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    アンティーカが出身地の差から行き違う話

    部落 月岡恋鐘は慄いた。
    「ゆ、結華……」
     震える声はあまりにも小さく、三峰結華には届かない。
    「――って感じかなー。きりりんは?」
    「うん……わたしの――」
     白瀬咲耶の手元でティーカップが揺れる。
    「き、霧子……」
     怯懦の囁きはあえかで、幽谷霧子には届かない。
     ただ一人、
    「……え、何これー」
     田中摩美々だけは状況が理解できず、呆けた顔で四人の顔を眺めていた。

     事務所で紅茶を飲みながら他愛もない話を始めたのが一時間ほど前。恋鐘と咲耶がこんな態度になりだしたのはほんの少し前のことだと、摩美々は会話の流れを思い起こす。
    (……まず、カステラ)
     少し前にノクチルの四人が出演したWeb番組のディレクターが持ってきたというカステラを七草はづきが切り分けてくれた。そこから、恋鐘が地元の銘菓店のカステラの始めたのだ。
    (咲耶もなんか話しててー……瓦せんべい……)
     結華は『ままどおる』、霧子は『いのち』。地元の銘菓店の話題の中で、突如として恋鐘と咲耶の態度が変わったのだ。
    「――ふふ、うん……!」
     考える摩美々、怯える恋鐘と咲耶をよそに三峰と話す霧子は口許をほころばせ、恋鐘へと視線を送る。
    「恋鐘ちゃん……。恋鐘ちゃんの……部落のお話、聞かせて……ください……」
    「――霧子……! そがんこと、言うもんじゃなかよ……!」
     恋鐘の潜めた声に、ポニーテールをぶんぶん振ってうなずく咲耶。
    「え……? えっと……?」
     霧子はようやく何かがおかしいことに気づいて、
    「あー……! そっかそっか、そうだよねぇ」
     一足先に事態を理解した結華が眼鏡を押し上げて溜息をひとつ。
    「こがたんとさくやんはそうなっちゃうよねぇ……ごめんごめん。東北だとあんまり教わらないっていうか、『地域』とか『町内』くらいのニュアンスで使っちゃうんだよねー」
    「……!」
    「そ、そうなのかい……?」
     結華の言葉に安堵した様子の恋鐘と咲耶。どうやら事態は収束に向かいつつあるようだが、何が起こっているのかが摩美々にはまったく分からない。
    「……いや、何の話ー?」
     眉をひそめながら声を上げると、
    「『部落』」
     四人の声が重なって、
    「…………あー……」
     納得とも呆れともつかない声を上げてから、摩美々は食べかけのカステラを見下ろすのだった。
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