かわいそうなくま「来週。彼女を連れて逝こうと思いまス♡」
まるで旅行に行くことを告げる様に彼は、自分に告げる。
それは正しく、処刑宣告だった。
「……は?」
「…もう長くないンでしょウ?…私、春が好きですシ…来年動けなくなる前ニ、桜の下で一緒に……なんて、とってもromanticじゃないですカ♡」
できれば薬殺ですかネェ、でも、彼女は色が白くて赤が映えるかラ…knifeも捨て難イ…♡
そうやってウキウキとした表情でプランを語り始める目の前の男を見ながら自分の顔から、ゆっくり血が引いていく。
「なぁ…なあ、瞬…」
「…なんでス?」
「どうしても、死ぬのか。」
「…ええ。…ああ、別に貴方のせいジャないですヨ♡…もうやりたいこともヤッたし、かわいい伴侶もできましタ。治療もやり尽くし余命宣告も出たこの頃合いでと思っただけでス♡…貴方の治療も、そろそろ限界でしょウ?」
もういいですよ。
諦めでもなく。嫌味でもなく。
本当にもういいのだろうと、思い知らされる。
同時に、もう無理なのだとはっきりと突きつけられる、事実。
「…なあ…なあ…瞬。」
「…なんでス?」
「………も、殺すのか?」
「?」
「彼女も、殺すのか?」
「…………そりゃァ。私の花月なのデ。」
「……そ、うだよ、な。」
…それ以上の言葉がでない。
そりゃ、そうだ。こいつが生まれて初めて「愛する」なんて言葉を使う相手だ。
長いこと一緒にいたからわかる。こいつが、これだけの執着をするのは、彼女だけで。
…それはきっと彼女も同じだ。だから、これ以上の野暮なことは、言いたくない。受け入れたい。なのに。
「……泣かなくてモ良いでしょウ?動。」
「……すまねぇ。見ないでくれ。」
ほっといたら消えそうな横顔が、世話を焼くたびに戸惑う表情が、あいつを見て浮かべた微笑みが、刺さる。刺さって抜けない。わかってる。彼女は、こいつのものだ。
彼女は死を望む。こいつに与えられるそれを。
それがわかっているから。だからーーーー
「…彼女が欲しいですカ?動。」
甘い蜜の囁きが脳を浸す。
…その言葉に愉悦が混じっていることを、自分は見逃さなかった。
「…何考えてる、瞬。」
「……彼女はあげませン。でも、貴方は私の唯一の友達ですかラ。……私を生かして、彼女と出逢わせてくれたお礼ぐらイ、必要かト。その代わり、彼女には内緒ですヨ?貴方ニ恨まれてほしくないのデ。」
予定を少し、変えましょうネ。
こちらを覗き込んだ彼は、悪魔の様な提案を孕んだ美しい顔でにっこりと微笑んだ。
(かわいそうな くまの はつこいの はなし。)