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    真央りんか

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    真央りんか

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    ミキ+クラ。犬と戦える系クラさん。犬をおさえつけてます、ごめんぬ。

     今日は夕飯時に三人の時間が合うということで、たまには外で食べようという話になっていた。吉田の仕事上がりに合わせて、三木とクラージィは共に待ち合わせ場所まで向かう。

     普段あまり使わない通りに出たとき、悲鳴が上がった。伝染するように幾人かの声が連続する中、ひときわ悲痛な響きが届く。
    「うぱちゃん!おちついて!」
     小型犬が一匹激しくうなりを上げていた。なだめようと呼びかけているのは飼い主か。
     ただ怒っているのではない。仮性吸血鬼だ
     日頃、自分が巻き込まれなければ依頼以外の退治に関わることはほぼなかったが、さすがにこれは見過ごせない。
     飛び出そうとした隣で殺気が膨れ上がる。
     三木より一歩早くクラージィが走り出す。

    やばい、追いつかない

     クラージィの手の中に、白い杭が生まれるのを見た。
    「クラさん待って!」
     まったく待たない動きに三木が最悪の展開を覚悟したとき、クラージィは飼い主の体を抱き込むようにして飛んだ。
     飼い主を犬から数m引き離し、一転して攻撃に移ろうと振り返って、クラージィの動きが止まる。
    「ミキサンッ」
     三木は、クラージィが飼い主を保護して生まれた猶予をついて、犬に飛びついていた。
     後ろから体と頭にのしかかったが、小型犬と言えど吸血鬼化で増幅した力を抑え込むのは難しい。激しく左右に逃れようとする頭は、少し気を抜けば噛まれそうだ。

    「ミキサン!」
    「クラさん、抑えるのを手伝ってください。怪我はさせないで」

    殺さないで

     飼い主が近くにいるので、そこまでは言葉にできなかった。
     わかってくれ、と真剣に見据えながら、首を横に振る。

     クラージィは厳しい表情をしていたが、躊躇いは一瞬だった。
     杭が手から離れる。先端が折れて地面にころがった。
     クラージィは素早く三木に近づくと、
    「ワタシ吸血鬼、噛ムサレル、大丈夫。口、オサエルシマス」
     三木と寄り添う形になって、後ろから犬の頭に手を伸ばし、落ちていたリード紐でマズルを封じる。しかし小さな口先は紐の拘束がすぐ解けそうで、クラージィは上から手を重ねて押さえた。三木は跳ねる胴体の方に集中できて、僅かながらほっとした。
    「ごめんな、もうちょっとがまんな」
     通じなくても犬に声をかける。離されていた飼い主が愛犬の元に戻ってきて、何度も名前を呼びかける。
     そして近くに見慣れたマークの車が停まった。人が数人降りてくる。
    「VRCです」


     眠らされた犬は飼い主付き添いのもと収容されていった。
    「やれやれでしたね」
     一安心して膝やあちこちの汚れを払う。
    「クラさんも、膝、よごれはたいていいですか」
    「…ミキサン、アノイヌ、アクマチガウデスカ」
     顔を上げると、クラージィは途方にくれていた。
     迷子のような表情だ。
    「ミキサント、アノ人、イヌ大事シマシタ。アクマチガウデスカ」
    「えーと、あれはたぶん仮性吸血鬼です。初めてですか」
    「カセイ?」
    「吸血鬼になりかけです。でも薬で治ります」
    「ナオル…」
     その言葉を噛みしめるようにつぶやいて、クラージィの顔にショックが広がる。
    「アノ人、イヌカワイイデシタ」
     そしてじっと三木を見つめ、自分の胸に手を当てる。
    「ミキサン、私スクウシマシタ」
    「え? いや俺を助けてくれたのがクラさんで」
    「ミキサン、トメナイ。私、罪カサネル」
    「…」
    「アリガトウゴザイマス」
    「…はい」
     真摯な感謝を受け取って、一瞬、クラージィが生きてた時代に思いを馳せる。
    「この街の退治は基本的に止めるか倒すなんですが、どこでわけるかって難しいんですよね…クラさん強いんで、止めるを基本にしましょうか」
     クラージィの自信なさげな顔を見て、三木は軽い調子の笑顔を向けた。
    「大丈夫ミキよー。ここは新横浜で、あなたはここの住人なんだから」
     俺が一緒にいますから、と付け加えると、ようやくクラージィの顔が綻んだ。

     とっくに落ち着きを取り戻した街を、再び目的地に向けて歩き出す。
     ツクモ吸血鬼やただの人間の奇行など、クラージィが反応しそうなものをあげていて、初手で杭ドーンはやめた方がいいと説明した。
    「とはいえ、吸血蚊なんかは斃す方に入れちゃっていいですよ。正拳突きでいけますし」
     そこで三木は思い出した。
    「犬は傷つけちゃだめです」
    「イヌ、大事」
    「ええと、そうです、今日のように、犬も誰かの家族だからなんですけど、そうじゃなくても」
     バイト先の一つの仮面をつけた上司の姿が思い浮かぶ。
    「犬を傷つけると、VRCの検査でヤバい薬の実験体にされます」
    「ジッケン」
    「ヤバい薬」
    「ヤバイクスリ」
    「そうだ、VRCで嫌なことされそうになったら、こう言ってください。『私は犬を傷つけない』」
    「ワタシハイヌヲキズツケナイ」
     素直に繰り返す様子に安心するが、素直すぎるのも心配だ。
    「あの、犬が相手でもクラさんの安全が最優先ですからね。クラさんが危なかったら杭ドーンしてもいいですからね」
     矛盾していく説明に納得してもらえるか、反応を見ると、クラージィは大丈夫というように頷いた。
    「イヌオナカイッパイ、アンシン、イイ街デス」
     そして三木を見る。
    「住人、イイ人」
    「…もうクラさんも住人ですよ」
     クラージィの穏やかな表情に三木もつられる。
     同じような表情をしているだろう。

     向かっている方向から地響きのようなものが聞こえた。オッサンアシダチョウの群れに違いない。
    「ミキサン、ダチョウハ、トメル? タオス?」
    「んっんー……食べる分は狩っていいですけど、免許がいりますね」
     ダチョウの集団走りに巻き込まれた人たちの悲鳴が届く。
    「ヨシダサン、サケブ、キコエルシマシタ!」
    「急ぎましょう」
     二人揃って走り出す。
     吉田の危機にクラージィの足は容赦なく速く、三木は思わず笑ったのだった。

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