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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    とわとせつな(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「わ、見て見てせつな!」
    「……なんだ」
    「なんだ、じゃないよ! ほら、ほら!」
     とわは現代から持ってきたコンパクトミラーを片手にひどく喜んだ。
     そこに映るのは同じ髪色をした少女が二人。
    「喜ぶことなんかじゃないだろう」
     半妖である以上避けられないのが妖力が喪われるこの夜のこと。父・殺生丸の異母弟がそうであったように新月の夜、双子の妖力は完全に消える。高所から飛び降りる。岩場から岩場へと飛び移る。身の丈以上の茂みを飛び越える。
     そういった動きの一切が封じられる宵だ。
    「そりゃ、手放しに嬉しいことじゃないけどさぁ」
    「……お前の時代は気が抜けすぎている」
    「……そりゃ そうだけど」
     とわが暮らした現代において『それ』は一大事なんかではない。芽衣がとわ姉ちゃんの髪、黒い! とはしゃいだり、その日は寄り道なんてせずに不良たちと遭遇しないようさっさと帰らなきゃ、と思ったり。その程度だ。
     けれどせつなは違う。
     己の軽率な発言にとわはまた「やっちゃった」と溜息を零した。
    「分かってるならいい」
     退治屋という生業でこの戦国の世を生きなければならないせつなにとって、致命的な問題であった。周囲の人間よりも高い身体能力と鋭い五感が失われるいっときの夜。今にして思えば琥珀は勘付いていたような気もするし、夜通しの仕事となれば必ず念入りに確認してくれていた。
     いずれにせよ、朔が訪れる夜は何があっても力を失っていることを知られてはならない。そういった類のものだった、はずだ。
     けれど隣で膝を抱える同い年の姉は終始気色の悪い笑みを浮かべるばかり。
    「でも……こういう夜になると、いつも思ってた。私のいた現代じゃ……私は 『普通』じゃなかったから。新月の夜だけは草太パパと萌ママと芽衣と同じ、ただの『普通の女の子』になれるんだ、って」
    「!」
     それが妖力を失うからだと知ったのは自身が半妖という文字通り人ならざる存在であると教えられてからだ。
     それまではとわにとってこの夜は『家族』と同じになれる、せつなとはまた別の意味での特別な時間であった。
    「髪の毛も黒くなって……体も重くなって、鼻も利かないし、耳も遠くなってさ。指切っても怪我は治らないし、芽衣を肩車したまま走り回るのも大変で……」
     そこまで言うととわはぽす、とせつなの肩に頭を預けた。
     揺れる黒い髪色はせつなのそれと同じ。稲妻のように、あるいは血脈のように流れる赤い髪束も今は射干玉となり、誰がどう見たって『どこにでもいる普通の女の子ふたり』の姿だ。
    「……夜明けまで決して騒ぎは起こすなよ」
     そんな呑気な態度を詰(なじ)ったところで無意味だということはせつなもよく分かっていたし、とわが育った妖怪の気配がほとんど感じられない世界の中では半妖の力は過ぎたる力、災いを呼ぶ類のものであるとも知っていた。
     とん、と乗せられた頭にせつなは顔を寄せる。
     幼い頃の記憶はないが、出会ってからの記憶はたくさんある。とわの匂いも、もう覚えた。
    「うん。……もろは、大丈夫かな」
    「少なくともお前よりはな」
    「それもそっか」
     小さい頃から一人で生きてきたという彼女ならとわよりよっぽど『慣れ』ているに違いない。今頃同じ空の下、どこかに息を潜めてじっと朝を待っているはずだ。次の朔はみんな一緒にいよっか、というとわの提案をせつなは拒まない。
    「……誰にも」
    「ん」
    「誰にも言えなかった」
    「……うん」
    「今は……一緒だな」
    「…………うん」
     同じ血を分けた無力な二人の姫は東の空が白くなるまでずっと、静かに寄り添いあった。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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