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    巻緒とにちかの越境

    berryじゃなくてveryってこと「しかしアレやね、並ぶと二人って似てるねー!」
     司会を務める芸人の声に、カメラと出演者の目が一斉に二人に向けられた。
    「そうでしょうか?」
     小首を傾げる卯月巻緒は丸い目を細めて微笑む。彼が隣に座る七草にちかに顔を向けると、え、と弱々しい音がにちかの喉から飛び出た。
    「俺よりにちかちゃんの方が可愛いですよ! そうですよね?」
    「まあなあ――」
    「! い、いやいやいやいや……!」うなずきかけた司会の声を遮るにちかは忙しなく頭を振る。「私みたいなのがそんな、そんなのあるわけないっていうか、卯月さんの方がやばくて……隣! 隣にいるともう、アイドルオーラがばーって出てるんですよ――!」
     胸の前でばたつく両手、どんどん口早に、そしてめちゃくちゃになっていく言葉に笑いが起こり、カメラはにちかの顔を大写しにしている。
    「……」
     笑いが収まれば番組のコーナーが始まるが、ゆらゆらと頭を振るにちかの目がVTR映像にも司会にも向けられていないことに巻緒は気づいていた。

    「――にちかちゃん、大丈夫でしょうか」
     収録の合間、楽屋に戻った巻緒の言葉にプロデューサーは動きを止める。
    「283さんの所の、七草さんですか? 何かありましたか?」
    「うーん……たまになんですけど、誰か探しているみたいというか……サタンが見つからない時のアスランさんみたいな顔をするんです」
    「そうですか、心配ですね……」
     つぶやくものの、315プロのプロデューサーの立場でできることはほとんどない。
     そう分かっているからこそ巻緒もそれ以上プロデューサーに何か言うことはなく、口元に手を添えて思案に耽る。
     ――カフェパレードでウエイターとして働いていた時、今のにちかのように沈んだ顔で店を訪れる客を見たことは何度もある。
     その時は美味しい料理とケーキ、紅茶で笑顔を届けることはできた――でも。
    (俺はアイドルだから)
     カフェパレードのアイドルとして、彼女を笑顔にする方法を探したかった。
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