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    neko

    @neko22suki
    ポイピク始めました。
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    好きなものを好きなだけ。ネタバレありです。
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    💝アイマヒのバレンタイン💝in 2023

    ##アイマヒ

     石畳の広場に並べられた木製の椅子とテーブル。冬場の貴重な日差し。卓上の左手付近には白い湯気を立てたホットショコラ。そして右手につままれたショコラ・オランジュ。
     それをあと一秒後には口に放り込んでいるといった格好のままマヒアは停止している。原因は目の前に立っている予期せぬ登場人物のせいだ。
    「なんだ?食わないのか?」
     ラフな格好をした腕組みを解かない強面が話しかけてきた。ということはどうやら他人の空似でもマヒアの幻覚でもなく正真正銘よく知っている相手で間違いないらしい。
    「……なんでアイヴスがここにいるんだ?」
    「今から説明する。だからこっちと交互にチラチラ見てるソレを早く口の中に仕舞ってくれ」
     気になって話がしづらい、とため息を吐きながら断りもなく向かいの席に腰掛けた。マヒアは僅かに躊躇ったのちチョコレートが半分以上かかった大振りなオレンジにかぶりついた。
     歯が喜ぶ厚みのある果肉と弾けるほのかな果汁。そこから舌に染みる柑橘類の甘酸っぱさとカカオの深い甘さと皮のほろ苦さ。果実とチョコレートが織りなす奇跡のコラボレーションを存分に堪能する。
    「そのまま聞いてくれ。経緯を話す」
     口が空いていないのでマヒアはヒョコヒョコと小刻みに首を縦に振った。
     スラスラと流れていくアイヴスの端的な説明を一言でまとめるならマヒアのサポートをするはずの荒事専門業者がトラブルを立て続けに起こして来られなくなってしまったらしい。
     現地で雇った裏社会の人間らしいのだが、まずは乗った列車が大事故に遭い、仕方なく降りた先で入った店に強盗が押し入り、辛くも難を逃れたと思えばビルから落ちる人の目撃者となって警察に重要参考人として連れて行かれたようだ。
     こちらの情報は一切伝えてないので痛くも痒くもないが、非常事態に備えて控えていたメンバーも対処に追われて到着が遅れるとのことだった。
    「なんていうか……壮絶に運のない人だね」
    「そうだな」
     指に挟んだ菓子の欠片をもうひと齧りしてマヒアがしみじみと感想を述べれば、しみじみとした同意がなされた。
    「それで、アイヴスが?」
    「あぁ、代理で呼ばれた」
     そこでマヒアは首を横に傾げる。対面者の不思議そうな顔を北の海を写し取ったような蒼が見つめ返した。
    「俺の記憶が正しければアイヴス昨日まで別のミッションこなしてたよな?」
    「あぁ」
    「確か結構規模の大きい作戦じゃなかったっけ?」
    「そうだ。よく覚えてるな」
     そりゃ、お前のことだから…と続けそうになるのをマヒアはホットショコラを口に含むことで堪えた。一旦体勢を立て直して尋問を再開する。
    「立て続けに仕事が入るのおかしくないか?」
    「偶々空いてたのが俺だったんだろ」
     そんなことあるか?とマヒアは訝しげに眉を寄せる。まだ此処からアイヴスが参戦していた戦闘地点までが目と鼻の先だったならば納得もできたが、恐らく飛行機をいくつか乗り換えたに違いない。
     現在マヒアが受け持っている偵察は急ぎの案件でも重要事案でもないはずだ。代理を立てるにしても時間の猶予は大いにある。わざわざ過酷な職務を終えた、しかも司令官クラスを当てがうだろうか。
     向かいの顔面いっぱいに浮かんでいる疑問を正しく読み取ったアイヴスは興味ないとばかりに頭を振る。
    「体が空いてるんだ。問題ない」
    「いや、でも疲れてるだろうに」
    「聞くところによれば俺の出番はまだ先らしい。それまでは休ませてもらう」
     口端を上げ肩の力を抜いた軍人の姿にマヒアがようやく眉の皺を解いた。
    「まぁ、本人がそれでいいなら。手を貸してもらえるならありがたいし」
    「それに俺としても丁度良かったからな」
    「丁度良かった?」
     そこでアイヴスは着ていたダウンジャケットのポケットから四角四面のものを取り出して置いた。ご丁寧にもリボンまで付いている。
    「……」
    「当日に渡せて何よりだ」
     マヒアの脳内に浮かんだ最初の感想は『ズルい』だった。
     何に対してなのかは混乱した頭では特定できない。例えば、二人が座ってるテラス席が観光地としても有名な場所で甘い雰囲気を醸し出すのに適している、だとか。偶然を味方につけて粋なプレゼントを臆面もなくできてしまうアイヴスに対して、だとか。会えないと分かっていたからこちらは全然用意していないのに、だとか。
     とにかく諸々を引っくるめて全てが『ズルい』と感じてしまう。マヒアは両手で顔を覆い雄叫びを上げたくなる衝動を矜持で耐えた。
     なにせ、両手が空いていないのだ。敗北感にうめくマヒアはあと一口残っているショコラオランジュを見る。せめて、このどうしようもなく居た堪れない空気をどうにかしたい。
    「あのさ。あとでちゃんとしたの渡すから。今はコレで、とかどう?」
     そう言って歯型に欠けたオレンジをからかい口調で差し出す。
     無論、本気ではない。アイヴスが引いた瞬間に「なーんてね」と冗談にしようとした。冗談にしようとしたのである。本当に。本当だとも。少なくともマヒアはそのつもりだった。
     まさかガパッと大きく開いた口にマヒアの指ごと食べられてしまうなんて、そんな未来は考えもつかなかった。
    【END】
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