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    真央りんか

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    真央りんか

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    神ミキ。畏怖クラサービスデー明けにふらっとやってきたミ。本音を言うのが特別サービス

     神在月シンジの夜は遅い。夜が明ける前には寝た方がいいと思っていても、冬至が近い今の時期は、日の出が遅いのでついのんびりしてしまう。配信サイトを開いて、数回分溜めてあった今期のアニメの一作に最新話まで追いついたところで、スマホに通知が来た。
     三木からだ。神在月がだいたい起きているのを知っているとはいえ、こんな時間帯には珍しい。
    『起きてる?』
    『うん』とうなずく女の子のスタンプを返す。返した速さで、問題ないのは伝わったのだろう。
     今から来るというやりとりに歓迎を示して、その場は連絡を終えた。

     ほどなく現れた三木は、疲れた様子ではあったが機嫌は良さそうだった。
    「なんかあった?」
    「ん、用があったわけじゃないけど」
     部屋に入りながら、返ってきた反応に神在月は軽く頬が緩んだ。なんであれ、会いに来てくれたのは嬉しい。
     コートだけ脱いで床に座った三木は、室温にほっとした様子だった。夜明け前が一番冷え込む。
    「メシは?」と訊ねると食べてきたというので、ポットから白湯だけ出すと、三木は軽く笑いながらも胃を温めて落ち着いていた。
     神在月が正面に座ると、三木が口を開く。
    「今日の仕事先がイベントデーで、俺の担当の客の回転すごくて、忙しかったけど、なんかテンションあがっちゃって」
     自己申告通りに、今日の三木は少し落ち着きがないようだった。よく口が回る。
     三木の勤め先でこの時間にあがる接客業というと、思い当たる店がある。吸血鬼がメインの客層のその店で、三木がキャストとして働いていることは知っているが、具体的にどんなことをしているのかはわかっていない。
    「日の出が遅いから延長続けるお客さんばかりで、なんとか全員お見送りして、店でシャワー借りて、打ち上げじゃないけど店ん中で皆でメシ食って、よく働いたってコトで片付け免除で先にあがらせてもらって、帰って寝るだけだったんだけど」
     数え上げるように、軽く上を向いてここに来るまでの経緯を一つずつあげていき、そこで三木は神在月を見た。どことなく申し訳なさそうに微笑む。
     神在月も微笑んで受け止めた。
    「全然。顔見れて嬉しい。あっ、さっきまでアニメ見てて」
    「…俺、お前が宇勇の話するの好き」
     突然の告白に驚いて、神在月は言葉を止めた。
     三木は少し眩しそうに神在月を見る。
    「他の作品もだけどさ、宇勇は特に。宇勇自体が面白いってのもあるけど、お前が話すと、面白いって思うお前の気持ちが上乗せされて、宇勇の世界が輝いて感じる。話してる時のお前も好き」
     称賛と好意の奔流に、神在月は呼吸を忘れたように固まった。唾をひとつ飲み込んでから、おそるおそる様子を窺う。
    「……ミッキー、酔ってる?」
    「…口が軽くなってるだけ。だから深刻に取らなくていい」
     三木は一度ふいっと目を逸らして、言い訳してから、再び神在月を見つめる。
    「お前の漫画が好き。お前の頭ん中にこんなにわくわくする世界が広がっていて、すごいって思う。それをかっこいい絵でこの世界に出して見せてもらえてうれしい。漫画描いてるときのお前も好き」
    「あっ………がっ……」
     致死量レベルの賞賛を正面からくらって、神在月は人語を失った。顔を真っ赤にして、胸の辺りを押さえると、その様子を見て三木が楽しげに笑う。
    「今日だけ、お前だけのサービスな」
     微笑みが優しくなった。
    「宇勇も漫画もお前から引き離せないものだけど、この先どっちか、…どっちも出来ないことがあっても、俺はお前が好きだよ」
     呆然と見つめる先で、三木は言い終えると満足そうに仰のいて息をつき、後ろのベッドにもたれかかった。
     沈黙が流れる中で、今の言葉が現実の出来事だったと、神在月にじわじわ実感が出てきた。胸の底から感動が湧いてくる。うるんでくる目で三木を見つめていると、三木の頭がゆらゆら揺れはじめた。
    「え、ミッキー、寝そう?」
    「ん…」
     返事が覚束ない。かなり寝かかっている。
    「寝るならベッド使って」
    「床で、いい…服…」
    「脱がすだけなら俺ができるから、せめてベッド上がって」
     ぐらぐら揺れだした頭は、まだ決めかねているようだ。
    「俺じゃミッキー持ち上げられないよ、おねがい」
     自分では無理だと頼み込むと、三木はどうにか立ち上がってくれて、そのままバサリとベッドの端に横たわった。数秒見守っていると動かない。既に意識はないようだった。
     時計を見てカーテンの方を窺うと、そろそろ夜が明けそうだ。
     神在月は自分も寝ることにして、先に三木の支度を調える。服のままでも構わないけど、と思いながら、楽になるようベルトを外したついでにズボンを下ろす。
    「やましくないですよー…」
     独り言を言いながら引き抜いて、現れた肌に目がいった。膝を擦りむいている。まだ赤い打ち身もある。神在月は眉を寄せて、続いて上も脱がせた。肘や腕にも擦り傷がある。打ち身も数カ所にある。
     接客業で、こんなに怪我をしているなんて、思いも寄らなかった。
     対人でこんなに怪我をするような仕事をしていて、今は神在月にされるがままになっているなんて。感情が落ち込む中にも、浮かれそうな自分を認識して苦しくなる。
     黙々と、部屋着のズボンをなんとかはかせた。上はトレーナーを無理矢理くぐらせたところで、力尽きた。
    「……ごめん」
     体は通したが、袖を通すのは勘弁してもらう。冷えなければ、大丈夫だろうと、伝わらない謝罪を口にした。
     三木に布団をかぶせて、神在月は自分もさささっと寝る態勢を整えた。手前側で横たわる体を越えて、壁と三木の間に入る。
     三木と一緒に眠ると、いつもより温かいのを知っている。先に三木が入っていたので、布団の中はすでにぬくい。
     冬の底の明け方。暖を取るように二人でしっかりくっついて眠りに落ちた。
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