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    n_h_0614

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    n_h_0614

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    りかおせ🤍💙

    ⚠疑似的な多重人格
    大瀬はずーっとキャラ崩壊しているし、理解は道を踏み外しかけるし、人を選ぶ!

    7月中に何とかしたかったのですが多分無理なので途中ですがアップします……
    続きは待っててね!
    そしてPixivに本チャンを上げるときに色々変わってたら笑ってください!

    次は https://poipiku.com/1334829/9108985.html

    #りかおせ
    profanity
    #カリ腐マ
    crsm bl

    (未完)「あの子に会える魔法の小瓶」No.01理解が203号室のドアを開けたとき、大瀬は、トカゲが眠るケージの中を覗き込んでいた。トカゲは彼のペットだった。
    こちらに背を向けていて、表情はうかがえない。
    一瞬、理解は不安になる――あれが「いつもの」大瀬君だったらどうしようか、と。理解はノックもしていなかった。
    だが、
    「あ――理解さん!」
    その弾んだ声。
    振り返った大瀬の、赤い頬、同じ色の目尻に縁どられた潤んだ瞳。その屈託のない、愛らしい笑みを見て、理解は確信する。
    ――ああ、「あの子」が目の前にいる。
    ――ようやく会えた。
    思わず泣きそうなほどの喜び。
    大瀬は、ぺたぺたと裸足でこちらへと駆けてくる。
    「どうしたんですか?こんな遅くに」
    理解を真っ直ぐ見上げ、微笑みながらそう尋ねる。
    距離もいつもより近い。果実のような香りが理解の鼻をかすめた。
    理解の背後、真っ暗な廊下は、ひたひたと染み込むような、静かで冷たい夜の空気で満たされている。他の住人達も寝静まっているであろう、遅い時間だった。理解が人生の中で数えるほどしか触れたことのない、真夜中の空気――理解はドアを閉ざし、それを遮断した。
    先ほどまで大瀬がいた場所を見れば、トカゲのケージの前に、青い硝子の小瓶が置かれていた。
    隣には金色の蓋。中身の透明な液体は半分ほどに減っている。
    それは魔法の小瓶だった。
    少なくとも、理解にとっては。
    大瀬が自発的に買い求めたものだったが、理解は、ほとんど自分が飲ませたようなものだと思っていた。
    ゴト、という音をして、理解はそちらに目を向けた。
    大瀬がどこからか持って来て、彼が普段座るデスクの正面に置いたのは、一脚の椅子だった。
    「理解さん、どうぞ」
    小さく傾げられた首。本当に――恋人が訪ねてきてくれたことが嬉しくてたまらないような、眩しくて、少し艶やかさもある笑みを浮かべている。
    これが本来の大瀬君なんだろうか。理解が、それまでにも絶えず考えていた問いだった。そうであってほしいのか、そうでなければいいのか、理解にはわからない。
    「理解さん――座って」
    大瀬が手を掛ける、木製の、背もたれと座面に赤いクッションが縫い付けられた細身の椅子。
    それは大瀬が、この部屋に来る客人のために用意したものだった。




    ===

    「あの子に会える魔法の小瓶」

    ===




    1.
    天井の中心から放射状に吊るされた紐、その先端は四方の壁に固定されている。
    そこには額縁や、乾燥した植物、複雑に折り曲げられた針金のオブジェなどが吊り下げられている。窓から差す陽の光を浴び、針金は周囲に小さな光の模様を描く。
    理解はそれをじっと見つめていた。
    そして、何を象ったものなのだろう――と、作者の意図に思いを馳せていた。そのとき、
    「あの」
    控えめな声が聞こえ、前を向く。
    「重いですよね。ごめんなさい、気が利かなくて」
    理解の前に立っていた大瀬が、そう言って理解が持っていたトレーを引き取った。
    トレーの上には、湯気を立てるマグカップが二つ。白いカップにはコーヒー。そしてもう一つ、青いもうカップにはココアが注がれていた。
    「自分の分まで――ありがとうございます」
    俯いてカップを見ていた大瀬が笑った――ように理解は思った。
    大瀬は少し迷ったように部屋を見回した後、デスクの上のタブレットをどかし、そこにトレーを置いた。
    大きめのデスクだったが、PC一式や、イラストの資料なのかもしれない本や、何やら細かなもので埋め尽くされていた。移動されたタブレットも積みあがった本の上に置かれ不安定に見える。
    デスクの上だけではない。棚の上には絵の具や筆などの画材もある。床にはおそらくこれから作品になるのであろう流木、布のかけられた大型のキャンバスも――大瀬の部屋には物が溢れている。
    理解がこの部屋を尋ねたとき、大瀬は「一分だけ待っててください」と言って扉を閉めた。慌ただしい足音や物を動かす音が聞こえてきたので、おそらくその一分の間に片付けをしていたのだろう。一体どこを片付けたの、とは絶対に聞けない。
    自分を扉の前に留まらせたときの大瀬の表情が引きつっていたのを、理解は見ないことにした。
    それでも、とてつもない物量である。人が住む部屋というより、倉庫に無理やり人が暮らすスペースを作ったようにすら見える。
    「理解さん、座ってください」
    理解は声のする方に視線を向けた。大瀬は、散らばる画材を脇に寄せ、床についた絵の具を袖で拭おうとして諦めてーー部屋の真ん中に、一脚の椅子を置いた。
    焦げ茶色の木枠と赤い布でできた細身の椅子だった。高級感が漂う。
    大瀬は己の健康や快適さに対する興味が薄い。おそらくこだわり無く集められたこの部屋の他の調度に、この一脚の椅子はなじんでいないように見えた。
    だが、大瀬がその傍らに天板の丸いテーブルを置いたことで理解は気づく。
    「これ、来客用の椅子なんですね」

    大瀬は長らく、世界から身を隠すようにして生きていた。そう言うとまるでなにか罪を犯して逃亡生活を送っているように聞こえるが、それはある意味では正しいらしく、大瀬は己が生きていることそのものを罪と捉えているようだった。そしてその贖罪のためか度々、様々な方法でその命を絶とうとしていた。
    大瀬の衝動の根源がどこにあるのか、実のところ、本当の意味では、理解は未だによくわかっていなかった。
    ただ、大瀬に、健やかに、幸せに生きてほしい。「価値のない命など存在しない」という元々理解の中にあった博愛的な信条がそう思わせたのは確かだが、その本質はやはり、愛しい人にいつまでも傍にいてほしい笑っていてほしいという純粋な願いだった。
    世界から身を隠し続けていた大瀬も、しかし、この家で住み始めてからはそうも行かなくなったようだった。
    この家の住人たちは、海だ祭だとなんやかやと出掛ける計画を立て、そのたびに大瀬を連れ出そうとする。
    自分が行くと空気を壊してしまう、と大瀬が遠慮しても、良くも悪くも押しの強い住人たちはお構いなしだった。
    そして結果として、大瀬も大瀬なりに楽しみ、他の住人を楽しませるようになった。それは理解の喜びだった。
    住人たちとの交流が深まると、今まで避けてきたことなのだと思うが、大瀬も他人に何かを伝える必要が生じてきた。
    口下手で、そしてそれを必要以上に自覚してしまう大瀬は、思いを表現する手段として絵を描くことを選んだのだろう。猿川に絵を渡す大瀬を見たとき、理解はそう思った。
    やがてここ大瀬の部屋にも、住人が訪れるようになったらしい。テラが「オバケ君の部屋に行った」と話していた。大瀬に、そんなにも広く、心を開ける友ができたのだ。そして彼らを歓迎するために、大瀬は、脚の椅子を買い求めたのだろう。
    そう考えれば、この椅子はーー大瀬がこの家の一員として生きていることの象徴、とも言えるのではないか。

    来客用の椅子なんですね、という理解の問いかけと感嘆の間の言葉に、大瀬は、え、ああ、とはっきりしない声で答えた。
    理解には自負があった。大瀬が外に出られるようになったのは、他の住人たちと絆を紡ぐことができるようになったのはーーあの日、自分が散歩に誘ったからではないか、という自負が。
    まだ付き合いも浅い頃、他の住人たちとの散歩に大瀬を誘ったのだった。結局、紆余曲折あって実現することはなかったが。
    それでも、ドアを開けることすらためらっていた大瀬を根気強く説得した、きっと大丈夫だと励ました自分の行為は、大瀬がこの家の一員として生きている現状と無関係ではないはずだ。
    そう思うと、理解は嬉しく、誇らしかった。
    「あの」
    大瀬から控えめに呼びかけられ、理解は思考を中断する。
    「ああ、何だい?」
    「何かーー怒ってらっしゃいますか?」
    「え?」
    大瀬は、不安げな上目遣いで理解を見つめていた。
    だが、それも一瞬のことだった。
    「変なこと聞いて、ごめんなさい」
    そう言って俯く。
    「いや、私こそ、考え事をしていてすまなかった」
    理解は慌てて、勧められた椅子に座る。
    なかなか座らないのはなにか不満があるから、と心配性の大瀬が勘違いしたのだろうと理解は結論づけた。
    クッションは見た目よりも柔らかかった。
    大瀬は、自ら椅子の傍らに配したテーブルに、白いカップをコトリと置きながら、
    「それで、自分は、何をすればいいでしょうか?」
    と言った。
    椅子に座った理解の前に立つ大瀬は、なんとも所在なげだった。理解はまだ来訪の目的を伝えていなかったのだ。
    「ああ、君は、そのまま作業を続けてててくれればいい」
    「え?」
    「変なことを言うようだけど――今日はただ、君の部屋に来てみたかったんだ」
    大瀬の部屋の話をしていたテラに、理解はどんな部屋だったのかと問うた。
    「理解君、オバケ君の部屋に行ったことないの?」と聞き返すテラは、本当に信じられないという様子だった。理解は、一度くらいは行ったことがありますよ、と言おうとしてやめた。事実ではあったが、そのときは部屋の様子を観察するどころじゃなかった。
    「用事もないのに、行く訳にはいかないでしょう」と言った理解に、ため息をつくテラ。「恋人ってそういうもんだから。君と一緒に過ごしたい――っていうのも立派な理由じゃない?」と諭された。
    君と一緒に過ごしたい、その言葉を心のなかで繰り返すと、理解は顔が熱くなるのを感じた。
    「その――今のような関係になっても、私たちはまだお互いのことをよく知らないでしょう。君が私の部屋に来たことはあったけれど、私が君の部屋に来たことはなかったし」
    理解は顔を上げ、
    「私は、君のことをもっとよく知りたいんだ」
    と言って大瀬の手を取った。告白めいた言葉だ、そう思うと少し恥ずかしい。
    大瀬は、
    「僕のことを――知りたい?」
    それは問いかけというより独り言、言葉の意味を知るために己の内で反芻しているような響きだった。
    そしてやがて、大瀬の内でその言葉が消化された瞬間が理解にも明確にわかった。
    気のせいかもしれないが、その表情に現れたのは恐怖だった。
    なぜ。
    そう、理解が思っていると。
    「自分のことなんて、どうせ、知れば知るほど幻滅します」
    付き合い始めてから、いや、出会ってから今まで、理解は大瀬の、こんな風に暗く俯いた顔ばかりを見てきた。
    理解は思わず苦笑してしまう。
    なぜこの人は、こんなにも不安がるのだろう。
    「一度愛を誓った人を、そう簡単に嫌ったりはしませんよ」
    理解は嘘をついたりしないと、誰よりも信じているのは大瀬のはずなのに、自分に向けられた「愛している」の言葉はなぜこうも信頼してくれないのだろうか。
    「君は素敵な人だ」
    俯いた大瀬の瞳を覗き込む。
    たとえ共感はできなかったとしても、その不安を解消してあげたいと理解は思っていた。
    しかし大瀬は、
    「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
    そう言って理解の視線から逃れるように一歩下がった。
    少し迷い、だが結局、作業机の前の椅子に腰を下ろした。先ほどまで取り組んでいた作業に戻るのだろう。
    「きっと、お見せすべき美しいものなんて一つもないです――それでもよかったら、どうぞ」
    大瀬は、自分の部屋にいると思えないほど、申し訳なさそうに頭を下げた。

    ===
    大瀬の机の方から、ペンタブとペンがぶつかり合うカッ、カッ、という音が聞こえてくる。
    最初の方こそ理解の存在に落ち着かない様子だったが、いま大瀬はすっかり作業に集中しているようだった。
    本当に創作活動が好きなようだ、と理解はしみじみ思う。大型モニタに隠れて大瀬の表情さえ伺えない今、大瀬を知る、という当初の目的が果たされているかは分からなかったが。
    理解はといえば、今は椅子を離れ、ガラスケージの前に立っていた。
    大瀬はトカゲを飼っている。
    名前は、と聞こうとして、大瀬が集中していたようだったのでやめたのが数分前。その時から、トカゲは流木の上で眠り続けている。
    物に溢れた大瀬の部屋とは対照的に、水槽の中はきれいに掃除されていた。ケージの上から紫外線ライトがトカゲを照らしている。手を近づけるとほんのり温かかった。
    トカゲは暖かな光の下、心地よさそうに眠っている。
    縞模様の入った茶色い表皮がゆっくりと上下する。小さな鼻の穴が同じリズムで、小さくなったり、大きくなったりを繰り返している。愛おしくて、思わず頬が緩む。
    爬虫類の中にも、愛に似た感情があるのだろうか。ならば彼は理解と仲間である。理解と同じ、大瀬への愛を内に抱いている。
    大瀬にとって、このトカゲは家族なのだろう。いつか自分もそんな存在になれればと理解は願っていた。
    そこで理解はふと、部屋に満ちた静けさに気がつく。理由に思い至る。ペンの音がしないのだ。
    理解は大瀬の方を見た。
    「あっ」
    大瀬と目が合った。
    ごめんなさい、と言って大瀬はモニタの向こうに隠れてしまう。
    「なぜ謝る。絵は完成したのかい?」
    知らぬ間に見られていたことへの照れをごまかして、理解は尋ねる。
    「まだ、です」
    「そうか――あのさ」
    「なんでしょうか」
    「君の作品が見たい」
    えっ、という絞り出すような声がモニタの向こうから聞こえる。
    「完成していないものは、その――」
    大瀬はモゴモゴと返す。
    「じゃあ、完成したものを。あるんだろう?」
    理解は大瀬のことを知りたくてこの部屋に来たのだ。その目的のために、大瀬の内面の表出たる作品を見せてもらうのは有効なはず。
    他の住人が見せてもらえたのだ。恋人である自分が大瀬の作品を見られない法はない。
    あの布に覆われ壁に立てかけられたものだってキャンバスだろう、そう思って理解が近づくと、
    「待ってください!」
    大瀬が必死な顔で止める。
    「え?駄目なのかい」
    「わかりました。じゃあ――選びます。マシなやつを。少し待っていて下さい」
    大瀬はクローゼットを開けた。何枚かキャンバスが入っているらしい。
    大瀬が振り返る。なに、と思ったが、どうやら理解の位置からクローゼットの中が見えるのが気になるらしい。
    仕方なく数歩移動した。そこからはクローゼット内は死角になって見えず、代わりに大瀬の横顔が見えた。
    そんなに?というほど真剣な大瀬の横顔。
    ――なぜ、そこまで隠されなければならないのだろう。
    理解のそれは、純粋な驚きではなかった。
    その感情には小さな棘があった。
    いくつか箱を外に出しながら、大瀬はクローゼットの中を漁っている。
    「大瀬君、どれでもいいんだよ」
    そう言ったとき、理解の目が一つの箱の上で止まった。
    それは、蓋付きの黒い箱だった。
    縦に長く、ギリギリ片手でも持てそうな大きさ。
    そしてラベルには「写真」と書かれている。
    理解は、ごく自然に箱の蓋を開いた。
    理解が最初に見たのは、立てられた写真の無数の背だった。数百、いや千枚以上あるようだ。
    ところどころ挟まれた厚紙は仕切りだろう。
    写真と写真の隙間に指を差し入れると、その表面を見ることができた。何枚か見てみれば、どれも自然を撮ったものらしかった。人が写っているものはほとんどない。薄暗い森の中らしき写真もあれば、明るい海を見渡せる写真もある。
    理解は一番手前の一枚を手に取った。
    建物と建物の隙間に、一匹の小動物がいる。アライグマだろうか――今まさにレンズに気づいたようにこちらを向いている。
    陽は建物に遮られて届かず、アライグマの目が僅かな光を反射して光っている。正直に言えば――所見での感想は「不気味」である。
    ふと、右側の建物は特徴的な作りをしていることに気がつく。低い位置に細長い窓が設けられている。
    学校の体育館ではないだろうか。
    もしかして――大瀬のかつて通っていた学校だろうか。
    そういえば紙も若干古く黄色味がかっているような気がする。
    理解は再び箱に目を投じる。よく見れば、手前に収められている写真は全体的に劣化している。奥に行くほど、写真の背は、本来の白さを取り戻しているように見える。
    もしかして年代順に並んでいるのだろうか。
    ならばこれは大瀬の歴史が詰まった小箱である。
    遠景に見える空だろうか。それともアライグマの足元に咲くドクダミの花だろうか――この学校に通っていた頃の大瀬が、この風景のどこに美を感じたのか理解は知りたかった。
    そのとき。
    突如、理解の手元から写真が消えた。
    正確には奪われた――らしかった。
    驚いて顔を上げれば、大瀬と目があった。
    理解が持っていた写真は大瀬が握っている。強い力で掴まれているせいで、写真は折れ曲がってしまっていた。
    「ご、ごめん、大瀬君」
    大瀬は怯えたような目をしていた。理解と大瀬のやり取りの中で、理解が先に謝ることは珍しい。
    「あ、いいえ、ごめんなさい。自分の方こそ――」
    大瀬も我に返る。
    人の持ち物に許可なく触れてはならない。社会通念に照らせば自分のほうが間違っていた、と理解はわかっている。
    わかっているが。
    頭を押さえつけられ地面に額づいているような感覚があった。消化しきれない何かがあった。
    「いや、私の方が、勝手に開けるべきじゃなかった」
    非を認めて、冷静に、と思うのに声が震える。
    そもそも大瀬は、自分に、作品を見せたがってはいなかった。認めたくなくて見ないふりをしていたが、明らかなことだった。
    それを無理やり見せてと言った。そもそもそんなことをすべきじゃなかったのだ。それもわかっているが。
    大瀬がハッとしたように、慌てて箱の蓋を閉じた。
    その瞬間、理解の膝の上の拳が固く握られた。
    「――なぜここまで拒絶されなきゃならないんだ」
    激しい感情、行き場のなかった問が溢れ出す。
    大瀬の肩が視界の端でびくりと震えた。
    なぜ。
    なぜ私は君の絵の感想を他人から聞くことしかできないのか。なぜ私は君が他人に贈った絵を盗み見ることしかできないのか。なぜ私が贈られた絵は――君が別れの挨拶として六人に宛てた、あの一枚だけなのか。
    なぜ。
    「あ――あの、ごめんなさい、その――」
    そんなに卑下するようなクオリティではないはずだと理解は思う。理解の目の前で他の者達の手に渡っていった絵は確かに美しかった。
    「私が、君の創ったものを否定すると思うのか。君から見ると、私はそんな人間に見えるのか」
    「違うんです。あの――ごめんなさい、死なせて下さい」
    縄かナイフか。大瀬の手が何かを掴もうとする。
    「過去にそういう経験があるのか。だから今も」
    大瀬の行動を、願いを無視して放った理解の言葉は、だが結果として大瀬の動きを封じた。
    痛みを感じたように、大瀬は目を見開いた。そして俯き、
    「――あんな場所で、描いてた僕が悪かったんです」
    と言った。
    理解は見ていられないような気持ちになって、視線を切って立ち上がった。

    ===
    部屋を去る直前、なぜだろう、理解は振り向いた。
    だが未だ蹲っている大瀬のことは見なかった。かわりに、天井から吊り下げられたオブジェに目を向けた。複雑に折り曲げられた針金。それは窓から差す陽を浴びて、皮肉な美しさを放っていた。

    つづく
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    n_h_0614

    PROGRESS6月りかおせWEBオンリー発行予定、りかおせ新刊「竜の住む館」サンプル

    文庫サイズ/?円/全年齢

    発行時にはここから文章の微修正があります、ご了承ください。

    おとぎ話パロです。
    発行時はこの前に「むかしむかし、あるところに」で始まる文章が入ります。
    完全無欠のハッピーエンドはないかもしれませんが、最後は「二人は、いつまでも幸せに暮らしました」で終わります。

    ⚠本編は流血表現ありになる予定
    6月発行予定りかおせ小説「竜の住む館」冒頭まだ日が沈むなのに、その森の中はひどく暗かったことを、理解はよく覚えていました。

    生い茂る糸杉の木はどれも空を刺すように高く伸びて、地面に降り注ぐはずの陽の光をほとんど奪っています。
    そこは暗くて寒くて、不気味な森でした。
    理解はなぜ、そんなところを一人歩いていたのでしょう。理解はそのときその森で、村の子供を探していたのです。
    理解は、森の東の村で警吏さんをしていました。警吏さん――いま皆さんが知っているお仕事では、お巡りさんが一番近いでしょう。
    お巡りさんがそうであるように、警吏さんのお仕事は悪い人を捕まえることだけではありません。しかも東の村の警吏さんは理解一人だけだったので、理解は色々なことをしていました。村人同士のケンカや言い争いを解決すること、なくなった物やいなくなった人を探すこと、危ない場所に誰も入れないように鎖をかけたりすることも、理解の大事なお仕事でした。理解はさらに、村人たちが健康的な生活ができるよう朝起きる時間や体によい食べ物は何かを教えたり、子供たちに読書や勉強の大切さを説いたりと彼が思う正しさを村の中に広めようともしていました。理解自身は、毎日自分は素晴らしい仕事をしているという充実感に溢れていましたが――村の人たちに受け入れられるのは、もう少し時間がかかりそうでした。
    9683

    n_h_0614

    MAIKINGりかおせ🤍💙

    https://poipiku.com/1334829/9108960.html のつづき
    次はまっててね
    (未完)「あの子に会える魔法の小瓶」No.033.
    目覚ましが鳴る少し前に、理解は目覚めた。
    大瀬のところへ行かなければ、最初に考えたのはそれだった。
    もし昨日の記憶があるなら、激しい自己嫌悪に襲われているかもしれない――死のうとするかもしれない。
    眼鏡をかけてベッドを降りる。
    顔を洗うだけの猶予はあるだろうか、と思いながらドアを開けると、ガンッという音とともに何かにぶつかる感触があった。ドアの向こうに人の気配があった。それが一歩遠ざかる。それとともにドアの可動域が広がる。
    その隙間から、理解が恐る恐る顔を出すと。
    「昨日は、本当に、本当に――」
    言葉がまとまらず、深々と頭を垂れるのは大瀬だった。
    「大瀬君、いま扉がぶつかっただろう。大丈夫か――」
    「問答無用で死刑だってことは自分でも重々承知しているのですが、せめて理解さんのお望みの死に方を選ぶことでその怒りを1グラムでも軽くしようかと思いまして――あ、でも朝からこんなクソの顔面をお見せしてしまうなんて、火に油を注ぐ許されない行為ですよね。もっと早く気づけばよかった、いややっぱりさっさと死んでおくべきだった――」
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