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    真央りんか

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    真央りんか

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    神在月と半田。散歩中にダンピール隊員に遭遇した神先生。

     あてもなくただ散歩に出てしばらくぶらついた後、神在月は大きな公園にやってきた。ここで一休み入れてから、もう少し歩くか帰るか決めようと、広場の芝生に腰を下ろす。なんといっても新横浜なので、夜の公園でも早い時間なら照明は充分明るいし、人もそれなりにいる。何割かは吸血鬼だろうが、この距離では神在月に確信はない。
     完全に足を止めてしまったので、帰りたい方に気持ちが傾いているが、もう少し気晴らししたいモヤつきもある。葛藤などとわざと重々しく自分の中でもだもだしていたら、吸対の制服姿の男が二人やってきた。一人は口元にものものしいマスクをしている。広場の中央あたりで足を止め、周りを見ている。何かあったのかなとぼんやり見ていたら、頬を風が掠めた。
     小走りで神在月を脇を通り過ぎた赤いジャケットの男が、二歩ほど行ってから振り返る。この町で知らない者はまずいない、退治人ロナルドだった。
    「神在月先生」
     慌てたような声に、どうも、と返した。この町の有名退治人とは、同じ出版社から本を出している繋がりである。ありがたいことに、互いに読者だ。
    「あの、移動した方がいいです。吸対から指示出ますから」
     早口にそれだけ言うと、ロナルドは吸対の二人に合流する。
     どうやら町に何かが出ているらしい。これから捕物でも始まるのだろう。
     中央の三人は素早く言葉を交わすと、揃って神在月を振り返った。何も悪いことはしてないのに、神在月はあたふたと立ち上がった。見られたのはその一瞬で、あとはまた額を寄せ合って話しはじめたので、特に神在月がどうとかではなかったのかもしれない。
     内容が聞こえる距離ではないが、その場に立ったまま、なんとなくやりとりを眺める。マスクをしていた隊員が、そのごついマスクを外して口元を見せた。きらっと光が見えた気がする。おそらく牙だろう。瞳の色は明るそうだ。きっと金色だ。整った様子の顔をあげ、風に鼻を向けている。匂いをかいでいる。ダンピールの隊員だ。ハンサムな顔が再び神在月の方に向けられたのでドキッとしたが、これは神在月を見ているのではない。彼は、ロナルドが来た方向を見ている。
     神在月もこっそり空気の匂いをかいでみるが、もちろん何も感じなかった。
     吸血鬼対策課の中でもこの新横浜所属。あそこにいるのは精鋭中の精鋭だ。何が出たかは知らないが、まだ目標は見える距離にはいない。それに、公園にいるうちの一般人吸血鬼に反応する様子もない。嗅ぎ分けているのだ。
    ——いやあ…………かっこよすぎんか
     神在月は、心の中で長い長い溜息をつく。
     若き頃の神在月の進路選択は一つしか見えていなかったし、それを除いても、ダンピールの能力がどうこう言う前に向いてないと分かっていたから、吸対の道など思考の外だった。そして現場で発揮される能力を目の当たりにすると、現実的に自分にあれは無理だと痛感する。
     あの彼がどういう経緯で吸血鬼対策課に入ったのかわからない。ただ、適材適所と言う言葉が頭に浮かんだ。
     三人がうなずきあって、ロナルドが元来た方へ走り出す。再び神在月の脇を通る際、
    「じゃあお気を付けて!」
    「ロナルド先生も…」
     声掛けに返した返事のロナ、くらいのところで、退治人の背中はあっという間に遠ざかり、返事の残りは小声にトーンダウンしていった。
     これから危険な場所に赴くのは彼だというのに。書く作品も素晴らしいものながら、彼は町と人を守る退治人だ。もうひとつの適材適所の例を見送っていると、拡声器のガサッとした電子音が聞こえた。
    「これからこの公園に大型の下等吸血鬼が○○方面から誘導されてきます。市民の皆様、退避お願いします」
     特にざわつく様子もなく、慣れた雰囲気で公園内の人々が移動を始める。ロナルドが走っていったのと反対方面だ。自分もそちらから出るかと、移動最短距離をとったら中央近くを通ってしまった。マスクだった隊員が、そそそっと一人近づいてきた。それを見て拡声器で案内しているもう一人が「あ」と苦い顔をしたので、神在月はビクビクする。近くで見てわかる。やはりダンピールだ。良い顔してるな、とおどおどしながらも呑気に見ていたら、
    「神在月先生」
     突然名前を呼ばれて、さすがに驚いた。ロナルドがさっき伝えたのかと、思い至る。
    「いつも読んでます。面白いです」
    「あ、え、どうもです、あの、お気をつけて」
     生真面目な口調の早口に思ってもみないことを告げられて、ぐだぐだな反応をしてしまった。隊員は小さく頷いてから同僚の元に戻った。
    「先輩、仕事中にファンムーブしないで」
     たしなめられているのが耳に入る。先輩は特に気にした様子はない。いや先輩、と心の中で小さくツッコミを入れながら、作戦の邪魔にならないよう、神在月はそのまま黙って公園を出た。

     神在月は漫画を描くことしかできない。種族の能力よりもよっぽど、確実に自分にあると言える能力だ。もちろんそれだって個人差はあるものだけど、出版されて読んでもらって、面白いとまで言ってもらえて
    ——適材だったらいいな
     実はスキップしそうなほど浮かれた足を抑えながら、散歩はここで終わりとして、漫画家神在月は自宅の作業机を目指すのだった。
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