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    天野叢雲

    @onitakemusya
    だいたい出来心

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    天野叢雲

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    調子に乗って創作BLの続きを上げます。主人公が告白(仲間勧誘)する話し。

    #魔獣の花嫁
    brideOfTheHexenbiest
    #創作BL
    Original Bl

    魔獣の花嫁 #3「互いの求めるもの」 シェゾに憎悪と凶器を突きつけられて、今度も俺はなんと言葉を返せば良いか分からないでいた。正確には、頭が追いついていないのだ。だって色んな事が急過ぎる。俺はこの事態を一体何から理解して行けば良いのだろうか。それさえ分からなくなっていた。

     するとドタドタと複数の足音が近付いてくるのが聞こえた。目の前の剣士もそれに気付いたようだ。俺に向けられた張り詰めた殺気が消える。見ると走って来たのは同じ仕事を請け負った冒険者たちだ。確か…風の導きという四人パーティーの内の二人だったかな。俺が暴れた物音に驚いて見に来たらしい。もう少し到着するのが遅かったら、俺はこの剣士に斬られていただろうか? いや、それよりも早く来られて俺がシェゾに抱き付いているのを見られた方がヤバかったかもしれない。返り血まみれの俺じゃあどう見てもシェゾを襲っているようにしか見えないし、そのタイミングで攻撃なんて受けたら折角大人しくなった魔獣がまた暴れ出しただろう。そう言う意味では絶妙なタイミングと言えるだろう。

    「うわっなんだこの状況」
    「おい!敵襲か⁉︎ どうなってる?」

     問われてシェゾは剣を収めた。

    「侵入した賊は壊し屋が肉塊にした。俺は壊し屋が更に暴れそうだったから止めたまでだ」

     そう簡潔に説明すると、剣士は深い青色のマントの裾を払って装備を整え直した。そしてもう役目は終わったとばかりにその場を立ち去ろうとする。その澄ました顔たるや、まるでさっきの事が無かったような有り様だ。あまりの態度の違いに狐につままれたような気分になった。

     シェゾの言葉にやっと状況が飲み込めたらしい二人は、廊下の惨状も俺が血まみれの理由も合点が行ったようだ。俺を見る目つきが厳しくなる。そういう眼差しを向けられて、俺も漸く自分の立ち位置を思い出した。シェゾの件は後で整理するとして、取り敢えず今は護衛の任務中だ。廊下の酷い有様は怒られるとしても今夜はこれで襲撃が無いなら依頼主に討伐の報告をしなくてはならない。………あれ? さっきシェゾは俺が二人倒したみたいな言い方しなかったか?

     当のシェゾはツカツカとこちらに背を向けて歩いて行く。声をかけようとしたが、すれ違い様の冒険者に先を越された。冒険者は小声でポツリと呟く。その言葉が俺の耳にも入った。

    「…よくあんなバケモノ止められたな」

     その冒険者は前にもどこかで見た記憶がある。きっと俺がバーサクしたクエストを一緒に受けていたんだろう。『壊し屋』なんて通り名が有名になる理由なんてそんなものだ。だから俺は特定の誰かとは組んだりしない。可能な限り単独で依頼を請け負うようにしている。今回の護衛任務は珍しく複数だが、そういうのは稀だ。そんな訳で即席でパーティーになっても関わろうとしない奴が大半だ。特にバーサク状態、若しくは今のように暴れた後の惨状を知ってる奴なら尚更。正直言えば俺だって関わりたくはない。あの冒険者の言う事は正しいと思う。シェゾだって勝てる見込みがあった様には見えなかったのに、何故止めようとしたのか。俺には皆目見当もつかない。

     シェゾはその冒険者の言葉には返答せず、黙ってこの場を立ち去った。

    「スカしやがって」

     彼の背中に独り言のような悪態が向けられた。それで思い出したが、噂では蒼の剣士はその綺麗な顔からは感情が読み取れないというミステリアスさも人気の要因だったのだ。…俺はあいつの怒った顔ばかり見ていた気がする。ミステリアス、ねぇ。言うて無口って程無口でも無かったし、所詮は噂といった所なのかもしれない。





     次期夜が明けるという頃、俺は死体の片付けをしていた。流石にただの屋敷の使用人たちに俺のせいで損壊した遺体の後処理を全て押し付けるのは心苦しい。掃除はお願いするしか無いが本体の移動くらいなら手伝わせてくれと執事に頼み込んだのだ。初めは大丈夫だと断っていた執事だが、こういう力仕事は正直助かると了承してくれた。なので今は布袋に入れた遺体をゴミ置き場まで運んでいる所だ。

     自分と似た大きさの袋、一つは肩に、もう一つは脇に抱えて運ぶ。その姿だけで俺の馬鹿力が十分伝わるようで、人の良さそうな執事のじーさんは最初驚いていた。こんな時間だ。俺のせいで誰かが叩き起こされるのは可愛そうだしな。俺だけで運べるならそれでいいと思う。じーさんの後を一人てくてくとついて歩く。

     歩いている間、担いでいる袋の中身をふと思う。血の臭い、肉の臭い、生臭さ。最初の頃は吐いていたが、それも慣れてしまった。いや、臭い自体はきっと魔獣のせいで最初から平気だったんだろう。俺の心と頭がそれを受け入れられなかっただけだ。今じゃただの物だと割り切れるのは、そういう感覚も魔獣と混じってしまったからなんだろうか…。死体と殺す事への罪悪感が結び付かなくなって来ている。
     そういう感覚が失われてしまうのはきっと恐ろしい事なんだろう。頭では理解しているのに、まるで他人事のように遠く感じる。俺は今、どのくらい人間でいられているんだろう。そんな疑問が浮かんだが、答えは出せなかった。

     執事が屋敷の裏手から地下へ降りる階段へと入った。それに違和感を感じる。こっちの世界では死体は火葬ではなく土葬だし、生ゴミなどの廃棄物は庭の一箇所に溜めるのが一般的だ。そして人間の体はゴミに出すにしては大き過ぎる。となれば邪魔にならない、例えば森だとか川だとかにうち捨てたり埋めたりする事になる訳だ。なら運ぶ先は外になるだろうと思っていたのに、何故か今は地下に向かっている。

    「ゴミ置き場は地下にあるんですか?」

     気になったので聞いてみると執事はなんだか歯切れ悪く言葉を返してきた。

    「え、ええ。そうですね」
    「この辺りだと、こういう死体は森に投棄する感じですかね」
    「はい。その予定です。さ…ささ、そちらの奥に置いてください」

     言われたそこは石造りの小部屋で薄暗い。まるで牢屋を思わせる雰囲気だが、商品の一時保管所とかそういった類の部屋なのかもしれない。どうしてこんな所に死体を置くのかやはり分からないが、それは俺が首を突っ込む事でもないので聞かない事にした。元々ここの主である商人マセ・バルトは黒い噂の多い商人だ。叩けば塵も埃も山のように出てくるに違いない。だからこそ、今回の仕事料金が良い訳なのだから。

     死体を並べて置く。するとしゃがんだ拍子に地面で何かが落ちているのが見えた。それを拾ったのはちょっとした好奇心だ。何でもない物なら後で捨てればいい。別に悪徳商人の悪事を暴こうなんて思ってないが、俺は呪術と魔獣に繋がる情報が欲しい。そしてそれらはとんでもなく古い物なので、何がそれらに繋がってるか開けて見ないと分からないのだ。結果とりあえずやたらめったらに色んな情報を集めるしかない。だから好奇心には素直に従う事にしているのだ。執事に気付かれないようにポケットに拾った物をしまい込んだ。

    「そう言えば執事さんって、ここの土地の人なんですか?」
    「あ、いやぁ。このお屋敷には長く勤めさせて頂いておりますが、こちらの生まれでは御座いませんね」
    「そうですか。いえね。俺、この辺りに昔村があったと記お……聞いた事があるんですが、執事さんは知りませんかね?」
    「村…ですか。……そう言えば過去あったと聞いておりますね。ですが今はもうこの辺り一帯はバルト商会の土地ですので」
    「土地ごと買い取るなんて凄いですね」
    「新たな事業にはそういう事も必要なのですよ」
    「成程」

     そんな会話をしつつ地上に戻って来る。本当なら魔獣の記憶をなぞるのはシェゾを探すためだった。魔獣が会いたいと願う相手なら獣穢の解き方を知っていると期待したのだが、探していた理由が単なる好いた惚れたではその望みもどれ程叶えてくれるやら。魔獣に恨みを持っている辺り何も知らないという事は無さそうだが、あんな様子では協力してくれるか怪しい。最悪の場合、シェゾを探した事事態が空振りになる可能性だってあるのだから呪術の事はこのまま引き続き調べた方が良さそうだ。全く、問題は山積みだ。

     執事のじーさんとはそこで別れた。もう朝日が登る。俺もそろそろ寝たい。今日は色々な事が起こり過ぎた。いくら魔獣のおかげで馬鹿力とは言え、こうも新事実が次々と明かされては流石に疲れる。

     魔獣の恋バナだとかその相手が男だったとか。挙句キスまでさせられて殺されそうになるは、魔獣に乗っ取られてバーサクするは。しかも、しかもだ。信じられない事にそいつに触ってるだけで魔獣が嘘みたいに大人しくなった。今にして思えば、バーサクしたのだってシェゾが負傷したからじゃ無いのか? あんな擦り傷程度で屋敷の一角をぶっ壊しそうになるとか迷惑この上ない。んでオチがそいつに殺したいくらい恨まれてるとか…。今まで全然進展無かったのに、どうしてこんなに急展開なんだ。こっちはもういい歳なんだぞ。勘弁して欲しい。

     そこでふと思い出してポケットの中身を取り出してみた。汚れたそれを射してきた朝日に翳す。よく見ればそれは文字入りの指輪だった。

     そして気が付いてしまった。俺はこの指輪の用途を知っている。そしてそんなものがあの地下室に落ちている理由を考えるに、どうも良くない予感がしてしまうのだ。

    「…これは、一応連絡はしといた方が良いだろうな……」

     面倒事は御免こうむりたい。予感が外れてくれる事を祈るばかりだ。俺は指輪をポケットにしまい、休憩用のテントへと向かった。





     明るくなって漸くテント内の寝床に転がる。流石は依頼主が商人とあってか、護衛を請けていても屋敷内の部屋やら食堂を利用するなら金を払えと言われた。普通、建物での護衛の場合は仮眠室くらい用立ててくれるもんなんだが、商魂逞しいと言うかなんと言うか…。まぁ、冒険者連中は野宿も多いので個々テント等持込みで過ごしている奴も多い。そして俺みたいな野宿組は屋敷脇の森の入り口に思い思いの場所でキャンプを構えている。せめて庭が使えたら良かったが、金持ちの庭は綺麗に整えて見栄を張る場所らしく、手入れできなくなるので野営不可なんだそうだ。

     明らかに護衛を舐めているとも取れる冒険者の扱いなのだが、誰も依頼主には文句を言わない。それだけここの仕事料が高いからだ。この依頼の支払いは少々特殊で、護衛だというのに倒した敵が多い程金額が上がる出来高制だ。最低額では少々割に合わないものの依頼主が狙われてくれればくれる程稼げる仕様になっている。しかも、金額は全員一定ではない。各パーティー毎の出来高。俺みたいなソロ冒険者なら自分が倒した人数分総取り出来るが、休憩時間は当然稼げない。風の導きのような複数人のパーティーは昼夜交代制にして絶え間なく討伐数を上げられる。長期的に見ればパーティーで参加した方が有利な護衛依頼なのだ。

     まぁ、だから言ってしまえば俺なんていつ休憩を取っても良いのだ。欲しい分だけ稼いでしまえれば、依頼主は必ず誰かが護衛しているわけなのだから職務放棄なんて気にせず寝てられる。そういう仕様なのだ。
     そういう訳で護衛任務中にも関わらず堂々と死体の片付けを手伝っていた。しかし、襲撃者二名の内一名はシェゾが倒したはずなのに、あいつが両方俺がやったと言ったおかげで一人分余計に稼げている。向こうは面倒事から逃げるためかもしれないが、このまま借りにしておくのはどうにも気持ちが悪い。後で余分な金額は突っ返そう、そう決めて瞳を閉じた。

     …目を瞑ったものの、やはりまだ寝る訳にはいかないらしい。首元に硬い物が当たったのでやれやれと目を開けた。そして一言、口にする。

    「“夜這い”というには、もう朝だな」

     そう。そこにはシェゾがいた。音を忍ばせて、このテントに入り込んで。そして今、俺に馬乗りで首元に短剣を突きつけている。随分物騒なそれは、夜這いというより夜襲が正しい。いや、そもそも夜ではないから奇襲が適切だろうな。その姿勢のまま会話する。

    「余裕だな」
    「まぁね。シェゾ、お前が近付いて来てたのは知ってたし、どうせ直ぐには殺す気はないんだろ? 討伐料一人分を返金する予定だったし丁度良いかと思ったんだが…。思ったより大胆だったなぁとは思ってるよ」
    「……魔獣について知ってる事を話せ」
    「話すのは簡単だけど、それじゃあ俺に利点が無い」
    「言える状況か?」
    「シェゾ。悪いがそんな短剣一本じゃ俺は殺せない。そのまま斬れば俺は絶命する前に確実に暴走する。脅したくは無いが、寝首を掻くというのは悪手だ」
    「…………………」
    「暴走した俺は夜中の時と違って、きっと怒りが収まるまで止まらない。それこそ話なんて出来なくなるぞ」

     魔獣に乗っ取られた俺と剣を交えたシェゾなら伝わるはずだ。ここで暴走させるのがどれだけリスキーな選択なのかを。そして昨夜、魔獣が大人しくならなければシェゾ自身もまともに立っている事が出来なかったのだ。マウント取られていようがこいつの体重くらい片手でどうにでもなる。ゲームならパワーファイターは総じてのろまなもんだが魔獣は違う。俺なら接敵しないで倒す方法を探すね。だから今みたいに密着してる状態では絶対に魔獣を暴れさせない方が良い。

     シェゾも理解してくれたようで、面倒臭そうに溜息を吐くと短剣を収めて俺の上からのいた。

    「…面倒な男だ。そっちは何が望みだ?」

     その言葉や態度から、彼が多少せっかちながらも話の出来る相手なのが分かる。『話したくない』と言ったなら単純な拒絶だが、俺は『利点が無い』と言った。つまり情報は交渉次第で売ると示唆したのだ。それに気が付いたシェゾはこっちの条件を掲示しろと言っている。

     正直、こいつが復讐しか頭に無いような奴だったらどうしようとヒヤヒヤものだったのだ。一先ず第一目標達成とでも言っておこう。こっちはこっちで安堵の溜息を吐きつつ体を起こすと、荷物を漁って、中から一枚の羊皮紙を取り出した。さて、問題はここから。上手く話が転がってくれる事を祈って言葉を紡ぐ。

    「細かい事を話す前にこれを使わせてくれないか?」
    「魔法のスクロールか」
    「呪術の印書。込められている呪いは『音喰い』だ。こいつは一定距離内に発生する音を範囲外に漏らさず喰らう。発動中はテント内の音はけして外には聞こえない。内緒話をするにはうってつけだ」
    「……また魔法では無いのか。まぁ良いだろう。使え」

     シェゾが“また”と言ったのはきっと警戒杖の事だろう。俺はこいつの目の前で呪法を使って杖を伸縮させたり杖自体の強度を変えたりしていた。確かにあの時、魔法は使えないと言ったから不思議に思っていたのかもしれない。実際、現代日本から転移してきた俺には魔法適正は皆無だった。では呪術ならどうかと問われると、これも適性があるとは言えない。所詮どちらも日本には無い力なのだから仕方が無いのかもしれない。ただ、俺の中にいる魔獣は呪術を纏い、扱う獣。おかげで呪術を作り出せなくても、発動する事なら出来る。
     よってこの印書も警戒杖も全てリージャに作ってもらったものだ。こういうのを見ると、やっぱりあの子は天才なんだろうなと思う。流石呪術復興を目指しているだけはあるよな。まぁ、最近は呪術の解析が忙いみたいでめっきり会っていないが。リージャもなぁ、出会った当初はずっと俺の借り宿に居ずっぱりだったんだけどなぁ。子供ってのは成長するもんだなぁとしみじみ思う。

     印書を床に置くと両手で触れる。力を込めると術が発動して羊皮紙が端から燃えて炭化したように黒く染まって行く。手を離す頃には印書は真っ黒になってしまった。

    「さて、これでよし」
    「効果時間は?」
    「30分って所かな。術が解ける時はこの印書がボロボロに崩れる」
    「そうか。では要求を言え」
    「そう焦るなよ。ここからは一つ提案をしたいんだ」

     そう切り出すとシェゾは眉間に皺を寄せて不機嫌な顔をする。やはり無口も無表情も嘘っぱちじゃないか。よく言えば素直だが、寧ろ横柄な怒りんぼタイプだぞ、こいつ。ミステリアスなんじゃなくて、単純に人付き合いが面倒なだけなんじゃ無いのか? こんな若いうちからそんな態度じゃ絶対に人間関係で失敗するよ。おじさん、そう思う。

     しかしそんな仏頂面ですら整っているんだから、こう…顔面格差社会というやつを感じてしまう。冒険者とはと問いたくなるような白い肌とか作りの細かい顔は美術の教科書で見たような彫刻を思い出す。これは本当に貴族の出だと言われても納得してしまうな。俺はこの蒼の剣士という一介の冒険者に結構隠れファンがいる事を知っている。実際今回の仕事だってそうだ。他の冒険者が金出したり野営張ってる中で、こいつだけは無償で自室が一部屋与えられているのだ。あまりにも不公平だ。バルト氏が男好きかどうかは知らんがファンであるのは間違いない。まぁ、そんなのは置いておいて、本題を話そう。

    「お前は魔獣、若しくはそれに連なる何かを探してる。復讐かなんか知らんが、そっちの目的に協力するよ。その代わり、俺の望みにも手伝って欲しい。お互いの利害の為に協力関係を結びたい」
    「協力者として情報を提供するという事か。それに対して随分と交換条件が曖昧だ」
    「仕方ないだろ。これ以上話すならそっちの返答を聞かなくちゃならない」

     シェゾがこちらを睨め付けてくる。しかし、俺だってここで引く訳にはいかない。目を逸らさず、ただ真っ直ぐに目の前の男と向き合う。

    「俺の目的に協力すると言ったな? 俺の目的に『お前の殺害』が含まれるとしても、協力するという事か?」

     彼が静かに口にした言葉。そこには昨夜見せたあの殺気があった。それは俺を射抜く。

     そう、その必要があれば間違いなくシェゾは俺を殺そうとするだろう。そして、その時は俺に自ら命を差し出せと、そう言ってる。ああ、困ったな。やっぱり、こいつが俺が探していた人物で間違いないらしい。

     シェゾが本気だからこそ、つい自傷気味な笑みが溢れる。

    「ああ、もしそれが目的なら協力するよ。その時は俺はシェゾ・クォンティーに殺される。勿論嘘じゃない。何しろ、いくつかある俺の願いを叶える方法の内の一つに『俺自身の死亡』も含まれているんだ。だからこそ、俺たちは協力し合えると思う」

     何も嘘はついていない。もし俺がこのまま魔獣になってしまったら、こんな危険な獣がただ野に放たられるというなら、その時は誰かを呪う魔獣になる前に死のうと思っていたから。その時に、シェゾならきっと人想いにやってくれそうだ。
     とは言え、そうなりたくないからこうして全力で何か呪いを解く方法を探しているんだ。その為にも、あの時みたいに一発で魔獣を大人しくさせる手立てが欲しい。魔獣の恋愛感情なんて知ったこっちゃないが、俺自身としてもシェゾの存在は貴重なのだ。だらか、俺はお前が欲しいんだシェゾ。

     俺は美麗の剣士に右手を差し出した。それを見た彼の眉間にまた皺が寄る。

    「昨晩の、黒い模様の浮かび上がった時のあの力。あれがおそらく魔獣の力の一端なんだろう? 良いだろう。貴様のそれを俺の為に使ってもらう」

     そう言うとシェゾは俺の手を取り握手した。まさかこんな若い奴と組む事になるなんて思っても無かったが、それでもやっと俺は解呪への道へと踏み出したのだ。

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