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    雨月ゆづり

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    雨月ゆづり

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    ニキマヨドロライさんのお題をお借りしました。
    付き合っているし、一緒に住んでいるニキマヨ。
    雨の日の七夕のお話。

    #ニキマヨ
    ##ニキマヨ創作60分

    「七夕」 帰宅すると、部屋は真っ暗だった。
     今日はマヨイは一日休みと聞いていた。どこかに出かけるとも聞いていない。律儀なマヨイは、いつも出かける場合は何時くらいに帰ってくるかを教えてくれる。そんなマヨイが何もメッセージを送ってきていないということは、きっと家にいるはずなのに。
    「ただいまっす」
    「おかえりなさい」
     誰もいないと思っていたのに、意外なことに、マヨイの声が返ってきた。靴を脱いで、軽く手洗いうがいをして、リビングの中に足を踏み入れる。リビングの窓が開いて、ゆらゆらと陽炎のように淡い青色のカーテンが揺れているのが見えた。ベランダに、見慣れた後ろ姿を認める。
    「何してるんすか、こんな暗い部屋で」
    「星が見えないかと思って」
    「……ああ、そういえば今日七夕っすね」
     そういえば、帰って来る時に、駅前の商店街で笹が飾られているのを見た。色とりどりの短冊が笹の緑に映えて、つい目を惹かれたのを覚えている。
    「あいにくのお天気ですねぇ」
    「そうっすねぇ」
     マヨイと並んでベランダに立ち、空を見上げた。夜空に星など見えそうもなく、しくしくとしめやかに泣き出してさえいた。ニキが家に帰ってくるまでは降っていなかったのに、帰宅してからの一瞬で降りだしたらしい。
    「知っていますか。七夕の日に降る雨を、催涙雨と言うのだそうです」
     ぽつりと、マヨイが呟くように言った。
    「さいるいう?」
    「そう、催涙雨。雨が降ると天の川の水が増えて、織姫と彦星が出会えなくなってしまう。だから、一年にたった一度の機会が失われて、悲しくて流した涙が、雨になって地上に降り注ぐのだそうです」
    「なるほど~」
    「でも、ここしばらくずっと、七夕って雨続きでしょう?」
    「そうでしたっけ」
    「そうですよ。去年も、おととしも雨でした」
     正直ニキは七夕にはあまり興味がない。ハロウィンやクリスマスと違って、七夕には七夕限定のメニューを出すことはないから、食を中心に世界をまわしているニキにとっての七夕は、なんでもない日の延長線上にあった。
     でも、マヨイにとっては違うのだろう。物語性のある事柄に興味があるようだから、七夕もマヨイにとっては一大イベントなのだろうな、とニキは理解する。織姫と彦星の年に一度、何百回、もしかすると何千回も広大な空の上で行われてきたロマンスは、言われてみれば確かにマヨイが好きそうな類のお話だ。
    「私ね、思うんです。もしかしたらこの雨、織姫か彦星が、相手に会いたくなくて降らせているのではないでしょうか」
    「どういうことっすか」
    「だって。不安でしょう、一年も会えないんですから」
     マヨイが初めてニキの方を向いた。きらきらと、街灯の光を捉えた鮮やかな色の虹彩が輝いて見えて、つい視線を奪われる。
    「一年も恋人に会えなかったら、私だったら不安になります。本当に、まだ恋人が私のことを愛してくれているのかどうか。あの時感じた心のときめきも、ただ一瞬の気の迷いだったと思っていないかどうか」
    「……マヨちゃんは、そんな風に思うんすね」
    「ええ。だから、昨日眠る前に思ったんです。もしも今年も雨だったら、その雨はきっと、織姫と彦星のどちらかが相手に会いたくなくて、不安で、怖くて、流した涙なのではないかって。だって、毎年毎年七夕にばかり雨が降るなんて、おかしいでしょう」
    「マヨちゃん」
    「はい」
     マヨイがニキの視線を捉えているのを確認してから、ニキはにこりと笑って言った。
    「大好き」
    「……な、ななな、なんですかいきなりそんなこと気軽に言うもんじゃありませ――」
     慌てたようにあわあわと手を振るマヨイの腕を捉えて、細い体を引き寄せてキスをした。
    「マヨちゃんだ~いすきっすよ。愛してるっす」
    「え、あの……あぅ……」
     面白いほど真っ赤になった耳が可愛くて、美味しそうで、甘噛みすればふるりと小さくマヨイが体を震わせた。
    「そういうこと、ベランダで言うもんじゃないですよぉ。誰かが見ているか、聞いているかもしれないじゃないですかぁ」
    「じゃあどこでなら言っていいんすか。ベッドの中?」
    「……椎名さん、最近そういうこと言うようになりましたよねぇ」
    「だめ?」
    「駄目です」
    「……マヨちゃん最近駄目駄目ばっかり言ってて、ニキくん悲しいっす」
    「あっ、ずるいですよぉ、そういうすがるような目をするの。私が断れないの分かっていてやっているでしょう。やめてください」
    「なはは、そう言いつつ、めちゃくちゃいい匂いしてるじゃないっすか。マヨちゃん可愛い~、大好きっす」
    「私はそういう、勝手に私の気持ちを理解してしまう椎名さんが大嫌いですぅ」
     大嫌いだと言いながらも、どんどん腕の中のマヨイは美味しそうな匂いになっていく。それが可愛くて、ニキは思わずぎゅっと抱きしめる力を強くしてしまった。
    「マヨちゃんが愛されてるって自信を持ってくれるまで、僕ぁマヨちゃんに、これからも大好き、愛してるってずっと言いますね」
     先ほどの話で理解したことがある。先ほどの織姫と彦星の話は、恐らくはマヨイの考え方をそのまま反映している。
     つまり、マヨイはニキとしばらく離れてしまえば、その間に色々と勝手に考えて、迷って、悩んで、そして挙句の果てに、愛されているかどうかすら不安になってしまうタイプなのだ。まだ愛されているという自信がしっかりと育っていないがゆえに、そう思ってしまう。
     それなら、自信を持ってくれるまで、愛していると言い続けるだけだ。
    「……もう、勝手にしてくださぁい」
    「そうするっす」

     いつの間にか雨はやみ、わずかながらに雲に切れ間が出来ている。
     隙間からのぞく星空に、二人はまだ気が付かないでいた。
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    雨月ゆづり

    DONEニキマヨドロライさんのお題をお借りしました。

    ついマヨイを年下扱いしてしまいがちなニキと、年下扱いをやめてほしいマヨイ。
    一緒に住んでいるニキマヨ。
    「同い年」 話があります、なんて改まって言われたものだから、これは悪い話かもしれない、と思わず身構えた。

    「話ってなんすか」
     律儀にカーペットの上に正座しているマヨイに合わせて、自分も慣れない正座をしながらニキは尋ねた。
    「椎名さんにお願いがありまして」
    「はい」
    「私のこと、年下扱いするのをやめていただけないでしょうかぁ……」
    「……はい?」
     マヨイは視線をさまよわせた。
    「ええと、その……言葉の通りですぅ。ほら、私今日誕生日じゃないですか」
    「うん、おめでとうっす」
    「ありがとうございますぅ。……このやり取り何度目でしょうか」
    「何度目だろ、数えてないっすね」
     日付が変わった時に一回、朝起きて目が合った時に一回、あとは朝食後に、前日からこっそり用意していた誕生日のケーキを見せた時にも一回。マヨイが誕生日を迎えたことを実感するたびに自然とお祝いの言葉が出てしまい、そのたびにマヨイがお礼を言う、というのをもう今日になってから何度も繰り返していた。
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    雨月ゆづり

    DONE5月23日はキスの日……でしたが盛大に遅刻しました。
    いわゆる事故ちゅー。

    ニキに昔彼女がいた描写を含むため、苦手な方は要注意です。
    キスの日のニキマヨ 礼瀬マヨイは混乱していた。
    「ど、どうしましょう、あれ、絶対、その……キス……しちゃいましたよねぇ……!」
     置き去りにしてしまったニキの顔を、今更振り返って見る勇気はなかった。マヨちゃん、と呼ぶ声が聞こえた気がするものの、そんな呼びかけすら振り切るようにして天井裏にもぐりこんで、出来るだけ遠くへと這うようにして逃げた。
     これは、ニキとマヨイがうっかりキスのような、そうではないような、一瞬の触れ合いをしてしまってからはじまるお話。

     いつものように天井裏から降りようとした時のこと。降りようとした場所にニキが立っていて、とっさによけようとしてよけきれずにぶつかった。それでも最初から唇が触れた訳ではなくて、額をぶつけたらしいニキが額をさすりつつ顔をあげた瞬間と、ぶつけたところを確認しようとマヨイがニキの顔を覗き込んだ瞬間、そして二人の顔の角度が、奇跡のように合わさって、そうとは分からないほど一瞬だけ唇が触れた――ような気がしただけのこと。
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