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    P/N利き小説企画

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    PN利き小説 エントリー作品③
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    PN利き小説 エントリー作品③「me 2」 ――まだ二日か。
     ソファーに座っていたニールは壁のカレンダーに目をやって小さく息をついた。
     同居人である男が遠方の任務に出てからすでに二日、戻って来るまでさらに二日ほどかかるだろう。
     一週間程度家を開ける任務などざらにあるが、男とこんなに離れるのはスタルスク以来初めてだった。たった四日とはいえ、人のいる暮らしに慣れた身では思いのほか夜の静けさと部屋の広さを感じる。男が戻ってくるのを心待ちにしている自分がいた。
     ――君は案外一人を満喫して羽根を伸ばしてるのかもしれないな。
     自分の想像に思いのほか気持ちが沈み、ニールはもう一度小さく息をついた。
     男とニールはもう互いに嘘も隠しごともなく、任務をこなすたび信頼を重ねて友情を育んでいる。自信をもって相棒と言える良好な関係を築いているといえるだろう。
     ただ、仕事上の関係にしては距離が近すぎるのだ。おそらく男はニールが男の盾となって撃たれたことを気にして世話を焼いているのだろう。
     事実、スタルスク後に病院で目を覚まして以来、男はずっとニールのそばにいる。入院中は献身的に身の回りの世話を焼き、リハビリにも付き添ってくれた。指先のわずかな麻痺、全力疾走が困難、ときどき頭痛があるといった程度の後遺症は残ったが、一人で生活するのに不便があるわけではない。だが男の「そのほうが効率がいい」という言葉に従い、こうして同居している。
     ――いま限定だよな、これは。
     こうやって少しずつ別々の場所で任務をこなし、やがては同居を解消し、いつかは普通の距離感に戻っていくのだろう。今回はそのリハビリのようなものだ。
     そう自分に言い聞かせたところで胸が締めつけられるように傷むのは、ニールが男に対して友情以上の思いを抱えているせいだろう。
     男がそばにいないのが単純に寂しい。声だけでも聞ければいいが、任務が完了するまで不要な連絡は取らないルールだ。
     ニールは沈んでいく気持ちを断ち切るように、勢いをつけてソファーから立ち上がった。ウォッカ・トニックでも飲もうかとキッチンへ向かいかけたとき、テーブルに置いてあったスマートフォンが鳴る。画面を見れば着信の相手は男だった。
     男の行動は把握しているが、今日は状況報告が必要な動きもなかったはずだ。もうとっくにホテルに帰っている時間だろう。ましてやメッセージでもなく通話とは珍しい。
     ――もしかして何かあったのか?
     ざわりと寒気が走り抜け、心臓が握られたようにドクンと跳ねた。
     思いを巡らせたのはほんの数秒で、ワンコールも鳴り終わらないうちに応答する。頭に浮かび上がってくる悪い想像を打ち消しながら、平静を装って声を出した。
    「ニールだ」
     一瞬の沈黙が流れたあと、聞き慣れた男の声が聞こえてきた。
    「早いな、出るのが」
    「へ?」
    「いや、こんなに早く出るとは思ってなかったから驚いた」
    「……なんだ、それは」
     ニールは安堵の息を吐き出しながら、無意識に入れていた肩の力を抜く。
     緊急の救援コールなのか、男のスマートフォンを使って別の奴が連絡を寄越しているのか――その場合男は拉致されているのだろう、まともに話ができないほど怪我を負っているのか。
     頭をよぎった最悪の事態はどれも違ったらしいが、緊急性はないにしろ男の状況がわからないのには変わりがない。
    「どうしたんだ? 何かあったのか?」
    「いや……別に何も……」
     歯切れが悪い男の口調にニールは眉をひそめる。
    「危険な状況なのか?」
    「それなら悠長に話なんかしてないさ」
    「怪我でもした?」
    「してない、大丈夫だ」
    「僕の助けがいるから電話したんだろ? 何が必要だ? 早く言ってくれ」
    「そうじゃない、ニール」
     任務中の連絡、遅い時間の電話、姿が見えない状況、意図のわからない会話、歯切れの悪い言葉――ニールの中で心配ともどかしさがどんどん募っていく。
    「だったら一体どうしたんだ。今どこにいるんだ? 大丈夫なのか?」
    「ニール、落ち着け」
    「落ち着いてるさ! こんな時間に急に電話を寄越すなんておかしいだろ? 君に何かあったんじゃないかと心配になるのは当たり前だ」
     落ち着いていると口にしながらも、声が上ずり早口になっていく。なおも言い募ろうとしたとき、男の静かな声がニールの言葉をさえぎった。
    「少し話がしたかっただけだ」
     緊急連絡でもなく状況報告でもない。男のいう話とは一体なんなのか。ニールはわずかに首を傾げながらつぶやいた。
    「話って何の」
    「何だっていい」
    「……どういう意味だ?」
    「君の声が聞きたかったんだ」
    「……」
     言葉の意味がなかなか頭に入ってこないまま、ニールは思わず黙り込んだ。ニールが言葉を失ってしまったのを知ってか知らずか、男の声が続く。
    「ここのところずっと君と一緒だったろ。スタルスク以来、二日も離れるのは初めてだ。君が一人で平気か心配だった」
     ――ああ、なんだ、そういう意味か。
     開いたままだった口から安堵とも落胆とも区別のつかない息がもれる。ニールはあえて笑顔を作ると、いつもの調子を取り戻して男に言った。
    「心配しなくても大丈夫だよ。後遺症っていっても大したものじゃない。君がいなくてもちゃんと一人で――」
    「ああ、悪い。そうじゃない。君が一人でも大丈夫だってことはわかってたんだ。君を心配してたわけじゃなくて、ただ――」
     男が言葉を切り、一瞬の沈黙が流れた。ニールは男の言葉の続きを待ちながらスマートフォンを握りしめる。知らぬ間に指先に力が入っていた。
    「本当は俺が……俺がただ君の声を聞きたかっただけだ。まだたった二日離れてるだけなのに寂しかった。だから電話した」
     ニールは無意識に呼吸を止めていたのに気付き、そっと息を吐いた。目を閉じて男の言葉とその意味をゆっくりと考える。期待するな、と思いながらも鼓動はいつもより早くなっていた。制御できない心臓をなだめるように大きく深呼吸を繰り返す。
    「ニール?」
    「……そういうことは普通相棒には言わないんじゃないか」
     ニールは男の真意をたしかめるように口にする。そうだな、と返ってきた男の声は決心がついたかのように軽かった。
    「じゃあ君は俺にとって相棒ってだけじゃないのかもしれない」
     期待していた通りの言葉にニールの口の端がわずかに上がる。
     二日も離れていると思っていたのも、それを寂しいと思っていたのも、声だけでも聞きたいと思っていたのも自分だけではなかったのだ。
     ――なんとね。
     誰もいない部屋で誰に隠すでもなく、ニールはニヤついてしまう口元を手で覆う。
    「今日の君は回りくどいな。もっとわかりやすく言ってくれ」
    「いつもは察しが良いくせにわからないのか?」
    「恋をすると人はバカになるものだろう?」
     暗に君に恋をしているのだと告げると、スマートフォンの向こう側で男の笑い声が聞こえた。
    「帰ってからちゃんと君の顔を見て言うよ」
    「いま聞きたい」
    「せっかちだな。二日後には戻るから待っててくれ」
    「わかった。いい子で待ってるよ」
    「ああ。おやすみ、ニール」
    「おやすみ」
     ニールは口元に笑みを浮かべながら通話を切った。立ったまま話していたのに気付き、バフッと音を立ててソファーに倒れ込む。音のしなくなったスマートフォンを腹の上に乗せると、天井を見上げて長く息を吐いた。
     男が帰ってくるまであと二日。
     長いようでいて短い二日が過ぎてこの部屋のドアが開いたとき、二人の新しい関係が始まるのだ。
     帰ってきた男はどんな顔をしていて、一体何と言ってくれるのだろうか。考えただけで口元が緩んでいく。
     ――寂しかった? 会いたかった? それとも……。
     ニールは想像を巡らせかけたが、すぐにやめた。男がどんな言葉を口にしようと関係ない。
     ――君がなんと言おうと、僕はただ満面の笑みを浮かべて「me too」と返すのみだ。 
     男のいない静かな夜が更けていく。だがさっきまで感じていた部屋の広さと静けさはもう感じなかった。夜が更けて朝が来れば、また夜が来る。二度目の夜が明ければ男が戻ってくるのだ。
     ニールはスマートフォンを握りしめると、幸せな気持ちで目を閉じた。




    ーーー
    11/17追記 作者コメント
    特に文体を変えることもなく、あえていつも通りに書いてみました。自分の文章に特徴があるかわかりませんが、読む方にわかっていただけるのか非常に興味があります。自分自身、他の方の作品を読んで利きをするのが楽しみです。
    きょうこさん、楽しい企画をありがとうございました!



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    INFOPN利き小説 エントリー作品⑧
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    PN利き小説 エントリー作品⑧「二時間だけのバカンス」 ふたりはまた喧嘩をした。
     彼らが一般に喧嘩と呼ばれる状況に陥ることは珍しい。逆行した先の別の時間軸のことはさておき、ふたりが現在と呼ぶ時点において彼もニールも十分大人であり、また言い争いを通してじゃれ合うような性分をお互いに持っていないからだ。
     必要であれば武器を手に戦う彼らは、だからこそ日常における問題は言語コミュニケーションを用いて解決することを良しとしている。共にいられる時間に限りがあるとわかっているため、多少のすれ違いや意見の相違があってもできるだけ速やかに話し合い、相手の考えを聞き、受け入れ、自分の主張を変える準備がある。例えばベッドに引きずり込んでしまうこととか、唇で唇を塞いでしまうこともコミュニケーションの手段ではあるし、ときにはそういった武器とは異なる意味での暴力的な方法を用いることがマナーになることも理解しているが、ふたりは敢えて言葉を介すことで、お互いの気持ちを定性的に把握したいと思っていた。
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