Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    mame

    小話ぽいぽいします
    リアクションとっても嬉しいです。
    ありがとうございます!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 104

    mame

    ☆quiet follow

    #絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説
    イメージ「真っ赤な空を見ただろうか」

    真っ赤な空を見ただろうか





    「夕日が赤くてきれいだな、で俺は終わってきたわけだけど、千空ちゃんは夕日が赤いのはなんでだろうってなってきてるんだよね~……つくづく別の生き方をしてきたんだなあって思っちゃうね」
     赤色に照らされた横顔はいっそ清々しささえ滲んでいて、そのとき千空はなにを返せばいいかわからず、潮風に吹かれるその横顔をただ眺めていた。ゲンだったらなにか返せたのだろうな、なんて思いながら。



     外にはアスファルトの道が通り、その上を車が走る。車道の端には街灯。建築物には企業が入り、飲食店ができ、住宅街も出来た。あちこちで平らにならした土地の争奪戦が起きては、高層ビル建設の噂が飛び交う。物流の面で陸路だけでなく、空路も海路も早々に整えられた。政界関係者や専門家が多く利用しているが、民間人が使いだすのも時間の問題だろう。
     世界各地で復活者が日に日に増え、日々新しくも懐かしい物が増えている。まだまだ三七〇〇年前の風景には届かないが、それでも石化前の科学知識も技術も復活した今、あとは現実が追い付いてくるだけだ。
     きっと表現するならば『復興中』だ。世界を復興させるための土台作り、敵の排除をしてきた千空たちの大きな役目は一旦の区切りをつけ、科学王国に属していた人間は少しずつ、人口密度と反比例するようにひとりひとりの距離が離れていった。同じ方向を向いていた時間は終わり、それぞれの視線の先にあるものが変化した。
     それでも今なお繋がり自体は消えず、石神村で定期的に集まったりもしている。
    「まるで同窓会だね」
     そう言ったのは誰だったか。その同窓会の場に、芸能人『あさぎりゲン』は一度も顔を出さない。
    『今晩もはじまりました、あさぎりゲンのジーマーでゴイスーレデイオリターンズ~。お相手はご存じあさぎりゲンでお送りしま~す』
     間延びしているのに、やたらと耳障りが良いそんな声が千空の右側から聞こえる。千空はそれを流し聞きながら明日行う実験のロードマップをかりかりと音を立てて紙に書き込む。あの頃、ゲンが漉いてはラボに持ってきてくれていた手作りの紙は、いまや工場で大量生産されている。電子媒体でも問題はないが、それでもあの頃の集中した記憶は習慣化し、紙に書くというのは千空のなかの実験へのロードマップの中に組み込まれている。
    『ラジオネーム、風吹けば恋さん。お便りありがと~! え~? ラジオネーム恋するウサギちゃん的なきゅんネームじゃない? いいねえ……え、三七〇〇年前のジョークとか言わないでくれるジャーマネちゃん。みんなまだまだ記憶には新しいでしょ……うそ、そうでもない? いや俺は結構早めに復活してたから、そのあたりのラグは気をつかってくんない?』
     飄々としたトークに少し頬を千空は頬をゆるめる。あの頃、千空の隣にはいつもこの声があった。とりとめのない話を聞く権利など考えなくても、それはいつでも享受できたものだった。千空が作業をして、その隣でゲンが作業をして。それが当たり前だった。
     千空は書き込みの手を止める。並行作業が当たり前の千空にとっては手を止めるといのは異質なことだ。自分自身でもそれを自覚しながら、それでも千空はラジオを見つめる。みつめる場所はスピーカーがあるのみで、ゲンの姿かたちもない。
     千空手製のラジオから聞こえるのはゲンのラジオ番組だ。復興が進み始め、人口が増え、個々のメンタルケアが追い付かなくなったとみんなが理解する前に、ゲンはいちはやく科学王国から離れた。
    「仕事のフラストレーションがたまったときこそエンターテイメントでしょ」
     そう言って、ゲンは元居た芸能界・ショービズを活性化させるべく走り出した。その背中に触発されたのは千空だけではない。任せといて、と笑顔で科学王国の面々から離れていったゲンとはそれ以来顔を合わせていない。ゲンがいなくても当たり前に千空の世界は進んでいって、滞りなく時間は過ぎた。ほんの少しの違和感さえなくて、少しだけ寂しく思った。それさえ少しの寂寥感で、あっという間に千空の整頓させた感情の一部になり仕舞われた。だから、数年経ってすっかり大人になって、そんな状態で毎週水曜日、その男のラジオを日没前から人払いをしたうえでラボで一人聞きながら作業をしているなんて、元科学王国の面々に知られたらどうなることかと千空は苦い笑いを浮かべるしかない。
    『えー、相談内容は……男友達だと思っていた相手と出かけて、その帰りに一緒にみた夕焼けがとてもきれいで、恋なのかもしれないと思ってしまいました。あさゲは恋を自覚した瞬間はありますか? と。なるほどね~~~、え、風吹けば恋ちゃんは何歳? 高校生か! いいね、青春だね~!』
     にこにこと笑みを浮かべているんだろうゲンを想像して千空は一度目を緩めた。
     ゲンは人の生活を尊べる人間だ。人間の構造から理解し、別個のものだと考えている千空とは考え方がそもそも違う。それが自身の価値観と違うものであろうと受け入れて、かみ砕いて、割り切ることが出来る。それができる人間はそうそういない。
    『恋を自覚した瞬間か~……難しいけど、じわじわとああこれは恋なのかもなあと思ったことは確かにあるかな……え? うそ、いや、無理でしょ……えー、勘弁してよ……はい、いまね、カンペが出ました。くわしく、だそうです。もっかい言うけど勘弁してくれない……?』
     スピーカーごしのたじたじした苦笑に千空は今度こそクツクツと肩を揺らして笑った。珍しいなと思う。そして久しぶりに揺れ動く声を聞いたとも。千空は紙に走らせるペンの動きを再開させる。
    『今日のギャラ弾んでよね!? ビ―ル一杯じゃ誤魔化されないからね!? ……まあ、なんていうか、風吹けば恋ちゃんに青春トークに免じて話しますと、俺の俗にいう青春時代って多分短かったのよ。高校在学中にアメリカにマジック修行に出たからさ』
     お、話すのか。素直にそう思った。ゲンは過去を昔も、そして復興に携わる中でもあまり言ってこなかったので。そういう売り方をしなかったというのもある。
    『で、帰国してがむしゃらに芸能界に食らいついて、そこからはみんな一緒よね、ある日突然石化して……復活したらわけもわからず走り出すしかなかった。その途中に多分恋しちゃったんだよね』
     ぴたりと千空の動きが止まった。口を半開きにして、やはり居もしないゲンの姿を探してラジオへ視線を投げる。あるのはやはり千空が作った手製のラジオ。あとは電波に乗って耳に届けられる偽物のゲンの声。
     恋、してたのか。そう漠然と思った。胸の奥が焦げ付いた感覚がした。
     ゲンが隣にいなくなったことでその焦げ付きが焦燥感だというのは気付いていた。物足りなさも寂しさも、それは恋しさに繋がっていて、いなくなって気付くなんて陳腐なラブソングのフレーズを千空は笑えなかった。だからといって、連絡することさえ叶わず、同窓会と称された集まりの度にゲンの姿を探して奥歯に力を入れる日を繰り返し、電波を介したゲンの姿を追い求めた。なんて無様だろうと思う。復興の立役者だなんだと褒めたたえられる千空の正体なんて、実際初恋に遅れて気づいて努力することさえできなかった残念なただの男だ。
     そんな男にした相手はすでに芸能人様で、第一線を走り続けている。千空がこのラジオを聞いてフラストレーションを発散している時点で、ゲンが任せといてと言ったものはしっかりやり遂げているわけで、やはりゲンは千空が惚れた相手だった。だからこそきっと千空の隣に今いなかった。
     スピーカーの向こうにいる男はきっとこちらで千空がこの話を聞いているなんて思いもしないのだろう。つらつらと話を続ける。
    『ある日さ、夕日の話したの。なんかね、その日の夕日がすっごく赤かったのよ。俺嬉しくなっちゃって。風吹けば恋ちゃんと一緒だね。で、嬉しくて言ったの。真っ赤できれいだね、って。そしたらさあ、相手はなんていったと思う? なんで夕日が赤く見えるか説明してくれたのよ。もうロマンチックのかけらもないじゃない。俺びっくりしちゃって』
     くすくすとゲンが笑う。千空のペンを持つ手がぴたりと止まった。心臓がとくとくといつもよりも大げさに跳ねた。訳もなく窓の外をみやった。西日が差してオレンジ色が千空しかいないラボを照らしていた。――その会話には、覚えがあった。潮風にゲンの横髪が揺れていた。宝島から一旦石神村に戻る船の中。やけに夕日が赤い日。甲板で夕日を眺めるゲンと交わした会話だ。ゲンの相手は、千空の妄想が作り上げた記憶でなければ千空だった。
    『できることなら相手の力になりたくて、負担になりたくなくて、前を向く手伝いをしたくて、でもどうしたって別々の存在で、価値観も考え方も育ち方も何もかもが違って、それでもなにかしてあげたかった。相手の何者かになりたかった』
     ふふ、と柔らかい音色で笑いながらゲンが話し続ける。不特定多数に対し、あの頃千空と内緒話をしていた時の音色で。なんでだ、と思った。千空はがたんと音を立てて椅子から立ち上がる。喉がふるりと震えた。
    『ぜ~んぶ終わってから気付いたけど、あれは間違いなく恋だったし、走り回った日々は俺の青春だったんだよね。気付いた瞬間なんかなかったよ、そんな甘酸っぱいものじゃなかった……ほら、そんな顔みんなしないでくれる!? 話させたのそっちだからさあ!?』
     声色を明るい物にがらりとゲンが変えた。おそらく収録ブースのマイク前でへらへらと笑っているのだろう。その表情を直接見たいと思った。千空は財布と随分と小さくなった携帯電話を持ち、作業机を片付けないままラボを飛び出した。
    『バイヤ~語っちゃった! メンゴメンゴ! でも満足してもらえたかな!? クレームならこれを語らせたスタッフに言ってね! では次のおたより~』
     千空がいなくなったラボでゲンの声が響く。つけっぱなしにされたラジオはそのうち電池が無くなるのだろう。構わずラボの外にでた千空の目に飛び込んできたのは真っ赤な夕焼けだ。思い起こされるのはペルセウスで交わしたゲンとの会話。
     夕日が赤い理由をつらつらと述べた千空の話を興味深そうに聞きながら、ほんの少し寂しそうな表情を浮かべたゲンの顔を今でも覚えている。あの瞬間、もしかしたら、ゲンはいろんなことをあきらめたのかもしれない。千空だって、気づいて、終わったのかと思ってあきらめた。でも。でもだ。
     白衣の裾をひらひらと翻し、千空は整った歩道を走り出す。あの頃ゲンが走った箱根の道とは大違いだ。それでも体力のない千空にはキツイ道のりだ。行き先は生収録が行われているラジオ局。互いに互いのことが分かりすぎて、そして割り切りすぎていていた。千空の欲しい言葉をくれていたゲンに、あの夕日を眺めていたとき千空はゲンが欲しい言葉をやれなかった。だってふたりは別の人間だから、それは当たり前なのだ。それが、ゲンの恋を終わらせることになったなんて一ミリも思っていなかった。でも、あの時、千空だってゲンの笑顔を見たかった。屈託のない笑みをくれなかったゲンに寂しさを感じて、それで。それで。
    「勝手に過去の青春にしてんじゃねェぞ、テメーも、俺も……!」
     はあ、はあと息切れしながら走り続ける。収録現場にたどり着いたころにはきっと真っ赤な空だ。何を言えばいいかわからない。夕日が赤いメカニズムはもう話した。心理学のことはわからない。月が綺麗ですね、なんていうガラでもない。
     でも、だから、千空はまず驚きの表情を浮かべるだろうゲンを抱きしめようと思うのだ。もし抱きしめかえしてもらえたなら、もう二度と離さない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💯❤😍😍😍💖🌇🌇🌞🌞🌞🌕👏👏👏💒💒💒💒💒💘💘💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    mame

    TRAINING #絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説
    罰ゲーム、選曲は三ツ星力ルテットです
    時間軸は石油探索中
    石神村と旧司帝国の情報共有のための定時連絡は役割としては決まっていない。
     一日の作業が終わり、残すは就寝のみという時間。数分間のみの電波を介してのやりとりをする。それだけなので、石神村は千空が自然と固定になったとしても、農耕チームの方ではわざわざ決めなかったのだ。
     だから最初は気にしていなかった。しかしこうも連絡係としてある人物が出てこないとは思ってもみなかったので、千空は少しずつ少しずつ不思議な感覚に蝕まれていった。
     大樹、杠、仁姫、カセキ……と毎晩電話を天文台に持ち込んで石油探索チームで通話を担当する千空の相手は変わる。みんな楽しそうに農耕チームの情報や不足している物資のことなどを千空に伝える。情報の取りまとめがあまりに秀逸で、間違いなくあの自称ペラペラ男が噛んでいることがわかるのに本体を掴めない。ついに本日、通話相手がスイカになったことにより千空はこれがゲンの意図的なものだと確信を得たのだった。理由はわからないが、ゲンは千空との接触を絶っている。
    「なんなんだアイツ……」
     眉間にシワを寄せぼそりと呟いた音が通話相手のスイカに届いたらしい。言葉自体はわからなかったようで聞き 2557

    mame

    DONE #絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説
    イメージ「真っ赤な空を見ただろうか」
    真っ赤な空を見ただろうか





    「夕日が赤くてきれいだな、で俺は終わってきたわけだけど、千空ちゃんは夕日が赤いのはなんでだろうってなってきてるんだよね~……つくづく別の生き方をしてきたんだなあって思っちゃうね」
     赤色に照らされた横顔はいっそ清々しささえ滲んでいて、そのとき千空はなにを返せばいいかわからず、潮風に吹かれるその横顔をただ眺めていた。ゲンだったらなにか返せたのだろうな、なんて思いながら。



     外にはアスファルトの道が通り、その上を車が走る。車道の端には街灯。建築物には企業が入り、飲食店ができ、住宅街も出来た。あちこちで平らにならした土地の争奪戦が起きては、高層ビル建設の噂が飛び交う。物流の面で陸路だけでなく、空路も海路も早々に整えられた。政界関係者や専門家が多く利用しているが、民間人が使いだすのも時間の問題だろう。
     世界各地で復活者が日に日に増え、日々新しくも懐かしい物が増えている。まだまだ三七〇〇年前の風景には届かないが、それでも石化前の科学知識も技術も復活した今、あとは現実が追い付いてくるだけだ。
     きっと表現するならば『復興中』だ。世界を復興させるための土台 4794

    recommended works