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    真央りんか

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    真央りんか

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    神ミキ。神ミキ要素薄いです。神先生は直接出ません。仕事したかったミの年越し。

     年明けは群衆の歓声と共に迎えた。
     三木カナエは明け方近くまで続いた年越しカウントダウンイベントで、観客誘導の仕事を終えると、詰め所に戻ってさっさと警備員服を着替えた。スマホをチェックすると、あちこちから新年の挨拶が入っていた。親しい人たちにだけ目を通しては頬を緩ませ、簡単に挨拶を返しておいた。
     改めて外に出ると、まだ暗い時間帯だ。電車はとっくに動いているが、帰る前に少し休みたい。三木は目星をつけておいた銭湯に向かった。
     新年の朝風呂目当ての客は、それなりに多かった。常連だけではなく、三木のように仕事を含めて、年越しイベント終わりの者もいるようだ。
     初風呂は広い浴槽で足を伸ばせて、気分の良いものとなった。洗面器やシャワーで湯を浴びるだけでは追いやれなかった、体の芯の冷えがようやく溶けていく。混み具合の割りに、三木の周囲だけ距離を置かれているような気がするのは、全身の傷痕のせいかもしれない。しっかりぬくもった後、長く息を吐いてから、三木は風呂からあがった。
     どことなく華やかにざわめく脱衣室で髪を乾かし、牛乳を一本飲んでから、駅へと向かう。体と心がほどよく緩まったことで、急速に空腹が襲ってくる。固形物がほしい。
    『食事』は帰ってからにしたかった。それでも温かいものを、と思ったが、立ち寄ったコンビニで肉まんは売り切れていた。適当にパンを選んで、ホットコーヒーと一緒に、歩きながら腹に詰め込んだ。
     電車は休日の早朝にしては混んでいた。三木は、つり革の上のバーを掴んで体を支える。一度温まった体が冷えてきて、消化に血が巡っていて、つまりはかなり眠い。三木の長身で眠さで膝ががくんと落ちたら、周囲の人はびびるだろう。瞼も落ちそうなのをどうにか耐えているので、人相が悪い自覚はある。薄目で眺める空の底が赤い。日の出が近づいてきている。
    友人たちは、今頃寝ているのか起きているのか。
     年越しの仕事があると知らせたときに、皆いい顔はしなかった。これでもクリスマス明けの数日とこの後の年始の数日は休みを取っていた。繋げれば二桁日数となりそうな休暇に、三木の心が耐えられなかったのだ。一日だけだから、と言い訳する様子は哀れに見えたのか、苦笑ばかりが返ってきた。
     ぼんやりとした思考が、次第に夢うつつとなっていき、完全に夢に入りかけたところでなんとか駅についた。
     年越しのシンヨコは騒がしかっただろうか。夜明けぎりぎりまではしゃいでいたいのだろう、吸血鬼たちを見かけた。人間たちも混ざっているに違いない。三木は年始の街を、モブとして歩く。
     ようやく自宅マンションまでたどり着いた頃には、眠さで思考が飛んでいた。機械的に郵便受けを探る。年賀状はまだ届く時間ではない。大晦日に回ってくるチラシ屋はこの辺りにはいない。空のはずなのに習慣でつい開けてしまった、と気付いた手に、かさりとした感触が当たった。
     取って見ると、小ぶりの白い紙の封筒。表に『常夜神社』と印刷されている。隅に、見慣れたヤギのイラストが描き添えてあった。
     神在月だ。少しだけ目が覚める。中を開けると御守りが入っていた。健康祈願。
    「…人の心配できる身かよ」
     三木はさきほど受け取っていたメッセージを思い出す。神在月は新年らしいスタンプだけで、これの話はしてなかった。悲鳴をあげていた年末進行の頃の会話を思い出す。『きっちり終わらせて胸張って正月は実家戻ります。…顔出すだけでビエエエエ擦った!』
     例年、初詣など行っていただろうか。それすら知らない。
     回らない頭で考える。神在月は人混みの年越しの常夜神社に詣でて、御守りを買って、三木のマンションまで来て、郵便受けにお守りを入れていった。
     何時くらいのことだろう。正月は実家というなら、そのまま向かっただろうか。だが、こんなに早い時間に発たずともよい距離だ。一度帰って寝ているだろうか。
    「…くそ」
     どちらにしても、通話は躊躇われた。手にした御守りに改めて目をやる。
     三木は信仰だけで魔を祓えるとは思っていない。こんな刺繍の布袋に、書かれた効果があるとは思わない。三木がそう考えていることは、神在月も知っている。それでもわざわざ届けに来たのは、三木の体を気遣う心と、それを伝えたい神在月の意志だ。
    「…くそ」
     スマホを取りだすと、RINEを起動した。ヤギのイラストが見えるように封筒に御守りを載せて写真を撮る。そのまま神在月に送信した。続けて「ありがとう」と送る。
     既読が付くかどうか待ってしまいそうなので、すぐにスマホをしまった。
     気付けば、エントランス付近もほんのり明るくなってきている。重い体を自室へ向けて歩き出す。この時間だ。吸血鬼の隣人はもう寝ているだろう。人間の隣人はまだ起きていないだろう。三木は今から寝ると、目を覚ますのは確実に午後だ。夕方になったらお隣さんたちと一緒におせちを囲む予定だ。
     明日は何も決まっていない。明後日は弟たちに会いに行き、その次は弟たちと一緒に祖母に会いに行き……。
     ぽつりぽつりとした予定を思い返しながら、三木は玄関を開ける。誰もいないひんやりとした空間に声をかけた。
    「ただいま」
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