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    mame

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    mame

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    付き合ってない出ロデ プロヒ×パイロット
    副題:ろで~そ~るの脱出大作戦

    ノック・ノック・ノック① 昔から、物の構造を把握したりするのは得意な方だった。おごり高ぶることなく、ロディは自身のことをそう評価している。
     父親がパズルを与えてくれたり、家で飛行機や車のプラモデルを作ったり、飛行機の操縦教本に載っていた図解を食い入るように見つめていたりと、おそらくそういうことが影響していたのだとロディは思う。
     だからといって、まさか自分に『鍵開け』なんて芸当ができるとは露ほどにも思っていなかったのだけれど。

     ロディがそんな自分の知られざる才能を知るきっかけになったのは運び屋時代だ。言ってはなんだが、間抜けなヴィランとの仕事の時だった。
     その日のロディの仕事は街外れのレストランの店主から受け取ったスーツケースを反対側の街外れの酒場に持っていくこと。どうやら貸し切っているらしい酒場に入る前にピノをコートのポケットに隠し、引き渡し相手であるヴィランに鍵付きのスーツケースを渡して、酒場の中で報酬の支払い待ちをしていたのだが、どういうわけかロディがケースを渡して以降、やけに焦りはじめたヴィランがなかなか支払いをしてくれなかった。
     ヴィラン相手なので下手に急かすわけにもいかず、しかしいつまでも待っている訳にもいかず。なにせロディは家で弟と妹が待っている。そんなわけで、おそるおそる聞いたわけだ。
    「あの、支払いは……」
     そのロディの声にスーツケースをいじり続けていたヴィランは弾かれた様に頭をあげ、ロディを見た。びくりと身体を震わせたロディにずんずんと真顔で近づいてきたヴィランは、ロディの肩をがっと掴んだ。殴られる、と両目をぎゅっとつぶった瞬間、投げつけられたのは「テメー、ピッキングできねえか」という言葉だったのだけれど。
     聞けば、スーツケースの鍵をこのヴィランが管理していたらしいのだが、今朝その鍵を無くてしまったという話だった。ロディへの報酬はケースの中に入っているらしい現金から一部抜いて支払うという予定だった上に、ケースの鍵を開けた状態で組織のボスにケースを渡す段取りになっていると話した、デカい図体で震えるこのヴィランはどうやら下っ端らしい。
     ボス云々のあたりはロディには知ったこっちゃなかったが、報酬を貰えないのはロディも困る。ピッキングなんてやったことないし、どうすっかなと唇を尖らしていた時。ヴィランが情けない声で叫んだ。
    「これを開けてくれたら報酬を倍額だす!」
     ――ヴィランのこの発言でロディはピッキングをやったことない、から、やってみる、に自動的にシフトした。出来なかったらこのヴィランがひどい目にあって、ロディの本日の報酬がなくなる。出来たらロディの報酬が倍になる。そんなの、実質やってみる一択だった。
     そんなわけで、テーブルの上に置いたスーツケースの鍵をしっかりといろんな角度から観察し、鍵穴を覗き込んでなんとなく中の構造を把握したロディは、ヴィランが持っていたボールペンを解体した。取り出したパーツはバネだ。くるくると巻かれているそれをピンと一度伸ばしてから、覗き込んだ鍵穴の内部の形に合わせて折り曲げていく。そしてロディのポケットに入っていた妹・ララのヘアアレンジ用のヘアピンを一本取りだした。同じようにピンを伸ばし、これは曲げることなく、鍵穴に差し込んだ。
     左目を綴じ、鍵穴の中を覗き込みながら、ヘアピンで部品を持ち上げた隙間にバネを細工した細い金具をカチャカチャといじってみる。本当になんとなくでやっているので、できるかはわからない。なにせ初めてなので。やろうと思ったことすらなかったので。
     背後で固唾をのんで見守っているヴィランは、祈るような気持ちなのかもしれない。どんだけヴィランのボスって怖いんだ、一体なにをされるんだよ……なんてロディが思ったときだった。静かな酒場の片隅でカチャン、と何かが開く音が響いた。
    「「あ」」
     ふたつの声が重なった。もちろん、ロディとヴィランのものだ。
     ヴィランが大興奮でテーブルの上でスーツケースを開くのを、ロディは他人事のようにみていた。嘘だろ、できちゃったのか、俺――というのが、ロディの抱いた感想である。
     大喜びしたヴィランは呆気に取られるロディの背中をバンバンとロディの二倍ほどある手で叩き、スーツケースの中から現金を取り出して、まず約束の報酬をロディに渡した。その上でヴィランは己のポケットマネーから上乗せ分を支払った。ありがとう命が助かったなんて言って。
     大げさなやつだな、と思いながらロディはそれを遠慮なく受け取ったわけだけれど、今思えば、あのヴィランが言っていたことは本当だったんだろうし、あのヴィランはヴィラン業に向いてなかった。その日の夜、ソウル家の食卓には肉が出た。弟と妹は大喜びだった。
     あの頃は弟と妹に関係すること以外、どうでもよかったけれど、思い出した今なら思う。あのヴィラン、足洗えていたらいいな、なんて。


     それからはまさかの己の才能を生かさない手はなくて、逃走中に南京錠がかかったフェンスの戸を開けて逃走経路を確保したり、運び屋の逃走用にあの頃のロディ基準で街中に放置してあると言って問題なさそうな自転車をちょいと拝借したり。
     おそらく両手両足では足りない回数ピッキング行為をしてきたわけだが、ここ数年はとあるヒーローと出会ってから、まともに働けるようになった結果、逃げるようなシーンになることもなくて。つまりはロディのヒーローに顔向けできないような行為はてんでご無沙汰だった。

    ――だというのに、なんでこんな昔のことをロディが考えているのかと言うと。



     むき出しのコンクリートの冷たさを、久しぶりに感じた。別に嬉しくもなんともないのだけれど。
     照明のついていない荒れたコンクリートの広い部屋の中で、ロディは胡坐をかきながら天井を見上げた。通気口、なし。次いで正面を見据える。後付けしたのだろう、床から天井までびっちりはめ込まれた大きな黒い柵が、通路か他の部屋に繋がるのだろうドアまでの道のりを隔てている。柵の向こうの壁にはカーテンが閉められた窓もひとつ。おそらくこの部屋にカメラの類はない。ちなみにだけれど、ロディ自身の手は腰のあたりに後ろ手で縛られている。ロディの力ではちぎれそうにはないガムテープで手首をぐるぐると巻かれているようだ。

     単刀直入に言おう。ロディはいま監禁中だ。

     オセオン―日本便のフライトを終え空港を出て、友人と待ち合わせしている日本の繁華街に向かおうと駅に足を運び、電車に乗る前に入ったトイレで襲われた。頭を殴られ気を失い、目が覚めたらここで転がっていた。
     そう、拉致・監禁である。絶賛被害者ロディ・ソウルだ。
     ここどこ? とか、なんで俺? とか、犯人どこいった? とか、色々。本当に色々と疑問はあるのだけれど。とりあえず、ロディは自分自身の耳に届く程度の声色で相棒の名前を呼ぶことにした。
    「ピノォ」
    「ピ!」
     ひょっこり首裏から出てきたピノは、ロディのヘアバンドと首の後ろで緩く結んである髪の毛の隙間にしっかり隠れていたらしい。元気そうな姿に安心して、ロディは微笑んだ。
    「お、元気だな。んじゃ、部屋の中からなんか縄切れそうな物探してきてくれるか」
    「ピィ!」
     どこに犯人がいるのかわからないので小声でやりとりをする。ピノも羽音を立てないように、小さな足と身体で冷たいコンクリートの上を歩いて使えそうなものを探しはじめた。できた相棒である。
     そうしてピノが嘴に咥えて持ってきたのは薄いコンクリート片だった。割れ目が鋭利なそれは、しっかり働いた。ピノが小さな体でそのコンクリート片を使ってロディの手を拘束するガムテープを見事切ったのだ。
     こういうとき、意思疎通できる別個体の個性が存在するのは本当に有利だとロディは思う。相手に個性がバレない限り、の話だけれど。
     ロディはピノを全力で褒めてから、得意げなピノを横目に自身の状態を確認した。
     目立った怪我はない。なにかしらで殴られたらしい頭は痛い気がするが、問題はない程度の痛みだ。
     衣服の乱れもない。が、残念ながら腕にあった腕時計も、ポケットに入っていたはずのスマートフォンもなかった。あのスマートフォンにはロディの個人情報だけでなく、なかなかの有名人たちの連絡先が入っているので悪用されたら困るのだが、と頬をひくつかせる。とりあえず、スマートフォンを返却してもらわなければ外への通信手段は現状ないわけだ。時計も初ボーナスで買った記念の時計なので出来れば返してもらいたい。
     まあ唐突に頭を殴り、暗い部屋に拉致監禁なんてするような相手が返してくれるとは全く思えないのだけれど。
     そんなことを考えつつ、ロディは目の前にそびえる柵に近づいてみた。ピノが肩の上に乗ってきて、一緒に檻を観察し始める。
     天井から床に乱暴に埋め込まれたらしい黒い柵は鉄製で、近づいてみてわかったことだけれどしっかりと扉があった。ここに犯人がいない状態でロディがいるのだから、出入りする場所があるのはわかっていたのだけれど、暗くてよく見えなかったのだ。つまり、柵を切るような道具も個性もない今、脱出するにはここを通るしかない。もちろん、当たり前のように扉は鍵付きなのだけれど。
     扉にぶら下がっているのは南京錠。柵の隙間は余裕で腕が通る。残念ながら体が通るほどではないが電気が走っているとか、そういう仕掛けは柵にはないようだ。ロディは柵の隙間からするりと腕を伸ばした。人差し指がひやりとした南京錠に触れる。両腕を回しこんで十本の指で南京錠の形を確かめながら、鍵穴の位置を確認した。爪先で穴をカリ、とひっかく。そうしてロディは、肩に乗るピノとにんまりと顔を見合わせたのだ。

     これは道具さえあったら、イケる、と。
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