたのは依央利だった。
    その声に、右手にワイングラスを持ったテラがこちらを向く。
    こいつらは、また飲んでいるのか――と理解は呆れる。
    「理解君も座って!白湯でいいんだよね」
    依央利が立ち上がった。
    彼らの前のテーブルにはワインの瓶、ビールの缶、つまみが広げられている。
    「まったく――」
    パジャマ姿でも装備している、理解の笛が鳴り響いた。
    「お酒なんて百害あって一利なしでしょう!飲酒は様々な内臓疾患や認知症の原因にもなると――」
    「わかったわかった」
    テラが煙たそうに手をふる。
    「片付けなさい。寝なさい」
    「ちょっと、テラ君に八つ当たりするのやめてくれる?」
    「――なぜ私が八つ当たりなんかしなくちゃいけないんですか」
    さあね、と言ってテラはワインを口に運んだ。
    テラは本当にわかっているのだろうか、と理解は思う。動きは鈍くなっており、いつもより滑舌も悪くなっていると自覚しているのだろうか。
    なぜ多くの人は命を危険にさらしながら、恥をかくリスクを冒しながら酒を飲むのか。理解にはよくわからなかったし、わかろうとするつもりもなかった。一時の高揚感を得られたとしても、失うものと天秤に乗せて釣り合うものではないだろう。
    「理解君、僕のいた席に座ってて!その辺にあるもの飲んでいいから!」
    キッチンに移動した依央利が声を張る。
    ふと理解は、テラと依央利に挟まれて席がひとつ空いていることに気が付く。以前理解が二人に捕まったときに座らされたポジションである。
    空席の前には、ビールが一缶。先客だろうか?
    「理解君」
    テラが呼びかける。
    「私は飲みません。飲酒なんて愚かな行為です。それに今日は――とてもじゃないがそんな気分ではないんです」
    「今日だからこそだよ」
    そのとき。

    「理解さーん!」

    突如理解の耳に届く、己の名を呼ぶ高く澄んだ声。
    次の瞬間、背中に何かがぶつかる衝撃。むせかけたが痛みはない。
    ”それ”は後ろから腕を回し理解を抱きしめた。
    「だ、誰だ!」
    この家の住人なのだろうか。この家の中にいるのだから。いや客かもしれない。この時間に?
    理解は混乱の極致にいたが――声には聞き覚えがある気がした。
    硬直したまま目線だけ動かしてテラと依央利を見れば、
    「トイレ行く前からあんな感じだった?」
    「いいえ――」
    などとヒソヒソ話し合っている。
    「理解さんってば!」
    そしていきなり理解の視界を埋め尽くしたのは、緩く波打つ空色の髪。
    「え――?」
    その隙間からカナリアイエローの瞳が覗く。その人は――
    「お、大瀬、君――?」
    これは――幻覚か?
    大瀬は笑った。
    彼の笑顔を見て、色彩豊かな南国の花を思ったのは初めてだった。
    白い頬は生気に乏しく、しっかり食べているのだろうかと理解はよく不安になっていた。それが今は赤く染まっている。一点の曇りもない、雪のごとく白い肌と、健康的な木苺色のコントラストに目が痛くなるようだった。
    頬と同じ色の目尻に、縁取られた瞳が潤んでいる。理解を真っ直ぐに見上げる、小鳥の羽と同じ色。普段地面ばかり睨んでいたそれはいま光を受けて、見たことのない鮮やかな色彩を見せていた。
    その全てが、溢れんばかりの喜びを表している。
    理解がここにいることへの喜びを。
    驚き――あるいは見惚れて、理解はしばし動けなくなる。
    「そうです、大瀬ですよ」
    理解の問に、ありのままの事実を返す幼い声。そこには、苦いアルコールの香りが含まれていた。
    「君――酔っているのか」
    事情がわかって、理解は現実に引き戻されていく。
    私はずっと、君のことで悩んでいたというのにという苛立ち。
    「飲ませたんですか?」
    これはテラと依央利への問だった。
    大瀬が自分の意志でこの二人の宴会に加わり、酒を飲むとは思えない。
    「そんなに怒る?」
    と言ったのはテラ。
    理解はずっと悩んでいた。
    拒絶された怒りと悲しみ。だが一方で、大瀬はどんなに落ち込んでいるのだろうかと思っていた。それが。
    「ああ――大瀬さん、理解君の部屋の前にいたんです」
    依央利が慌てて言った。
    「ノックしようか迷ってたから、理解君はお風呂ですよって言ったんです。そしたら死にそうな顔になって――というかこのまま部屋に帰したら本当に死ぬかも、って思って、連れてきて――」
    「逆に感謝してほしいくらいなんだけど。というか狭い家の中で喧嘩しないでくれる?テラ君ストレス感じてるんだよね」
    「テラさん!」
    たしなめたのは依央利。理解は睨んでいた。
    しかしテラは全くブレなかった。
    「でもさあ、お酒入ると本性出るって言うでしょ。理解君も聞いたことはあるよね」
    「本性?」
    「お酒入ってた方が、お互い話せることもあるんだし、ちょうどいいんじゃない?」
    理解が下を向けば、大瀬の顔が、互いの頬や鼻がかすめるほどすぐそこにあった。
    ――近い。
    理解はとっさに、両腕で大瀬の体を引き離した。
    「私も確かに、大瀬君と話したかった」
    「じゃあ」
    「でもこれは大瀬君ではない」
    は?というテラの声には苛立ちがあった。
    「理性の箍が外れた人間が、奔放な振る舞いを見せるのは当然でしょう。それは、単なるアルコールへの生理的な反応です。でも私は、その箍こそが人格を作り上げると、理性も含めてその人間なのだと思います。理性が損なわれているなら――それはただの獣」
    「――本人の前でよく言うよね」
    「獣の状態を本性と言われることに、私だったら耐えられない――これは大瀬君ではない」
    理解が大瀬を見れば、目を丸くして、不思議そうに理解を見つめていた。
    言葉の意味もわかっているのやら。
    「大瀬君、さっさと寝なさい」
    理解は大瀬の手を引いてリビングから出ていこうとした。
    健康を害する、悪徳を助長するアルコールから、大瀬を遠ざけねばと思った。
    さっさと元に戻ってもらわなければならない。理解はいつもの、あの俯きがちな大瀬と対話しなければならない。
    後ろから、
    「テラさん、いおくん、おやすみなさい」
    という普段より幼い声と、おやすみ、おやすみなさい、という二人の返事が聞こえた。

    ===
    理解は、寝袋に入り上半身だけを起こした大瀬と対峙していた。
    「ほら、もう寝なさい」
    理解が肩を押すと、大瀬はきゃあと笑って床に手をつく。その拍子に、緩くウェーブした前髪がふわりと目にかかった。
    大瀬は高く澄んだ声で楽しそうに笑っている。笑うと肩が揺れた。
    まるで小さな子供の相手をしているようだった。
    理解がため息をつくと、大瀬の笑い声が止んだ。
    なんだろう、と思って見れば、大瀬の目は好奇心にまん丸に見開かれ、視線は理解の胸のあたりに注がれていた。
    大瀬の興味の対象は、どうやら理解の首から下がる銀色の笛らしい。
    目の色やその気まぐれさに、猫に似ている、と理解は思った。
    そのまま大瀬は手を伸ばす。
    理解は慌てて、笛を隠すように手で覆った。
    「見せて」
    なんの躊躇いもなく言う大瀬。
    「人のものに勝手に触ってはいけません」
    それは私のことじゃないか、という心の声を振り払う。
    少し不満げに「はーい」と言った大瀬が、そのままふああ、とあくびをして長めの袖で口を覆った。
    「もう眠るんだ」
    大瀬は素直に寝袋にくるまった。
    毎日寝袋で寝て、体が痛くなったりしないのだろうか、と理解が思っていると、
    「あっ」
    と言って大瀬が再び半身を起こそうとした。
    「なんだ、どうしたんだ」
    「トカゲのライト、消さなきゃ」
    「ああ――じゃあ私が消そう」
    また大瀬が覚醒して、先ほどのやり取りを繰り返すと思うと気が遠くなる。
    理解は立ち上がり、トカゲのケージの前に立った。
    スイッチを探しながら、
    「このトカゲ、名前はなんというんだい?」
    と、日中聞けなかった質問をしてみた。
    「わかんない」
    だが大瀬はきっぱりとそう言った。
    「そうか」
    起きた大瀬に聞いてみようか、と理解は思う。
    「スイッチはどこにあるんだい?」
    自力で探そうとしていた理解だったが、見つからず根負けして、寝袋の大瀬に聞く。
    「コンセント抜いてくださーい」
    「――わかった」
    なんだか納得いかぬまま、言われた通りコンセントを抜く。
    ライトが消えケージの中が暗くなるが、名前の分からぬトカゲは特に反応を示さなかった。
    「理解さん」
    背を向けたままの理解に大瀬が呼びかける。
    「なんだい?」
    「そいつのこと、好きになってくれてありがとう」
    「――え?」
    理解は振り返った。
    寝袋はデスクの陰に置かれているため大瀬の顔は見えない。
    「それは、いつの」
    「今日、理解さん、寝てるそいつを見てたでしょ」
    「お――覚えているのか?」
    理解は慌てて大瀬の傍らに戻る。
    「理解さんとあいつにだけ、光が差してた。きらきらしてた」
    大瀬は遠く、宝物を眺めるような瞳で語った。
    「――幸せだった」
    睡魔に絡め取られかけているのか、言葉はぽつぽつと途切れていた。
    「でも、君は、最高に幸せだと思った瞬間に死にたくなるんだろう?」
    朱色の目尻と長い睫毛に縁取られた瞳が理解を見た。
    「だって、理解さんが死んじゃ駄目って言ったから」
    「それも――」
    ――覚えていたのか。
    そう伝えたときには結局彼の行動を止めることはできなかったが、自分が発した言葉は、ずっと、大瀬の中に残っていたのだろうか。
    そう聞こうと思っていた矢先、前触れもなく、大瀬の表情が沈んでいった。
    どうして、と理解が思っていると、大瀬は寝袋で顔を覆い、
    「理解さん、あのとき、僕のこと嫌いになった?」
    と、小さな声で言った。
    作品を見せられなかったことを言っているのだろうか。
    「ごめんなさい」
    その言葉の弱々しさに、理解の胸は痛んだ。
    嫌いになったか――その答えなど決まっている。
    理解の中にはただ、大瀬に受け入れられなかった寂しさがあった。もう怒りはない。
    強いて言うなら、何が彼をそうさせるのか、その答えが欲しかった。だが答えを得ることが難しい事もまたわかっていた。
    本当は、早く、ぎこちなくも温かい、元の関係に戻りたかった。それが何よりの願いだった。
    寝袋の開口部から、空色の頭が覗いている。撫でてやりたかった。
    だが、理解はためらっていた。この大瀬を受け入れられなかった――いや、受け入れてはいけないと思っていた。
    もしもいま、姿以外は何もかも変わったこの大瀬を受け入れてしまったら、愛おしく思ってしまったら――それは理解の知る大瀬という人への、一人思い悩んでいたという、理解の知る大瀬への、酷い背信になるのではないか。そう思っていた。
    だが。
    「君は、本当に大瀬君なのか」
    理解は問うてしまった。
    何気ない一瞬を、昔伝えた言葉をずっと覚えてくれていたこの人が。貴方といたあの瞬間自分は幸福だったと伝えてくれた人が――大瀬であってほしい、そう思ってしまった。それなら理解は救われる。
    理解はそっと、大瀬の髪を撫でた。愛しい柔らかな感触。
    大瀬の、まだ誰にも見せたことのない一面に、アルコールが初めて光を当てたのだ。
    大瀬の複雑な魂の一部が、外から触れられる形で浮かび上がったのが――「この子」なのではないか。きっとそうだと理解は信じた。
    すると、大瀬がおずおずとその瞳を覗かせた。理解は笑い返す。
    大瀬は、小さな花が咲くようにぱっと微笑み、そして理解の手を取った。
    理解の手が、それより少し小さい大瀬の両手に包まれている。
    「理解さん、おやすみ」
    幸せそうに大瀬が瞳を閉じた。
    理解も「うん、おやすみ」と答える。
    やがて、大瀬のたたえていた微笑みが、ゆるゆると解けていく。
    あとには、ただひたすら無垢な寝顔だけが残った。
    理解は、魔法が解けた瞬間を見たように思った。
    大瀬の手からもすっかり力が抜けていたが、理解はしばらくそのままでいた。
    いつもよりほんのり赤い気がするその手は、見た目の通り温かかった。

    つづく
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    PROGRESS6月りかおせWEBオンリー発行予定、りかおせ新刊「竜の住む館」サンプル

    文庫サイズ/?円/全年齢

    発行時にはここから文章の微修正があります、ご了承ください。

    おとぎ話パロです。
    発行時はこの前に「むかしむかし、あるところに」で始まる文章が入ります。
    完全無欠のハッピーエンドはないかもしれませんが、最後は「二人は、いつまでも幸せに暮らしました」で終わります。

    ⚠本編は流血表現ありになる予定
    6月発行予定りかおせ小説「竜の住む館」冒頭まだ日が沈むなのに、その森の中はひどく暗かったことを、理解はよく覚えていました。

    生い茂る糸杉の木はどれも空を刺すように高く伸びて、地面に降り注ぐはずの陽の光をほとんど奪っています。
    そこは暗くて寒くて、不気味な森でした。
    理解はなぜ、そんなところを一人歩いていたのでしょう。理解はそのときその森で、村の子供を探していたのです。
    理解は、森の東の村で警吏さんをしていました。警吏さん――いま皆さんが知っているお仕事では、お巡りさんが一番近いでしょう。
    お巡りさんがそうであるように、警吏さんのお仕事は悪い人を捕まえることだけではありません。しかも東の村の警吏さんは理解一人だけだったので、理解は色々なことをしていました。村人同士のケンカや言い争いを解決すること、なくなった物やいなくなった人を探すこと、危ない場所に誰も入れないように鎖をかけたりすることも、理解の大事なお仕事でした。理解はさらに、村人たちが健康的な生活ができるよう朝起きる時間や体によい食べ物は何かを教えたり、子供たちに読書や勉強の大切さを説いたりと彼が思う正しさを村の中に広めようともしていました。理解自身は、毎日自分は素晴らしい仕事をしているという充実感に溢れていましたが――村の人たちに受け入れられるのは、もう少し時間がかかりそうでした。
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    n_h_0614

    MAIKINGりかおせ🤍💙

    https://poipiku.com/1334829/9108960.html のつづき
    次はまっててね
    (未完)「あの子に会える魔法の小瓶」No.033.
    目覚ましが鳴る少し前に、理解は目覚めた。
    大瀬のところへ行かなければ、最初に考えたのはそれだった。
    もし昨日の記憶があるなら、激しい自己嫌悪に襲われているかもしれない――死のうとするかもしれない。
    眼鏡をかけてベッドを降りる。
    顔を洗うだけの猶予はあるだろうか、と思いながらドアを開けると、ガンッという音とともに何かにぶつかる感触があった。ドアの向こうに人の気配があった。それが一歩遠ざかる。それとともにドアの可動域が広がる。
    その隙間から、理解が恐る恐る顔を出すと。
    「昨日は、本当に、本当に――」
    言葉がまとまらず、深々と頭を垂れるのは大瀬だった。
    「大瀬君、いま扉がぶつかっただろう。大丈夫か――」
    「問答無用で死刑だってことは自分でも重々承知しているのですが、せめて理解さんのお望みの死に方を選ぶことでその怒りを1グラムでも軽くしようかと思いまして――あ、でも朝からこんなクソの顔面をお見せしてしまうなんて、火に油を注ぐ許されない行為ですよね。もっと早く気づけばよかった、いややっぱりさっさと死んでおくべきだった――」
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