ハロ嫁後日談SS「本当にいいの? お邪魔しちゃって」
「もちろん。今日も蘭さんは病院に泊まりだろう?」
「そうだけど……」
無事渋谷のスクランブル交差点に仕掛けられた爆弾を止め、今晩は博士の家に泊めてもらおうとしたコナンを呼び止めたのは安室だった。いつもなら喜んで誘いに乗るところだが、いつ爆発するか分からない爆弾からようやく解放されたのだ。一人でゆっくり休みたいだろうと遠慮したが、「今晩は君と一緒に過ごしたい気分なんだ。ダメかな?」なんて年上の恋人に甘えるように言われたらついて行くしかない。
「コナン君、先にシャワー浴びておいで」
「えっ、いいよ。安室さん先に入って」
「僕は先に手当をしないといけないから、お先にどうぞ」
「……じゃあお先に」
手伝おうか? と言いかけてやめた。白鳥の時と違い、コナンを守って負った傷ではないとはいえ、コナンが側にいては痛そうな表情すら我慢してしまうだろう。正直爆薬で濡れたままの服が気持ち悪かったので、安室の言葉に甘えて先に使わせてもらうことにした。
「安室さん、お風呂ありがとう……って寝てる」
安室がコナンより先に眠るなんて珍しい。お風呂から上がるとベッドにもたれかかるようにして眠っていた。よほど疲れていたのか、それともコナンだからなのか。後者だったら嬉しい。
「あ、この写真……ったく、オレに過去の話をしたとはいえさすがにこれは無防備すぎないか?」
つけっぱなしのスマホの画面を覗き込むと、そこには降谷が地下シェルターでコナンに提供してくれた情報の一つ、コナンのスマホに送られた写真と同じ警察学校時代の仲間が映っていた。
「安室さん、お疲れ様」
安室を起こさないよう頬に触れるだけのキスをして布団をかけてあげようとベッドによじ登る。布団を掴む前にコナンの腕は後ろに引かれ子供の体は安室の腕に収まっていた。
「この……狸寝入りかよ」
「いや本当に寝ていたよ。カッコいい王子様のキスで目が覚めちゃった」
「王子様? あんたは囚われのお姫様ってガラじゃねぇだろ?」
「そうだね。でも今回は爆弾のせいで僕はあの地下室から動くことが出来なかったんだ。やっぱりコナン君はすごいね、君は僕のヒーローだよ」
「バーロ、オレはヒーローなんかじゃ……」
「君が無事で本当に良かった」
「……それはこっちのセリフだよ」
ぎゅっと抱きしめられて正直言うとちょっと痛い。それよりも今は安室を安心させてあげたくてコナンも小さな腕で精一杯抱き返した。
「全く、残り一分で爆薬を採取するなんて君は本当に無茶をする」
風見から送られた写真を見た時にはさすがに肝が冷えた。写真に写っていたタイマーの残り時間は59秒だった。ギリギリまで諦めず命がけで採取してくれた
「大丈夫だよ。爆薬を回収しようと思ったのはちゃんと退路を確保した後だから。下にはあいつらもいたしね。ボク一人だったら逃げるのが精いっぱいで爆薬の回収は出来なかったよ」
「そっか……今度みんなとポアロにおいで。探偵団のみんなにも助けてくれたお礼をしないとね」
「うん、ありがとう。それに、あんたが頭を下げてお願いしてくれたんだ。期待にはちゃんと応えないとね」
にっと笑う笑顔が余りにも眩しくて安室は思わず目を細めた。
「コナン君、君を抱きたい」
「は? ダメに決まってるでしょ?」
「……だよね。ごめんね、コナン君疲れてるのに変なこと言って」
「もう、そんな怪我で無茶して悪化したら困るでしょ! 治ったらその……安室さんの好きにしていいから……」
「コナン君それ本当?」
「お、男に二言はねぇよ」
今晩安室にゆっくり休んでもらうためとはいえギラリと光った瞳に「ボクの体力のことちゃんと考慮してよね」と慌てて釘を刺す。
「分かった。今日はコナン君を抱きしめてゆっくり眠るよ」
「安室さんがお風呂から上がるまで起きて待ってるから、早く入ってきなよ」
「あぁ、眠くなったら先に寝てていいよ。無理はしなくていいからね」
「大丈夫だよ。その怪我じゃ長風呂はできないでしょ」
いってらっしゃいと見送ってくれたコナンだが、十分後に安室が戻って来るとすっかり熟睡していた。かけられたままの眼鏡に頑張って起きていた痕跡がうかがえる。
「体はお子様だからしょうがないか」
さっきのお返しにと口付けてみるがコナンが目覚めることはなかった。
「やっぱり王子様はキスで起こせないか」
仕方なく眼鏡を外すとコナンを抱いてベッドに横になる。明日の朝は久しぶりに炊きたてのご飯と温かいお味噌汁が飲みたいなと朝食のメニュー考えながら穏やかな眠りについた。