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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定・過去作( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    初の自宅へご招待の巻・中(前作/https://poipiku.com/1356905/6121882.html の続き)

     仕事を終わらせ、一度セカンドハウスに寄り、部屋を片付けた出久が最寄り駅についたのは、ロディがトークアプリに送ってくれた到着予定時刻からして十分前だった。ちょっと気合が入りすぎているだろうか、なんて照れ臭くなりながら、ロディに出久が中央改札前で待っていることを送れば、すぐ既読が付き、シンプルにAightと返ってくる。これはよくロディが使う単語だ。初回はどういう意味かわからず調べたところ、日本でいう「りょ」と一緒の意味だとわかった。わかったと同時に、かわいいな、と反射で考えた時点で出久は大分末期だと思う。その癖にロディへの想いを自覚したのは最近だ。
     そんなことを考えていれば、改札の向こうに一気に電車から降りてきたのだろう乗客たちが押し寄せていて、その中にキャメルのロングコートと暗めのワインレッドのマフラーを巻いたロディを見つける。ロディが出久の生活圏に足を踏み入れてくれたことが嬉しくて思わず大きく手を振ってしまい、ICカードを改札に押し付けたロディが出久に気づくと同時に息を漏らしながら笑った。白い息が冷たい空気に溶ける。ロディが改札を抜けたタイミングでピノが先行して人の間をすり抜け、出久の元へ小さい羽をパタパタと動かしながら飛んでくるのが酷く愛しい。ふにゃりと笑いながら、手袋をつけたままの右手を持ち上げると、ピノはすっかり慣れた様子で止まり木替わりに着地する。
    「迎えありがとな」
    「ううん、ラッシュ大丈夫だった?」
    「大丈夫なわけねえっしょ。これに慣れる日本人、適応能力ありすぎなんだよな」
     遅れて出久の前に立ったロディが流れるように会話を始めるので、出久も流れに乗って口を開く。ピノがロディの言葉に力強くうなずいているのは、普段電車に乗るときはロディの髪の毛に基本的に隠れているからだろう。息苦しい思いをしているのかもしれない。
    「とりあえずウチ向かおうか。今日ほんと寒いね」
    「寒すぎる。デクが寒いって思ってる五倍寒いって俺は思ってる」
    「なんでいま張り合ったの?」
    「日本の冬が寒くて気が立ってんだよ」
    「ああ……オセオンの冬はここまで寒くならないもんね」
     ロディが両手をコートのポケットに突っ込んで、マフラーに埋めた鼻をすんと鳴らす。そんなロディをくすりと笑ってから出久はピノを肩に乗せ、行こうかと一人と一羽に声をかけてから歩き出した。
     ここ、いつも買い物してる二十四時間のスーパー。へえ、二十四時間って便利だよな。コンビニだったらここが一番近い。あ、ここのベントウおいしいよな。食べたことあるの? 割と食うぜ――なんて会話をしながら、冬色に染まった灰色の街を進む。赤信号で止まる出久の隣に鼻頭が赤くなったロディが立っている。寒そうなロディには申し訳ないが、それだけのことで出久の体をめぐる血液は勢いがついている。
    大通りにあるスーパーから少し入ったところに出久のセカンドハウスはある。セカンドハウスと言っても、事務所に近い立地であるセカンドハウスにほぼ一人暮らししているような状態だ。住民票は実家がある静岡県にあるものの、実家に帰るのは仕事が一日休みで次の日が遅出、もしくは二連休になったときなどくらいである。
     マンションの入り口に到着し、オートロックを解除してロビーを通る。ロディとピノが似たような動きできょろきょろマンションのあちらこちらを見るので、自然と頬の筋肉が緩んだ。
     エレベーターに乗るとピノが出久の肩からロディの肩に移動した。少しロディとピノの表情が硬いことを気にしつつ、出久は自身の部屋がある階のボタンを押す。重力がわずかに体にかかって、あっという間にふたりと一羽を乗せた大きな箱の動きが止まる。扉を再び開いたエレベーターから降りて、出久はもう随分と染みついた自分の部屋までのルートをたどっていく。
    「はい、どうぞ」
     がちゃりとドアを開け、ひとりと一羽を部屋に招き入れれば、ポケットに入れていた手をロディが出し、すっと背筋を伸ばした。玄関に足を踏み入れたロディが「オジャマシマス」と日本語で言ったのに感動を覚えつつ「いらっしゃい」と出久は目尻を下げた。
     すっかり夜になっており、廊下の電気をつけ、そのままリビングの電気もつける。ぱっと明るくなった部屋に満足して、出久が洗面台を案内しなきゃと振り返ると、思っていたより近い場所にあったロディの顔にぎょっとする。出久の肩越しにリビングをのぞき込んでいたようだった。
    「ど、どうしたの!?」
    「なあ、親御さんは?」
     やはり表情が硬いままそう言ったロディに、出久は首をかしげた。
    「ん? いないよ?」
    「今晩は留守ってことか?」
    「ん? いや、そういうわけじゃなくて」
    ふたりして首をかしげる。ピノも同じようにロディの肩で首をかしげていて、話が嚙み合っていないことにふたりして気づいた。ロディが整った顔の中心に皺を寄せながら、えっと、と呟いて、出久に尋ねる。
    「ここデクの実家じゃねえの」
    「ああ、違うよ! ここは僕のセカンドハウス! 名目上は実家に住んでるんだけど、さすがに事務所まで遠いからここに部屋借りてるんだ」
    「あ!? 早く言えよ! 無駄に緊張しちまっただろ!」
     すかさず出久の尻を膝で軽く蹴ってきたロディに、苦笑しながらもう一度ごめんと謝れば、あからさまに肩を落とした。エレベーターでロディの元に戻ったピノがまた出久の肩に戻ってきて、首元を小さな嘴でつついてくる。ピノにもごめんねと眉を下げると、ロディとピノは大きなため息をついた。
    「そんな勘違いしてると思ってなくて。言ったことなかったっけ」
    「……前会ったとき親御さんの作る朝飯の話してたから、俺が実家だと思い込んでただけだ……けど、家に呼んでくれるんだったら先に言っとけよな」
     唇をつんととがらせたロディがじとりと視線を向けてくる。それすらかわいく感じて、いまはそういう場合じゃないだろと慌てて内心で自身を叱咤する。もう一度ごめんと謝ると、別に怒ってないとぶすくれた表情でロディが言うものだから、こみ上げてくる笑みが抑えられなかった。
    「んじゃこれはデクに。お邪魔しまーす! 洗面台どこ!」
     胸元にばんと押し付けられた紙袋に目を見開く。どうやらずっとロディが落ち着かない様子だったのは、いると思い込んでいた出久の母親に手土産を渡して挨拶をするためだったらしい。出久が紙袋を受け取ったのを確認して、くるりと踵を返したロディに慌てて声をかける。
    「あ、ありがとう! ごゆっくりどうぞ! 洗面台は右のドアです!」
     出久は自分が手を洗うのはキッチンでいいかとリビングに続く扉を開いた。一度紙袋を眺め、ハッとする。肩に乗ったままのピノを見て、思わず震えかけた声で問う。
    「ねえ、ピノ……これさ、空港にある人気のおせんべいじゃない?」
    「ピピ!」
     ちょっと前に事件解決のお礼に、と事務所で頂いた紙袋だった。事務所のメンバー全員でわけて食べたのでそのときはひとり一枚のみだったけれど、大変おいしかったので紙袋から店名を検索かけたのだ。だから覚えている、都内に二店舗。本店と空港店しかなく、いつも買うには並ばなければならないらしいと知り、さすがにせんべいのためだけに行くのもなと二の足を踏んでいたそれをたまたまロディが買ってきてくれるなんて。驚きで目を見開きピノをみやると、ピノが得意げに胸を張った。小さな額を指でくすぐると、目を閉じ気持ちよさそうにするのが愛しい。
     ほくほくと浮足立つ気持ちを落ち着かせるために、冷たいままの水で手を洗い、うがいをしているとリビングにロディが入ってきた。よく似合っていたロングコートを脱いで、片腕にかけいた。中に着ていた白のセーターもロディによく似合っている。
     コートを預かって壁掛けにかける。その間に、ロディは部屋の各所に飾ってあるオールマイトグッズをしげしげと眺めていた。
    「結構きれいにしてんのな。オールマイトの主張がすごすぎるけど」
    「いやこれ厳選したんだよ。本当はもっと飾りたいんだけど、賃貸だから……」
    「これ以上飾りたいってなにをだよ……」
     眉間に皺を寄せたロディに対し、出久は腕を組みながら真剣に答える。それをあきれたように笑ったロディが、さっさとはじめようぜと唇の端をあげた。
    「お酒とか総菜とかいろいろ買っといたんだけど、足りなかったらコンビニにでも行こう」
    「代金は? いくら払えばいい?」
    「え、今回はいいよ。僕が誘ったんだし」
    「バーカ、ただより怖いもんはねえんだよ。ちゃんと払わせろ」
    「ええ……お土産までもらっちゃってるから本当にいいんだけど……」
    「んじゃあとで財布にねじ込んどく」
    「無理やりがすごい」
     冷蔵庫を開けながら、淀みなくそんな会話を繰り広げ、当たり前のように出久が取り出した缶ビールや総菜をロディが受け取る。
    「ダイニングテーブルで飲むのか?」
    「お腹膨らむまではそうしようか。あ、せんべいありがとう! あとで一緒にたべよう」
    「おー」
     出久に返事しながら、ダイニングテーブルに手に持っていたものをロディが置いていく。自分の部屋にロディがいる。さっき冷たい水で手を冷やしたにもかかわらず、冷やしていたグラスを持っているにも関わらず、やはり体全体はほくほくとしていた。
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