卯月巻緒と東雲荘一郎:食べるジュエルと:東雲の試作ケーキを巻緒が食べる話「荘一郎さん、これは……!」
目の前に置かれた皿の上、煌めく深紅は卯月巻緒の顔を反射させる。
「まだ試作ですが。ベリーのゼリーに、タルト生地とカスタードクリームを合わせました」
「これ……イチゴですか⁉」
ひっそりと佇むゼリーの中、閉じ込められたイチゴは断面を見せていた。表面の赤から内側の白のグラデーションの麗しさに鼓動を早めながら、巻緒は上気させた頬を東雲荘一郎へ向ける。
「今年は国産イチゴが高いって聞きましたけど、それでもイチゴを使うんですね! すごいなぁ……!」
「この季節にはイチゴの赤が似合いますから。……もっとも、他のベリーも入れたので、使うイチゴは節約したんですよ」
「確かに!」巻緒の相槌は荘一郎の言葉に重なる。「ラズベリーと、ブルーベリーも……すごい、ベリー尽くしで贅沢ですね! 宝石みたいだなあ……!」
「……ふふ」
いつものことながら、新作ケーキを目にした巻緒は顔いっぱいに喜びを広げる姿は好ましくつい口元が緩んでしまう。荘一郎の口の端に浮かんだ微笑に大きな笑顔を返して、巻緒はそっとフォークをゼリーに差し込んだ。
「――すごい弾力……!」
ラズベリーに行き当たったフォークの感覚がかすかに変わる。それすらも逃すまいと五感を研ぎ澄ませる巻緒は、口に運んだ一口を大事に大事に噛み締めて。
「……これが、荘一郎さんの新作……」
うっとりと潤んだ巻緒の瞳めきは、まるで宝石のよう。
「……」
そんな巻緒を見つめて、荘一郎は満足げに吐息を漏らすのだった。