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    mame

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    mame

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    出ロデ 付き合ってる未来捏造軸のふたり
    お題:煽るように「なあ、ヒーロー?」

    「デーク?」
    「……はい」
    「この期に及んで、なあに怖気付いてるわけ?」

     ベッドに押し倒され、ロディの顔の両サイドに手をついた出久が熱の籠った瞳でロディを見下ろしはじめて早数分。
     濡れたままのロディの髪の毛が散らばるシーツは、既に湿りつつある。後頭部にじとりとした感触を覚えながら、数分間。欲に満ちた色を変えることなく、しかし己の中の獣とひたすら戦っているらしい自身を見下ろす出久のエメラルドの瞳を、ロディは薄く笑いながら見つめ返す。
     シャワーを浴びて髪の毛を拭きながら廊下に出たところで、ちょうど出久が帰宅したのが事の発端だった。玄関の土間に立つ、酷く疲れを見せている出久にロディがおかえりと声をかければ、いつもはきちんと踵を揃える赤いスニーカーを雑に脱ぎ捨て、足音を立て出久が廊下を歩きはじめた。常なら見せないその行動に驚くロディの手首を強く掴み、出久はそのまま寝室にロディを引き摺り込んだ。寝室の明かりはついていないけれど、廊下とつながるドアを開けっぱなしなので出久の切羽詰まった表情はよく見えた。
     ひとりで眠るには広くて、ふたりで眠るには狭い。そんな出久のひとり暮らしの部屋のベッドに突き飛ばされ、そして覆い被さってきた出久を、ロディは何も言わずに受け入れるーーつもりだったのだけれど、その出久にそれ以降動きがない。
     ロディの太ももあたりを跨ぐ出久の股間にぶら下がるものを足を曲げ膝ですり、と触れれば出久が息をつめる。それでもまだ動かない出久にロディがかけた言葉が冒頭のものだ。
     出来るだけ、重さを伴わない音色を心掛けた。だからなのかなんなのか、出久がちゃんと言葉を返してくれて、ロディは僅かに安堵する。

    「……このまま、」
    「うん」
    「君を貪りたい気持ちと、」
    「ああ」
    「大事に、大切に、抱きしめたい気持ちがせめぎあってて」
    「ん」
    「どうしたらいいかわからない……」

     まるで親と逸れた迷子の子どものような、そんな声だった。
     ぽつりとそんな言葉を零し、出久は頭の位置をゆっくりと下げ、ロディの肩口に鼻先を埋めた。ロディがいま着ているのはゆるりとした襟ぐりのTシャツだ。剥き出しの肌に直接触れる出久の冷たい皮膚と熱い吐息がくすぐっくて、僅かに身を捩る。
     ーーきっとなにか、仕事であったのだと、思う。
     それは簡単に思い至ることが出来て、しかし深く聞くことは同じ職業でもないロディには出来ない。
     ロディのパイロットとしての壁と、出久のヒーローとしての壁は別ものだ。比較するものでもないけれど、人の命が関わってくるのは同じで、しかしそれでいて全くの別物だ。この壁の話は同じ職に就くものしか共有できない。そもそも説明事態が出来ないことも多いけれど、例えいくら細かく説明したって、そこに伴う感情を完全に理解することは出来ないのだ。
     そう、出来ない。出来ない、けれど。
     ロディは頬に当たる出久のふわふわとした癖っ毛にくすりと笑いながら、投げ出されたままだった右手をそっと持ち上げた。そのまま鼻頭をロディの鎖骨に擦り付けるように埋め続ける出久の後頭部に差し込み、くしゃりと撫でてやる。

    「デク」
    「……うん」
    「このままじゃあ、俺もしんどい」

     腰をむずりと動かして、ゆるりと硬さを伴っている己の中心を出久の腰骨に密着させると、腕に抱える出久の体温がぐっと上がったのがわかった。それに小さく笑って、ロディは言葉を続ける。

    「ちょっとやそっとのことじゃ、流石に壊れたりしねえし、大切にしたいなら存分に大切にされてやる」

     きっと事務所で着替える時にシャワーを浴びてきたのだろう。しかしロディが首を傾け頬を埋めた出久の緑がかった髪の毛からは、ロディの知らないシャンプーの香りに混じって、硝煙とわずかに血の匂いがした。その匂いに引き攣りそうになる喉を誤魔化しながら、ロディは出久に見えていないことを理解しつつ、いま自分が出来る一等優しい笑みを唇に描いて目を細めた。

    「だから、安心して好きに抱けよ……なあ、ヒーロー?」

     それでも言葉は挑発的に。なにせ出久は、このロディの表情を見ていない。出久の息を飲む気配がして、ロディは許しを伝えるべく出久の耳の裏に口づけを落とした。
     鎖骨に出久の歯が食い込む感触と同時、廊下につながる開けっぱなしのドアからこそりとこちらを覗くピノと目が合う。眉尻を下げごめんと言葉にせず視線だけで伝えれば、やれやれといった具合に半目の状態でリビングの方へピノが姿を消した。あとで機嫌をとってやらなければ突かれること必至だ。でも、まずは。出久のこの行き場のない感情を、受け止めてやるのが先決だ。
     出久の頚椎をひとつひとつ数えるように指先でなぞると、スタートの合図を貰った犬のように出久の手が乱暴にTシャツの中に入ってくる。腰骨を厚い手が力強く撫で、ロディの肌が粟立つ。シーツの上に放置したままの左手を出久の背中に回せば、足の間にぐっと立てた膝を入れられる。
     出久のいま抱えているものを理解は出来ないけれど、受け止めてやることくらいは、ロディにも出来る。
     もどかしさを感じないといったら嘘になるけれど、それでも互いに手の届く範囲に在ると決めたから。だから、ロディは出久の嵐のようなその感情を、いつだって全力で受け止めるのだ。
     この嵐が終わる頃には、ふたりで笑って冷たい麦茶でも飲めたらいいと願いながら、きっと昔と比べたら随分と厚くなったのだろう出久の掌をロディは受け入れた。
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