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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸とご母堂

    ##犬夜叉

    *


     牛車くらい貸してやろう、持っていけ。
    「あの小娘は身寄りもいないのだろう。ならば嫁入り道具なども持ってはおるまい。ここのものを持っていくがよい」
     化粧道具一式から香道具まで。箪笥に長持に美しい反物の数々。
     見目麗しき女妖怪はあれやこれやと家来どもに命じて殺生丸が口を挟むことも許さず慌ただしく貢物を用意させた。鞍には米俵まで積んである。全く、あの小娘を嫁にしたのであれば一度この母の元へ連れてくるのが道理だろう。そんな『当たり前』を指摘したところで聞くような息子でないことはとうに分かっていた。
     かつて父が人間の小娘に心奪われて以来か弱き人の種を嫌悪してきた息子がこうも手のひらを返すとは、とそれでも女はどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。
    「要らぬと言っておろう」
     それに対して息子が口にするのは相も変わらない言葉。
    「ならば小娘を連れてこい。それで免じてやろう」
    「誰が連れてくるものか」
    「……根に持っておるのか?」
     いまだに?
     問えば殺生丸は眉間に刻んだ皺をさらに増やすのみ。
     どこまで知っていたのかは今となって問い正すつもりもないが、今でも気に食わないことは確か。冥道へりんたち人間を突然放り込んだ日のことを忘れてやるつもりは殺生丸に毛頭なかった。
     恨み節を口にするつもりもないが、だからといって笑い事として昇華するにはまだ年月が浅すぎる。
    「……」
    「ほれほれ、そんな顔をするでない。それに小娘は今も生きておるのだろう? 孫ができたらまた見せにおいで。お前の子なら、男でも女でもさぞ可愛らしい子に産まれるであろうに」
     お前が子どもの頃に使っていたすごろく遊びに、父と戯れ合った蹴鞠。貝合わせなんて今時あの小娘がするやは知れぬが、それも入れておこう。いつかこんな日がくると思っていた、と母親は思い出を懐かしむように語り出す。
     絢爛豪華な髪飾り、西国で作らせた扇子。あれやこれやと殺生丸の母は手土産を見繕うが。じぃっとこちらを伺うのみの息子に含みをもたせた微笑みを向ける。
    「……何も言わぬのか」
    「言って欲しいのか? お前がそんなにも母の言葉を求めるとは思わなんだ」
    「……」
     なんの謂れもなき路傍の人間を嫁としたことを。
     生まれ出づる子は妖怪と人間の血を併せ持つ半妖となるであろうことを。
     天生牙と冥道石によって幾度もあの世とこの世を行き来した死に近づきすぎた小娘を妻としたことを。
     そして か弱き人間を伴侶とした殺生丸が胸に秘めたものを。
    「……私はな、殺生丸。お前が誰を嫁にしようと知りもしない。咎めもしない。……あの方と同じ、お前の心が選んだのであれば何も言うまいよ」
     それが例えかつて──もしや今尚──殺生丸が毛嫌いする人間の小娘であろうとも。
    「……」
    「母が言わずとも分かっているであろう? 犬夜叉がどのように生きたかを。やがて生まれ来る半妖どもが……どんな存在になるのかも」
    「見ずとも知れる」
     如何なる大妖怪を親に持とうとも半妖なれば白眼を向けられる。それが世の常だ。
    「……殺生丸よ、覚えておけ」
    「今更説教のつもりか」
     そこで彼女は首をゆるりと横に振った。
    「あの方と同じ……お前があの小娘や半妖のために命を賭すなれば、それはお前の決めたこと。なれど……あれらのために命を落としてもみよ。この母はお前を奪った人間憎さに皆 食い殺してしまうやもしれぬ」
    「!」
     静かな言葉だった。
     水面がすぅ、と凍りついていくような。或いは凍りついた水面が一斉に音を立てて瓦解していくような。
    「親より先に子が死ぬなど この私は許さぬ」
     それだけは覚えておけ。
     これは全てお前を愛するが故、と彼女は口にした。父と同じ道を選ぶことは許せども、父と同じ末路を選ぶことは決して許さぬと。
    「私は死なぬ」
    「そう父上も言っておった。それがどうしたことか、とうにのうなってしまったではないか」
    「……私も人間のために死ぬ、とでも?」
    「可能性の話だ。ゆめゆめ忘れるでないぞ殺生丸。この母の目が黒いうちは、決して馬鹿なことを考えるでない」
     愛に満ちた、しかし強い口調で言葉を発する母親にそれでも殺生丸は気圧されることなく言い放つ。

    「みくびるな。この殺生丸、例え首だけになろうとも死ぬつもりはない」

     例え話の話などではなく、この首落ちども命は落とさぬ。父と同じ轍は踏まぬ。そう告げた息子の虚勢に女は頷き、満足げに「よいよい。分かっておるならよい」と微笑んだ。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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