たとえそれが最後だとしても標神に意識を奪われる時間が日に日にのびていく
対策しようにも、相手はその存在を認知する程に干渉深度が増していく為、足掻けば足掻くほど「シエテ」でいる時間が減っていく。
のらりくらりな自身の性格もあってか、入れ替わっている事に気がついている者がいないのもまた皮肉だった。
このままでは、オロロジャイアが演算したように標神がこの世界を再創世してしまう、
危機感をおぼえたシエテは、自分に何があっても自分を殺してくれるかどうか…再度確認すべくグランに手合わせをもとめ、全力の力でグランに望む。まだ若干不安要素はあるものの、彼の仲間が加わればおそらく自分を止められるに足るまでグランは成長していた。
その事に安堵したシエテは、このまま殺されるのもありか…と思い、受け止められる攻撃をわざと受け止めずそのまま死のうとする…が、そこで意識が途絶える
※※※
目を覚ますと、見慣れてしまったグランサイファーの自室の天井。どうやらまたグランに救われたらしい。ベッドから起き上がろうとするも妙に狭い。
隣にはグランがいた。それも一糸まとわぬ姿で。自分はというとシャツのボタンが全て外れており少し乱れているだけ…ではなく、目線を下に移してため息をつく。
標神の仕業だろう
怒りと焦燥にかられるシエテ。
確かにグランには思いを寄せていたが、彼はまだ子供。手は出さずにいたのに…
ますます認知を高めていくことになる。
もうグランの元にはいられない。
団を抜けることを決意するシエテ
もうこのまま、自ら命を手放すのも手かもしれない。
せめてグランの知らぬところで。
団を抜けることを置き手紙に残し、去ろうとするシエテ
それを起き抜けのグランが止める。
思わず、「ごめんね」と謝ってしまうシエテ。
すると「やっぱり違う人だったんだ…」と、グランが言う。
ああ、どうして彼はこんなにも聡いのだろう…
どうやら皮肉にもグランは「彼」が「シエテ」と違う存在であると「認知」したらしい。誰にも気づかれなかったのに、彼だけは気づいてくれた。その事に嬉しさに思わず胸から込み上げてくるものがある。しかしそれは同時にまた1歩自身が彼に侵食されていく事を意味していた。
「さすが団長ちゃん、」と、つい本音を吐露し笑ってるような泣いているような顔をしてしまう
「説明してよ、また何か1人で背負おうとしてるでしょ…」
「なんの事かな。俺は俺だよ?」
「さっき流石、て…」
「いやぁ~さすが団長ちゃん、すごい想像力!て言いたかっただけだよ~」
さすがに無理があったか…と内心焦るが続く言葉が出てこない。
無言の尋問に根負けする
「ごめんね。今はこれしか言えないんだ」
「どんなに僕が強くなっても?」
「う~ん、あのさ、団長ちゃんはさ、この世界のこと、好き?」
「はぐらかさないでよ」
「まぁまぁ、ね、どう?」
「好きだよ」
「つらいことも、悲しいこともあるよね…時には、恩を仇で返されたり、裏切られることだってある。それでも?」
「うん。守りたいって思う」
「そっか…その気持ち、団長ちゃんはずっと忘れないでいてね?」
「?」
「その世界の中にもし、俺も含まれてるのなら…十天衆のシエテのことも忘れないでいてくれると嬉しいな。」
聞こえるか聞こえないかの声で言う
「シエテ?」
「さて、俺はそろそろ行かないと」
「どこに?」
「おしごとだよ」
「ふーん…僕にこんなことして、そのまま置いてくんだ?」
「ぅ…痛いとこつくなぁ…」
無言の圧力
「ところで団長ちゃん、服着なくて平気なの?」
「あ」
赤くなる団長、じたばたして服を着出すその隙に
シエテがグランの顎を指で掬い唇を奪う
「じゃあね、団長ちゃん」
※※※
服を着た。
そして、机に置かれた手紙も読んだ。
本当にシエテは勝手だ。
手紙にはこう書かれていた。
次に会う時は
迷わず俺を殺せ
思わず手紙を握りしめてしまった。
質のいい紙がグシャリと音を立てて皺をつくる
そして末尾、
一緒に星の海を見に行けなくてごめんね
今まで本当にありがとう
団長ちゃんならきっと辿り着けるよ、イスタルシアへ…
やっと、生きる選択をしてくれたと思っていたのに。
やっと、シエテの隣にいられると思っていたのに。
まだシエテの温もりが残るベッドの上で
膝を抱え、暫く声も立てずに泣いた。
※※※
気がつくと夜明けに遠くも近くもない時間だった。
流石に寝る気も起きず、甲板に出る
今日の夜空はどこか不気味だ。
孤独で寂しかった小さい頃を思い出す。
光でも闇でもない、夜明け前の空。
月も星も太陽も存在しているその様は、全ての時を閉じ込めているようでどこか歪んで見えた。
ふと、シエテであってシエテではない男の事が思い浮かんだ。夜明け前の空はどこか彼に似ている。
時折影を見せるものの、お日様のように眩しくて優しいいつもの声色とは違い、太陽を望まない夜、暗く落ち着いた海のような声色だった。でも漆黒にはなり切れないそんな声。
僕を組み敷いた彼は、
全てを諦めて星を何処かに置いてきた空っぽの瞳で、そんな夜の海のような黒の声音で僕に言った。
世界は歪だ。
こんな幼い少年に全てを委ねてしまうだなんて
力無き者たちは、君への恩など忘れたかのように
君に全てを背負わせる。
そんなのは可笑しいだろう。
俺は君を殺したくなかった。
でも世界のためには
君の存在はあまりに歪みを生む存在だった。
だから消した。
世界のために、世界のために、世界のために…
空っぽだった彼の瞳に窓の月明かりが差し込んだのか、ぼんやりと光が揺れている。
でもね、ある時気づいたんだよ…歪んでるのは世界の方だってね。
歪みを正しても結局歪んでくだけなんだ。
だから、俺は…世界を創りかえる。
君が、俺が、みんなが…等しく生きられる世界を
だからね、特異点。
僕の頬に彼の指が触れる
存外優しい手つきだった。
「シエテ」がいなくなっても悲しむ必要はないんだ。きっと同じ道をたどるからね。
いなくなるって…どういうこと?
いずれ分かるよ
おやすみ、特異点
きっと彼は僕の知るシエテじゃないんだろう
でも、その根底にある優しさは変わらない様に思えた。
自分よりも他者を、世界を…
自分がその世界に含まれていないところなんてソックリだ。
……