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    neko

    @neko22suki
    ポイピク始めました。
    ジャンル垣根なしの雑多垢です。
    好きなものを好きなだけ。ネタバレありです。
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    neko

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    思いついたので気軽にポイッと投げます。
    精査してないので支離滅裂かもしれません。
    後で多分加筆訂正します。

    ##アイマヒ

    Tranquilizer 土埃にまみれて。弾丸の悲鳴に耳をやられて。覚えてもいない擦り傷が痛んで。隣にいた誰かがいなくなって。
     戦う意義はほんの一握り持っているのみ。あとは大概生きる糧のために銃を携えている。金というものは命を張れば張るほど額が跳ね上がるものだ。“仕事”だから血風舞う戦場で息をしている。それに感慨も罪悪もない。
     けれど何気なく足元に目を落とした瞬間。なんの思い入れもないはずの胸に、ふと穴が空いたような虚脱感に捉われることがある。

     戦闘後の疲労からか乗り心地のすこぶる悪い軍用車に揺すられていながらアイヴスは意識を軽く手放していた。次に目を開けたのはホイーラーに肩を叩かれてからだった。視界が草木のまばらに生えていた荒野から駐屯地の敷地内に変わっている。
    「お疲れ様」
     今回の作戦でも頼りになった同僚の短い労いにアイヴスは『お互い様だ』と片手で返事をした。車から降り、優しさの欠片もないシートですっかり凝り固まった体を伸ばす。関節の至る所から人体から発していいのか不安になる不協和音が響いた。気にせず最後に首をゴキゴキと回していると遠くの方で複数人の話し声が聞こえてくる。
     自然と目をやれば図らずもその中に一つ、知った顔を見つけた。マヒアが作業服のまま似た服装の何人かと雑談をしている。
     知った、というが顔を合わせれば一言二言の話をする程度の仲でしかない。
     なんとも不思議な男だ。気さくな振る舞いをするくせに一歩踏み込もうとするとスルリと躱されてしまう。その逆で明からさまな壁を築いたかと足を引けば引いた分以上に詰めてくる場面もある。馴染みはないがまるで社交ダンスでも踊っている気分だ。
     そんな曖昧な距離感であるが故にアイヴスの中で未だどのカテゴリーに分類していいのか判断に迷っている。仕事を頼む仲間。所属組織の同輩。稀に同じ飯を食う知人。……友人。……それ以外の。
     そこでアイヴスは一旦思考を意図的に切った。激務にやられた脳ではまともな回路に繋がらないのを知っている。
     アイヴスは頭を振って腕を組み、車体にもたれかかた。ホイーラーに続き何食わぬ顔で立ち去ってもよかったが盛り上がっている会話の腰を折りそうな気がして終わるまで一息つくことにする。
     距離が開いているせいか話の内容までは分からない。けれど弾んでいるのは確かなようだ。背を向けた方から時折、笑い声が織り混ざっている。それにつられるようにアイヴスの口角がわずかに上がった。
     何がそんなにおかしいのかと興味が湧き、僅かに振り返る。見えたからといって話題が分かるという訳でもない。それでもアイヴスの動きが止まることはなかった。
     曇り加工が施された車窓越し。色がぼやけた世界でマヒアが屈託なく笑っていた。口元だけではない。目元だけではない。くしゃっと顔面いっぱいに皺を作っておかしそうに笑っていた。
     そんな顔を見て。そんな、大して珍しくもない顔を見て。普段だって、よくとまではいかないまでも間近で目に触れる機会がある顔を見て。
     アイヴスはなんだかひどく安堵してしまったのだ。
     安堵して肩の力が抜けて先程までの戦闘からくる緊張感が一気に体の隅々から消えて去っていた。あろうことか、ついでに手土産にしていた虚脱感すらも。
     アレは心に巣食うものだとばかり思っていたが、どうやら違っていたらしい。今は虚脱どころか暖かい何かで満ちている。だが、それを自覚するのは少々面映かった。
     アイヴスはもう少し焼き付けていたい穏やかな視界を一度強制的に遮断する。マズイ、と身の内のどこかがポツリと呟いたからだ。段々と満ちる温かくて柔らかい何かから目を逸せなくなっている。
     認めてしまえと訴える心がある。認めてなんになると嘲る意思がある。そもそも何を認めろというのか。マヒアに向ける気持ちにまだ名すら付けていないというのに。
     諦観に似た冷静を取り戻してアイヴスは瞼を開く。開いた視野には幻だったのではと疑うほど誰もいなかった。自問自答をしている間に和気藹々なおしゃべりは幕を閉じたらしい。あんなに盛り上がっていたのに随分あっさりと解散したものである。
     アイヴスは残念半分に車体から身を離し、ようやっと車庫から退出しようと足を動かした。
    「あれ?まだいたの?」
     死角から上がった呑気な一声で進んでいた足は再び止まる。
    「マヒア」
    「おかえり。なんだ、てっきりホイーラー達と一緒に出ていったのかと思ってた」
    「あぁ、ちょっとな」
     まさか団欒の間を裂きたくなくて潜んでいたとは言い難く、アイヴスは言葉を濁した。それにマヒアは眉を寄せる。
    「もしかしてどこか痛めて動けなかった、とか?」
     見当違いな推理にアイヴスは違うとすぐに首を振った。だが、返事を信じていないマヒアは心配を崩さない。
     気にかけてくれるのは嬉しいが、さっき見ていた明るい雰囲気とあまりの落差がありアイヴスの心奥を曇らせた。
     見たい顔はこれではない。欲しい顔はこんなものではない。けれど伝えるべきかをまだ躊躇していた。
     アイヴスの指はそんな持ち主の意識よりも有能で雄弁だった。前触れもなくマヒアの頬を節くれだった人差し指がするりと滑る。
    「ん?」
     予想もしない行動にマヒアが目を丸める。アイヴスも内心は同じだが、如何せんこちらから仕掛けている身なので目を丸められない。
     起こってしまったことは仕方ない。どっかの誰かの口癖が脳裏をよぎる。出してしまった手が戻せないなら押し切るまでだ。
    「なぁ、すまないが笑ってくれないか?」
    「は?」
     支離滅裂な展開で完全に虚を突かれたのだろう。飾りっ気のない素の感情がマヒアの口から吐き出される。無防備な反応に耐えきれずアイヴスは不覚にも吹き出していた。
     笑ってもらうはずだったんだが、と反省するがクックックと震え出した喉が止まらない。
    「なっ、なんだよ。人の顔見て何笑ってんだよ。失礼だぞ。こっちは心配してるっていうのに。それとも頭でも打ったのか?疲れておかしくなったのか?」
     わぁわぁと喚いていたが後半部は段々と声が震えていた。愉快は人から人へと伝染する。引き締まっていたマヒアの唇もアイヴスの姿を受けてフフッと緩み笑息が漏れ始めていた。
    「そうだな。疲れてるのかもしれない」
     日頃から不慣れなせいか笑い疲れてきたアイヴスが息を切らせつつも頷く。
    「確かに相当お疲れのご様子だ。早く休んだ方がいい」
     弾んだからかいが同調してくる。さて、なんと切り返そうかと顔を起こした。そこでアイヴスは眩しさに目を細める。
     あの、くしゃりとした混じり気のない純粋な笑顔が向けられていた。得てして望みのものが与えられた。アイヴスはすっかり疲れ果てた頭で思った。
     疲れ果ててしまった脳に自制心という言葉はない。そう言い訳してアイヴスは徐ろに腕を伸ばした。
     抵抗される前にグッと引き寄せる。恋情を匂わせるには少々物足りない気軽さで、友情と納得させるにはたっぷりと想いを乗せた手つきで。
     互いの肩に顎を乗せるように抱き合ってポンポンと一方的に背を叩く。
    「ありがとうな。でもお前の笑った顔が一番回復するみたいだ」
     耳元に感謝を囁いてスッと一歩引く。そうしてクルリと背を向けると今度こそ、その場から退散した。
     笑いたければ笑うがいい。戦闘実働部隊の司令官は潔いほど完璧な言い逃げをした。相手の顔色を目の当たりにしたくなくて逃げたのだ。後日、どんな顔をして会えばいいのか悩む羽目になるのだが完全な自業自得なので致し方ない。
     そして臆病者に勝利は持たされない。先人は実に良い格言を残したものである。ここでアイヴスが勇気をもって振り返っていたのなら、きっと二人の関係はもっと簡単に決着を迎えたことだろう。
     背後では、褐色でも熱が広がっているのが分かるほどの赤面を両手で必死に覆い隠しながら「マジで、もう、なんなんだよぉ……」とか細く嘆いているマヒアが一人取り残されていた。
    【END】
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