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    人格マンション

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    或る父娘の話その3

    ##SotN
    ##或る騎士の話

    LEFT「遠路遥々、ドラゴンヘッドへようこそ」
    「そんな、客扱いしないでくれ」
    「エマネラン様のお仕事の手伝いをしてくださるとの事で、ありがとうございます、はい」

    女は雪の大地にそびえる砦、キャンプ・ドラゴンヘッドへ足を運んでいた。双蛇党数名は寒さの厳しくなるクルザスの地の任の助力を命じられ、女はこのキャンプ・ドラゴンヘッドを任されたというわけだ。女を迎え入れたのはこの砦を率いるフォルタン家の次男エマネランと、その付き人であるオノロワであった。

    「グリダニアから来たんだって?ここは寒くてたまんないだろ」
    「寒さは得意だ」
    「はは、そりゃいい!でも無理は禁物だぜ、ちゃんと定期的にここへ戻って暖を取ってくれよな」
    「善処しよう」

    鉄の鎧を纏う兵たちは、中に重ねて着ているとはいえさぞ寒いことだろう。比べて女はいつもの黒いアネモスガンビスンに、薄手のコートを一枚羽織っているだけだった。そんななりでは吹雪の中では一時間と持たない。

    「それじゃあまずこのまま北の神意の地まで行って、エイビスの様子を見てきてほしい。群れていたり、他の魔物たちを襲っているようであれば、討伐してきてくれ。その後のことは戻ってきてから話そう」
    「分かった」
    「お気をつけて!」


    ***


    「特に変わった様子はないな」

    視界の白む吹雪の中で、エイビス達は風を唸らせ翼を扇いでいた。特に何かを襲っている様子も見られない。

    「誰だ!」

    周囲をくまなく見回していると、ホワイトアウトの向こうからうすらと声が聞こえた。姿は見えない。こちらも相手に聞こえるように大きな声で叫ぶ。

    「…双蛇党からの派遣で来た!エマネラン卿の支持で、エイビスの様子を見ている!」

    石の壁に囲まれ反響した声は、吸い込まれるようにして消えていった。しばらくすると、背後から雪を踏む音と共に厚手のコートを着込んだエレゼンが現れた。

    「なんだ、よかった」
    「あなたは」
    「僕はフランセル、アインハルト家四男のフランセルだよ」

    フードを外すと、穏やかそうな顔が見えた。美しい金の髪は雪の中でもよく目立つ。

    「イシュガルド四大名家のご子息が、付き人もなしにこんなところへ」
    「あぁ、ここのこと知らないんだね」
    「?」
    「ちょうど良かった。僕の護衛として、ついてきてくれないかな」
    「であればエマネラン卿に言伝をした方がいい」
    「いや、後で大丈夫さ。僕は彼と顔なじみだから」

    フランセルは女から目を逸らして吹雪の向こうへ歩き始める。見失うわけにはいかないと、女もその後を追いかけた。

    「キャンプ・ドラゴンヘッドはどうだった?」
    「立派な砦だ。ドラゴン族の襲撃も、あそこであれば堪えることが出来る」
    「そうだね…出来れば、もうドラゴン族と争わなくていいような明日が来ればいいのだけれど…」

    歩みを進めるにつれて、吹雪は次第に収まりを見せた。エマネランが立ち止まる頃には、晴れるとまでは行かないが風も止み、穏やかな雪が振り降りていた。

    「これは…墓?」
    「慰霊碑だ。ここには誰も眠っていない」
    「慰霊碑?誰の?」
    「君はオルシュファンを知っている?」

    女は首を横に振った。エマネランは少し笑みを浮かべて、慰霊碑の前に膝をつく。

    「フォルタン家の末弟であり騎士、そして僕の一番の友達だった」
    「…あぁ、もしかして、英雄を護ったというあの騎士か?」
    「そう。本当に彼らしいよ」
    「まさかこんなところでお目にかかるとは…」

    フランセルの隣に同じようにして膝をついた女は、慰霊碑の前で祈りを捧げた。ウルダハのナナモ女王暗殺の容疑をかけられた英雄をクルザスの騎士が匿ったと聞いていたが、まさか排他的なイシュガルドの騎士だったとは。

    「英雄は凄いな、イシュガルドを外へ開かせてしまうなんて」
    「彼女たちは強さは勿論、曲がらないものを持っていると思う。どんなことも貫いてみせる。でもそれはただ鋭いだけの槍では出来ない」
    「…その通りだ」
    「だからオルシュファンは、彼女たちを助けたと思うんだ。そして彼女を護った。おかげでイシュガルドは新しい一歩を踏み出せている。ホント、彼はいつでも間違わないね」

    懐かしむように思い馳せる横顔は、どことなく幸せそうだった。

    「…そう思えるフランセル卿も、私は凄いと思う」
    「どうして?」
    「…大切な人が生きている未来が、何より望ましいと、思ってしまう自分がいる」

    女はフランセルの目を見ていられなくて、顔を落とした。自分の膝にヴェールをかける雪を、さっと払う。

    「何を犠牲にしてでも、その人に生きていてほしいと、思ってしまう」
    「…ふふ」
    「何故笑うんだ」
    「いや、うん、分かるよ。僕も、自分に誰かを護るすべがあったなら、きっとそう思うだろうから」

    その言葉を聞いて、はっとした。彼には戦いの腕はない。護りたいと思うものあれど、盾を構えて護ってはやれない。

    「でもね、オルシュファンは、今君が言ったことと全く同じことを考えながら、彼女を護ったと思うんだ」
    「…」
    「勿論、英雄である彼女が生きれば、この世界はもっと素晴らしくなっていくだろうと、信じていたから…というのもあると思う。でもその前に、彼は『英雄』じゃなくて、“彼女”の友達だった。だから彼は彼女に生きてほしくて、本当に、当たり前のように、盾を構えたんじゃないかって思うよ」

    例えば彼は、盾がなければどうしたのだろう。その身を盾にしてでも、英雄を、友達を、護ったのだろうか。穴の開いた盾が、きんと冷たくなっている。

    「じゃなきゃ、あんな攻撃を盾…しかもこんな小さなもので防ごうなんて思わないよね」
    「…命を、構えたのだな」
    「オルシュファンは本当に騎士だったよ。だから彼女を護ることが出来た。他の誰でもない、彼だから出来たことだ」

    その盾は、決して硬いだけではない。


    ***


    「エマネラン卿、ただ今帰還した」
    「遅かったな!お、フランセル卿まで一緒とは」
    「久しぶりだねエマネラン卿、オノロワくん」
    「寒かったでしょう、どうぞ暖まっていってください、はい」
    「今日もここは暖かいね」
    「当たり前だろ?ここが寒くちゃ、オルシュファンが悲しむからな」
    「フランセル卿、ありがとう。素晴らしい騎士の話を聞かせてくれて」
    「こちらこそ、聞いてくれてありがとう」
    「さ、しっかり暖まったら、次の任務に進もう」
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