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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    なんでもできちゃうロの巻

    「でーく、んな気にすんなって」
    「無理だよ……気にするでしょ……」
     通路脇にある椅子に腰かけながらかけられる声に、出久は情けない声で答えた。体勢は自然と項垂れ、現在そんな出久の背中をロディがぽんぽんとやさしく叩いてくれている。
     平日の日中から広がる不思議な光景を、空港の職員が遠巻きに見ていることはわかっているが、出久の気持ちはなかなか浮上しなかった。


     出久とロディが日中一緒に出かけられることなんて、なかなかないことだ。
     なにせロディが日本へ来るときは日本時間の早朝に空港へ到着する国際便のパイロットとしてやってくるわけで、ゆっくりできる時間といえば到着日の日中がメインだ。その時間は基本的に睡眠をとることになるし、さらに言えば出久のヒーロー活動も基本的に日中から夜までで。そしてロディは大抵その次の日の昼くらいには空港へ向かってしまう。往路のフライトのためだ。そういうわけで、出久とロディの会う時間というのは主に夜になる。
     夜は夜でもちろん楽しいのだけれど、まる一日一緒にすごせたらいいのになと思うこともしばしば出久にはあった。なにせロディと過ごす時間は出久にとってかけがえのないものなので。
     だから今回は日本の滞在期間が離着陸日含めて四日あるとロディから事前に連絡が来た際、出久の行動は早かった。
     先輩サイドキックに深々と頭を下げ、すでに出ていたシフトの調整を請うた。意外にもスムーズに「いつもわがまま聞いてもらって助かってるのはこっちだから」と変更は受け入れられた。これまで特に何も考えずシフト変更を二つ返事で受け入れてきていた過去の自分を、出久はこのとき初めて褒め称えるに至った。
     つまり、本当に楽しみにしていたのだ。
     休みを丸二日つくって、ロディに以前プレゼントしてもらったシャツを着て、空港の仮眠室で一眠りしてからなら元気に外出できるはずというロディを空港まで迎えにいくくらいには。
    「とりあえず腕まくっときゃわかんねえよ」
    「むしろなんでロディは気にしないの……」
    「いや、言っても服だしな……服はダメになるもんだろ?」
    「そうかもしれないけど……」
     ピノが出久を慰めるように肩に乗り、ピィと鳴いた。優しく頬を突いてくるピノに、ピノ〜と情けない声をあげれば、ロディが呆れ混じりの表情を見せた。しかし相変わらず、ぽんぽんと出久の背を叩く手つきは優しい。完全にあやされている自覚はある。そのロディの手つきに涙が出そうになりながら、出久は己が着ているシャツの袖へ視線を投げた。
     着やすいリネンシャツのちょうど上腕のあたり。デザインでもなんでもなく、すっぱりと切れ目が入り、そこから出久の肌が覗いていた。
    「だってロディがせっかくプレゼントしてくれたものなのに……」
    「あ、デクが気にしてんのそこなんだ? てっきり切れちまった服着てこのまま外歩くのがいやとかそういうことかと」
    「自分で買った服だったらこんなにへこむことないよ!? 君からもらったものだからだってば!」
     涙目でわっと主張すれば、若干めんどくさそうな表情をしたロディがそうかよと呟いた。逸らされた視線はなにを思って逸らされたのだろう。幻滅されるのは嫌だなと思いつつ、それでもショックは拭いきれない。

     ことの発端は、数十分前にさかのぼる。
     ロディを迎えに行くべく向かった上機嫌に訪れた空港で、体の一部を刃物にする個性のヴィランと対峙するとは、出久も全く思ってもみなかった。
     危機感知が働き咄嗟に攻撃が直撃することは回避できたが、ロビーに入るなり攻撃を受けたのだ。急いで出久は状況を把握すべくあたりを見回した。出久がヴィランを視認したときには既に人質が取られ、警備隊が出方を伺っている状態で。利用客を避難させた空港の職員も固唾を飲んで様子を見守っていて、その中にはロディの姿もあって。
     縦横無尽に刃物を繰り出し、無差別に人を傷つける可能性があるヴィランだと理解した出久は、すぐにヒーローモードのスイッチを入れ、ヴィランを早々に制圧し、無事人質も解放した。事件解決である。
     なんでここにデクが!? とギャラリーが騒ぎ始めたところで、出久はくい、と手を引かれた。それは勿論私服姿のロディで、そのロディに手を引かれ人目のつかない空港のバックヤードに連れ込まれた。あのままだったらギャラリーに囲まれていたかもしれないと安堵し、お礼を告げようとしたタイミングで、心配そうな表情のロディに出久は聞かれたのだ。
    「そこ、ぱっくり切れてるけど、怪我はねえのか」
     と。え、痛みはないけどとロディが視線を寄越している右腕上腕部を出久はみた。ロビーに入るなり攻撃を受けた場所だな、と頭の隅っこで考えながら。ロディの言う通りぱっくりいってるなら流石に痛みが出る筈だけど、と見やったそこは、たしかにぱっくり切れていた。なにがって、服がだ。
     職員専用通路に、出久の悲鳴が響き渡った──そしていまに至る。

    「そんなに気に入ってたのかよ」
     肌触りが良く、ゆるく気軽に身に纏える万人受けするデザインのそのシャツは、ロディが今年の出久の誕生日に買ってくれたものだ。普段使いしやすいシャツを本当に気に入っていて、あまり服にこだわりがない出久でも良いものだというのはわかった。なにより、ロディが出久のために、出久を思って選んでくれたのが嬉しかったのだ。
     やはり涙目でこくりと頷く出久に、ロディは大きなため息をついた。
    「……よしわかった。そこでちょっと待っとけ」
     そしてすくっと立ち上がったロディは、出久にそれだけ言って通路の奥の扉を開け姿をけした。ぱたんと閉まった扉を出久が呆然と見つめていれば、すぐにロディはその扉をあけ戻ってきた。手には先程は持っていなかった小さなポーチがあり、これを取りに行ってたのかと出久は理解する。
     通路脇の椅子に座る出久の前に、すらりと姿勢良く立ったロディは、出久を見下ろし簡潔に言葉を述べた。
    「脱げ、デク」
    「え」
    「ほら。それともお子ちゃまデクはバンザイが必要か?」
     いつまでも拗ねている出久を揶揄うようなロディの口調にわずかにむっとしつつ、それでもピノが労るように出久の頬を突くので、出久は素直に着ていたシャツを脱いだ。薄いインナー姿になって、脱いだシャツをロディに渡せば、そのシャツを手に持ち、ロディが出久の隣に再び腰をかける。
     程よく足を開いて座ったロディはポーチからハサミを取り出した。そうして、躊躇なく出久が脱いだばかりのシャツに刃を入れた。ジャキン、と無情な音が通路に落ちる。
    「なっ、なっ、なっ……!?」
     あまりの光景に、出久は手をわなわなと震わせ、シャツとロディを交互に見やった。
     切った。切っちゃった。なんで!?
     大混乱の中、出久がロディの横顔を見れば、ちらりと出久に視線を流したロディが苦笑する。どうやら出久の混乱を感じ取ったらしい。
    「まあ、落ち着けって」
     はらりと落ちた横髪を指先で耳にかけ、そう言ったロディは再びポーチに手を入れた。次に出てきたのは針だ。その針を使い、ロディは切ったシャツの縫い目を器用に解いていく。よく見れば、切った場所は袖とカフスのちょうど境目だ。
     縫い目をとり終えたロディは、今度はヴィランの攻撃により裂けてしまった部位を綺麗さっぱり切ってとり除いてしまう。また小さく「あっ」と溢れてしまった出久の声に、ロディが同じように小さく吹き出した。
     反対側の袖も同じように長さを合わせてから大胆に鋏を入れたロディは、今度は糸を針に通し、シャツの切りっぱなしになった袖口と、先に切り離していたカフスの端を器用に縫い合わせていく。
     ロディは鼻が高いし、睫毛も長い。その綺麗な横顔を俯け、彼は集中して手を動かしていた。下唇が軽く飛び出ているのは、ロディの癖だ。この癖を出久はとても可愛いと思っているのだけれど、口に出したことはない。きっと言えば二度と見られなくなることがわかっているので。
     変化していくシャツとロディの横顔を見ながら、だんだんと状況を出久は理解しはじめた。おそらく、ロディがやろうとしているのとは。
    「あんま見るなよ。集中できねえだろ」
    「いや、だって、まるで魔法みたいだ」
    「ははっ! 昔、ロロとララも似たようなこと言ってたな」
     顔をくしゃりと崩し、ロディは絶え間なく動かしていた手をようやく止めた。作業が終わったらしい。ロディが膝の上に乗せていた出久のシャツを両手で持ち、二人の正面に掲げてみせる。
    「……魔法?」
    「んな訳あるか。一部始終ガン見してたくせに何言ってんだ」
     先ほどと同じようなことをもう一度言えば、ロディは今度こそ鼻で出久のことを笑った。ピノが機嫌よく目を細め歌うように鳴き声をあげる。
     広げられたシャツは元来長袖のシャツだった。それをロディがヴィランに切られたシャツの袖の部分をカットし、七分袖のシャツにリメイクしてしまったのだ。
     ぱっと見では元からこのデザインだったのではと思ってしまうほどの出来だった。
     たしかに、ロディは裁縫ができる。それは出久だって知っていた。昔出会ったときに着ていたロディの服はつぎはぎがそれなりにあったし、ヴィランに胸を射られた出久の服を補修したのだってロディだ。あの時も器用に出久が着ていたオーバーオールの折り返しの布を切り出し、血で汚れ穴が空いた箇所をロディは補修してみせた。あの時もいつのまにか塞いがれていた穴に感動したけれど、今回のはまたレベルが違う。
     ぽかんと口を開けて「すごい」と呟く出久に、ロディがそのシャツを押し付ける。
    「ほら、これでいけるだろ。ま、素人仕事だ。気になるならとりあえずの行き先を服屋にして、」
    「着る! すごい! すごいよ! これでまだ着られる! 本当にありがとうロディ!!」
     渡されたシャツをぎゅっと出久が満面の笑みで抱きしめれば、ロディがわかりやすく目を泳がす。あ、照れてる。ロディの表情とシャツがまた着られる嬉しさで出久の顔はゆるゆるだ。
     そんな出久の隣で、先程まで針を持っていた指先で頬をぽりぽりと数回かいたロディは、ぼそりと口を開いた。
    「俺だってな、お前と出かけるの楽しみにしてたんだ。テンション低いままでいられてたまるか」
     吐き捨てる様に告げられた言葉に、出久は呆気にとられた。自然と落ちた顎に気付かぬまま、ロディを見ていれば、頬を赤くさせたロディがすくっと椅子から腰を上げた。
    「荷物とってくる! さっさとそのお気に入りのシャツ着て表で待ってろ!」
     そういうなり、ロディは足早に先程の扉を開き、奥へ消えていった。あの先にロッカールームがあるのだろうなとぼんやり思いながら、出久は落ちていた顎を元の位置に戻す。しかし、頬が緩むのを止められない。
     ねえ、ロディ。デートのつもりで、いいかな。いいよね。
     脳内でロディに話しかけ、勝手に答えを導き出した。出久は腕時計を確認して、この後たてていた予定を頭に思い描く。そこまで時間は押していない。最近できた轟おすすめの個室で食べられるお蕎麦屋さんで昼食を取るのは変更なしでいいだろう。
     そのあとはロディの希望を聞くつもりだったが、出久としては服を直してくれたお礼がしたい。こんなに満たされた気持ちにしてくれたお礼がしたい。
     ロディがされて嬉しいことはなんだろう。シャツに袖を通しながら、出久は考える。ロディが笑顔になることがいい。
     結局考えすぎて、いい案が浮かばなかった出久が、表にやってきたロディに直接尋ねれば、ロディは歯を見せいたずらっ子のように笑いながら「10万ユールでいいぜ」と答えたのだった。
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