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    人格マンション

    できた:ふつうの
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    過去絵を晒す:げんみ
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    或る父娘の話その4

    ##SotN

    モノ作りの心意気「Chirobura、こんなところで見かけるとは思わなかった」
    「おう」

    イシュガルドは蒼天街。復興もひとまず終わり賑わいを増したその街に、赤髪の男は分厚いコートを纏って小さな作業台を覗き込んでいた。
    女はいつもどおりの薄手の格好で街の入り口をくぐると、都市内エーテライトの近くにいたその男に近寄る。

    「お前がクラフターにも手を出してみろって言った理由がやっと分かった、こりゃハマるな」
    「別に私はハマるから勧めたわけではないが…」

    久々に顔を合わせたというのにこの二人は相も変わらず挨拶の一つもなく、側のベンチに座った女は背負っていた槍の手入れを始める。

    「ギャザラーはやっていないのか?素材はどうしてる」
    「マーケットボードで揃えてるけど」
    「なぜ私に声をかけないんだ、全ての素材を購入していたら金がいくらあっても足りないだろう」
    「あー、その事なんだけど」

    男はよよと目を泳がせた後、作業台から顔を上げて女の方へ頭を垂れる。

    「5万!貸してくんねぇかな!」
    「…そんなことだろうと思った」
    「出世払いで返すから!」
    「何に出世するんだ」

    女はサイドポケットから財布を出すと、中に入っていた紙幣をがさつに何枚か男へ渡す。全て向きは揃っていて、変に縒れたりはしていない。

    「あ、や、こんなにいらないけど…」
    「あとからまた言われると面倒だ。それにどうせ共有なのだから返さなくていい、使わないなら持っておけ」
    「あー…ありがとう」
    「それと必要な素材があったならちゃんと私に言ってくれ、採ってくれば金はかからない」
    「わ、わかったって」

    強い剣幕で凄むと、男はどうどうと手を出した。両手でその紙幣を受け取り、枚数を数えてしっかり揃えてから自分の財布にしまった。

    「あなたの奢らないところは好きだ。格好悪さは父とは似ても似つかないが」
    「その…何でもお父さんと比べるなよな。お前から見れば俺はお父さんの別人格みたいなもんだろうけど…俺からしたら他人なんだからさ」

    女がもう一度槍に手をかけながら話すと、男は少しムッとしたように返した。それが意外だったのか、女はちょっと驚いたような顔をした。そんな顔を少し見上げて、すぐに目をそらす男。

    「…嫌か」
    「お前が俺に手を貸してくれるのが、俺じゃなくてお父さんを理由にされてると思うと、何か癪に障る」
    「…ふふ」
    「何で笑うんだよ」
    「まさかそんな素直に言ってくるとは思わなかったから」

    そして穏やかな笑みを浮かべる女をもう一度見上げると、男はばつがわるそうに作業台に向き直って制作を開始する。耳が少し赤かった。

    「あなたの、そういう不器用なところも好きだ。嘘と同じくらい、本当の事を言うのが得意なところも」
    「お父さんと似てるからか?」
    「いいや。父は異様なほど器用だったし、本当の事を言うのは得意じゃなかった。私にいつも完璧な姿を見せていた。人間が向いていないと思うくらいにはな」
    「…」

    男は作業の手を止めずに、ふと自分が幼かった頃の記憶へ思いを馳せる。両親はどちらも冒険者で、村でも随一と言われるほどのパートナーだった。今は冒険者をやめて故郷で暮らしているが、帰ればいつでもお互いのことは運命だったと言う話を何度も聞かされる。

    「…お前はさ、お父さんとパートナーだったんだろ?」
    「あぁ、父でありながら相棒だ」
    「お父さんでも、パートナーでも、やっぱり信じられないこととか、許せないことってあったか?」
    「…そうだな…」

    問を投げられた女はメンテナンスの手を止め、何かを思い出すように遠くを眺めた。納品受付で様々な人が復興品を納品している。男の知らない景色を、女は見ているようだった。

    「…さっきも言ったが、父は本音を隠すのがうまかった。自分の弱みは決して見せず、私に苦労をかけさせまいとしていた。ありがたかったが、今となればそれは良かったとは言えないだろう。本当の事を言える存在が、パートナーというものであり家族というものだ。」
    「でもお前は娘だぜ?パートナーならまだしも娘にはなかなか…そう簡単にいかないだろ、プライドとか体裁とか」
    「そうかもしれないが…というか、あなたがそれを言うのか?」
    「俺だってなぁ、プライド皆無ってわけじゃないぞ?臨機応変にやってるだけだ」

    またふふっと笑う女に、完全に調子を掴まれているような気がした。

    「だから私は、あなたの人間じみたところが好きということだ。私の隣に立つにあたり、そうであってほしいと思うから」
    「そういうお前は?俺に飾ってみせたり、分が悪いことを隠したりするなよ」
    「生憎私は嘘が下手でな、あなたくらいでなくてもすぐに分かってしまうだろう」

    雪の降る蒼天街は春の中頃に差し掛かっていた。段々と気温が上がり、雪が振り止むのももうすぐだ。

    「…俺のこと探しにここに来たのか?」
    「ドラゴンヘッドのエマネラン卿に言伝を届けたついでにな。ここにいるような気がしたんだ…まさか蒼天街とは思わなかったが」
    「そっか」

    女の言葉を聞いた男は作業台をたたみ鞄に詰める。伸びをしながら立ち上がると、ポケットから革の手袋を出して女に渡した。

    「じゃ暇ってことか?」
    「まぁ、双蛇党の仕事がなければ私はいつでも暇だが」
    「そしたらさ、俺に武器作ってくれねぇかな。双剣士始めたから格好いいやつ欲しいんだ」
    「…あぁ、分かった」
    「先輩クラフターの腕見せてくれよ」
    「ならちゃんと見て学んでくれよ」
    「はは!あぁ、勿論」

    手袋をはめた女は、何度か手を握り感覚を確かめる。その顔は緩く綻んでいた。
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