おかゆ「んじゃ、俺はかゆを作ってくるから着替えておとなしく寝てろよ。あ、脱いだ服は布団の横に置いといていいぞ。後で洗濯しとくから」
「はーい…」
脱いだ服を洗濯籠に持って行くくらい一人で出来ると言いたいが、正直熱のせいで歩くのもだるい。こんな時くらい小五郎の言葉に素直に甘えてもいいだろうと脱いだ服は畳んで小さな布団に潜り込んだ。
車の助手席に座っていただけなのに、風邪のせいだろうか。布団で横になっていたらいつの間に眠ってしまったらしい。うとうとしているとトントンとドアを叩く音と出汁のいい匂いで目が覚めた。
「ん…らんねえちゃん…?」
「悪かったな、蘭じゃなくて。かゆ出来たけど食えそうか?」
ついさっき蘭をコテージへ送って戻って来たばかりなのに、ついいつものくせで蘭の名前を呼んでしまった。正直空腹は感じないが少しでも何か胃に入れないと薬が飲めない。体を起こしてコナンは小さく頷くと、小五郎は土鍋の蓋を開けてお椀におかゆをよそってくれた。
「ほら、熱いから気をつけて食えよ」
「ん、ありがと…」
ほかほかと湯気が立ち上がる。見た目は普通に美味しそうだ。美味しそうだけど…
「おじさん、塩と砂糖間違えたりしてないよね?」
「あぁ!?生意気言ってないでさっさと食え!」
「は~い」
初めて食べる小五郎の料理にドキドキしつつ、ふうっと何回か湯気を飛ばして一口食べてみると出汁のいい香りが口いっぱいに広がり程よく煮込まれたおかゆは口の中でほろりと溶けた。
「うま…」
塩と砂糖を間違えるどころか、出汁が効いてて食欲なんて全然なかったはずなのに思わず言葉にするほど美味しいと思った。
「これ、本当におじさんが作ったの?」
「他に作るやついないだろ?」
驚いたコナンが洗濯物を持って部屋を出ようとしていた小五郎を見ると耳がほんのり赤くなっていた。
(あ、そっか。この味…)
似たような味を食べたことがあるなって思ったら、この前風邪引いた時に蘭が作ってくれたおかゆに似ていた。今ではすっかり蘭の方が料理上手になってしまったが、彼女が作る味の基本は…
(そっか、おばさんは料理が下手だから蘭の料理はおっちゃんの味なんだ)
「お、全部食えたな!後はぐっすり寝て、蘭が帰って来るまでに元気になるんだぞ!」
部屋へ戻って来た小五郎はお椀が空になっていることを確認すると、新しい冷えピタを貼ったおでこをペチンと叩いて食べ終えた食器を片付ける。
「分かってるよ。おかゆ美味しかったよ、ありがとう」
「…また明日の朝作ってやるよ」
「明日は卵がゆがいいな」
「分かったから早く寝ろ」
「は~い、おやすみなさい」
ドアがパタンと閉じたのを確認するとコナンは安心したように目を閉じた。