仄仄として春「聡実くん四月いっぴは学校あるやんな?」
狂児の声を聞きながら聡実は「狂児が『ぴ』って発音すんの、なんかわからんけどおもろいな」と考えていた。そのことを口に出すかわりに「大学まだ春休み中なんで」と答える。電話口の狂児は「春休みかぁ」とどこか感慨深げに繰り返した。
「へぇ〜大学って休み長いんやな。ええなぁ。ほなお祝いできるか。バイトは?休み?そう。夕方頃になる思うけどそっち行くわ。聡実くん食べたいもん考えといて。ああ、あと、」
そこまで話すと、男たちの低く賑やかな話し声が狂児の背後から聞こえた。聡実の耳元で、がさ、と電話口を手のひらで塞ぐ音がする。
「あーもう!お前ら戻った早々騒がしいな!俺いま聡実くんとお話してんねんで!聡実くん?ごめんな〜おっさん達がやかましくて。俺のかわええ声が聞こえんかったやんな。またすぐ連絡するわ。あ、あと食いたいもんと欲しいもんも考えといてネ。ほなね。お勉強頑張って」
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