Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    mame

    小話ぽいぽいします
    リアクションとっても嬉しいです。
    ありがとうございます!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 104

    mame

    ☆quiet follow

    出ロデ
    スターライトシリーズ(https://www.pixiv.net/novel/series/7739629)の番外編、後日談です。新刊読んでなくてもいけます。

    ハッピーメリークリスマス! 一日目はチョコレート。
     二日目は飴玉。
     三日目はマシュマロ。
     四日目はクッキー。
     五日目はーーーー……。

     それが届いた時、出久はひどく喜び、そして驚いたのだけれど、同時に「らしいな」とも感じた。

     頻繁に会うことはない。それに対し残念だけれど不満はない。月に一度か、ふたつきに一度。もちろん予定が合わなければあもっと間隔が開く。ドタキャンだって多い。九十九パーセント、原因は緑谷だけれど。
     それが出久の婚姻関係を結んだ相手であるロディ・ソウルと会う頻度だ。
     そして師走である今月は会えない月である。なにせ事故発生率が高く、同時にヒーローとして参加するイベントごとがとても多いのだ。休みらしい休みもほぼない。元日なんて犯罪率も上がるから大晦日は基本的にヒーローたちは特別警戒パトロールをしている。
     前もってわかっていたため、十一月にフライト終わりのロディが出久の部屋に泊まりに来た時にこれらはすでに伝えてあった。ロディはというと「大変だねえ、ヒーロー」なんて言って肩をすくめ、落ち込む出久の肩を軽く叩いていたのだが、もしかしたらそのときにはもうロディの頭の中にはこのアイディアが浮かんでいたのかもしれない。
     出久は二十四と数字が書かれた小さな箱を引き開ける。中身はサンタクロースが描かれる包装紙に包まれたチョコレートクッキーだった。自然と口元が綻んだ。


     大きな箱に一から二十四の数字が書かれた小さな箱が整頓され収められているそれは、最近日本でも馴染みが出てきたアドベントカレンダーというものだ。出久の家の宅配ボックスに、十一月の末日に届いていた。差出人はもちろんロディ・ソウル。
     出久が小荷物をオセオンに送りつけることはよくあるけれど、ロディからというのはあまりない。だからそれなりのサイズである箱をマジマジと眺めながら階段を上り、自室に入って上着も脱がずに開封したところ、緑色と赤色の小さな箱が交互に二十四個、大きな箱へ納められた手作りのアドベントカレンダーが入っていて、出久は目を輝かせた。
     そしてそれとは別に手のひらサイズの小箱がひとつ。みれば二十五という数字が書いてある。さらにその箱にはメッセージカードがつけられていた。
    『絶対に毎朝ひとつだけ開けろよ。一気に開けるのはなし。夜勤の時は帰ってきたときだからな!』
     すっかり見慣れたロディの右上がりの英字に、ロディの優しさが詰まっていた。
     これはどれだけ忙しくても入院するような怪我をすることを実質禁止されたようなものだ。出久はひとりの部屋でふふっと笑い声を漏らす。夜勤の時の指定までされてしまったーーもう、クリスマスプレゼントを貰った気分だった。

     十二月へ入ってから毎日、毎朝、ひとつずつ。
     小箱を開けるのはとても楽しかった。そして小さなお菓子を口に放り込んでからロディにスマートフォンからメッセージを入れる。
    『今日のマシュマロ、イチゴ味だった! ありがとう!』
    『喉につまらせんなよ。いってらっしゃい、デク』
     すぐに寝る前だろうロディから返事が返ってきて、出久は上機嫌で自室を出てマンションの階段を駆け降りる。はしゃぐ出久の対応をするロディはまるで親のようだけれど、出久は別に構わなかった。だって、憂鬱だった十二月がこんなにも楽しい。これがなければ、事務所と家の間にあるイルミネーションやツリーを恨めしく眺めることになっていたかもしれない。
     朝起きてすぐ、出久はアドベントカレンダーの箱をあける。毎日小さなプレゼントが、過去のロディから未来の出久に渡される。
     六日目の箱にはりんご味の飴と一緒にララからの小さなメッセージが入っていた。十二日目の箱には雪だるまのアイシングクッキーとロロからのメッセージ。ふたりとも体に気をつけて、という内容で、朝から出久は泣く羽目になった。このアドベントカレンダーにふたりも一枚噛んでいることを知った瞬間でもあった。
     十八日目の箱にはロディからのメッセージ。チョコレート入りのマシュマロについていたメッセージは『アドベントカレンダー、楽しんでるか?』というメッセージで、出久は時差も気にせずすぐさま電話をかけた。
    「すっごくすっごくすっごく楽しんでるよ! アドベントカレンダー開けたいから怪我も入院も全然してないし夜勤から疲れて帰ってきてても元気出るし、ロディのおかげで本当に楽しくて、あ、もちろんロロくんとララちゃんのおかげでも」
    『わーかったから! 落ち着けって、デク』
     ロディが出た瞬間に語り出せば、ロディが電波の先で笑いながら出久を宥めた。ピノの笑い声も聞こえたので、ロディも出久が楽しんでいることを喜んでくれているのだろう。その日は直接いってらっしゃいの言葉をもらえて、寒さが厳しくなってきたがほくほくで出久は家を出た。
     六日間隔でメッセージが入っていたので、二十四日目にも入っているのかと勝手に思っていたのだが、箱に収められた最後の小箱である二十四日目にはお菓子が入っているだけだった。
     中身を全て開けてしまった箱を眺め、少しだけ残念な気持ちになりつつ、すぐに二十五日目の別の箱があることを思い出す。
     アドベントカレンダーというのは十二月二十五日までのカウントダウンカレンダーだ。毎朝あけていって、二十四日の朝最後の箱を開けたら、次はもう二十五日のクリスマス当日。二十五日の朝は本物のクリスマスプレゼントを開封していいというもの。だから、数字は一般的に二十四まで。二十五の箱は、ロディ特別製だ。二十五日の箱にはきっとロディから会えない出久へのクリスマスプレゼントが入っているのだろう。
     考えた人も、これを贈ってくれたロディも天才だなあと出久はひとり頷きながらチョコレートクッキーを頬張った。
     出久は買いに行くタイミングを逃したくなくて、先週ソウル家に少し早いけどと小包を出した。もちろん三人分のクリスマスプレゼントが入ったそれを三人はとても喜んでくれたのだが、出久も到着予定を二十五日にした方がよかっただろうか、なんて今更ながら考えつつ、ロディにいつも通りメッセージを送った。


     そりゃあもうボロボロでヘトヘトだった。
     怪我こそ大きなものはなかったが、服の下は擦り傷に小さな火傷まみれ。髪の毛も少し焦げている。でも、本当に一般人の被害がなくてよかったなあ、なんて背中を丸めながら帰路をたどる出久は本日二十四日、交通事故を防ぎ、火事から人々を救出し、横転した車の中から子どもを助け、プローヒーローとしてショッピングモールのクリスマスイベントにゲスト出演し、おもちゃ売り場に入った強盗を取り押さえた。
     時刻は二十一時。定時からしてみれば随分と遅いが、クリスマスイブとしては全然早いご帰宅である。ネックウォーマーに鼻先まで埋めながら、出久は襲来した寒波の影響を受けた大変冷たい風を顔に受ける。
     明日は遅番だ。その分帰宅は遅くなるけれど、今日は少し夜更かししても構わない。せっかくだから、コンビニでケーキでも買って帰ろうか。いや虚しくなるだけかな、なんて角のコンビニを眺めながら思う。少し迷って、コンビニに入った出久は、クリスマス用のチキンを一本だけ買って出てきた。ケーキはホールしか残っていなかった。ホールをひとりで食べるほど甘いものが好きというわけではないので。お腹は減っているが作るのは面倒くさいし、惣菜関係も駆逐されていたので買えなかった。辛うじてチキンが残っていたので買ってきた次第だ。
     ぶらぶらビニール袋を揺らしながらまっすぐ家路を急ぐ。明日の朝にはロディからのクリスマスプレゼントを開けられる。自然と足早になった。疲れ果てているというのに、これもクリスマスマジックのひとつなのかも、なんて浮き足立つ自身を一度笑って、マンションのエントランスに入った。
     階段を駆け上がり、廊下を通って自室の玄関の前へ。鍵穴に鍵を差し込み、ガチャリと回して押し開ける。
     ーーーーああ、今日も暖房を予約するのを忘れたなあ、なんて思いながら開けた玄関から、冷気が漂ってこない。
    「え?」
     それどころか、ダダダダッと複数の足音が暗闇の中を玄関に向かって走ってくる。
    「え?」
     危機感知は発動しない。おそらく悪意はない。じゃあ、なにが、だれが、出久の家に、どうやってーーーー。
     それでも攻撃に備え、出久は構えた。と、同時、パッと目の前が明るくなり、パァンッ! という破裂音。拳銃か、と構えたが痛みはどこにもない。
     突然の眩しさに目を細めながら、わずかな火薬の匂いと舞い落ちる紙吹雪と紙テープの存在に気づけば、目の前に広がる光景に出久は息を飲んだ。
     開かれた扉の向こう。リビングで、オーナメントが飾られたクリスマスツリーがチカチカと赤と緑のライトを光らせている。ちらりと見えたテーブルの上にはクリスマスのご馳走。そして目の前には、
    「メリークリスマス、デク!」
    「おかえりデク兄ちゃん!」
    「デクさんお疲れ様!」
     空っぽになったクラッカーを持ちながらロディと、そのロディを挟んで立つロロとララ。出久の、新しい家族が満面の笑みで立っていた。
     ひらひらと落ちてくる紙テープが視界に入るのに、出久はぽかんと口を開けた。
     危ないからクラッカーは人に向けちゃダメだってお兄ちゃんが言ってたのに、なんて唇を尖らすララにロディがデクは含まれねえなんてとんでも理論を繰り出している。そんなふたりの隣でロロがまあまあ、と諌めていて。え、なに。なに? なに? え?
    「なんで三人がいるの……? メリークリスマス……」
     バクバクと主張する心臓がうるさくて、アウターの上からぎゅっと握り込めば、ピノがロディの首元から飛び出してきて、ぽてんと出久の頭の上におさまった。その重みに、ああ夢じゃないんだとやっと現実味が湧いてくる。
     出久の言葉に、三人の顔がぐるんと出久の顔を見た。キョトンとした顔をしたかと思えば、三人は顔を見合わせゆるく笑って、口を開いた。
    「なんでってそれは」
    「クリスマスはね、デクさん。オセオンでは」
     ララとロロが眉尻を下げる。もこもこのセーターがあったかそうだ。
     ロディが出久の手にフライングだけどと呟きながら二十五、と描かれた箱を手渡す。手の中に収まった箱を見て、ロディへ視線を移すと顎をしゃくってくるので、出久は玄関に立ちっぱなしのまま、その箱を開封した。開封すべく下げた頭の上に、ロロの言葉につなげたロディのあたたかな声が降ってくる。
    「家族で過ごすもんなんだよ」
     弾かれたように顔をあげれば、ノルデック柄の白のオーバーサイズのセーターがよく似合うロディが、歯を見せて笑っていた。
     ふにゃふにゃと出久の表情が崩れる。目頭が熱くなり、視界がじわじわと滲んだ。
     箱の中にはクラッカーがよっつと、メッセージカード。
     お馴染みのロディの字で綴られたカードには『パーティをはじめるぞ!』という文字と、歪なサンタクロースのイラストが描かれていた。
     出久の部屋に、よっつの、幸せな破裂音が響いた。このパーティは、朝まで続くのだ。
     夜更かししても大丈夫。白髭赤服のサンタクロースは出久の家にこない。なにせ配偶者が、否、家族が。出久にとっての最高のサンタクロースなので。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works