先着五千名様【オル相】 その日、ひっそりと駅に貼り出された広告は事前告知も何もなかった。長年平和のアイコンとして活躍したオールマイトは引退後、醸し出す熟年の色気から従来とは違うファン層を獲得していて、今回もそちら向けの需要に応えるために企画されたものであることに間違いはなかった。
退廃的なグレーの強い背景、コンクリートを思わせる無機質な暗がりに置かれた椅子に足を開き体を低くして腰掛けた、スーツを纏ったオールマイトがカメラに視線を向けている。光源の妙は痩せこけた顔の中でも目の青を際立たせ、通り過ぎる人の視線を惹きつける、或いは足を止めさせるに十分だった。
そのオールマイトの前に一人の後ろ姿があった。右腕が腰を抱いている。癖毛に見える黒い髪を高く結い上げていて後頭部しかわからないから、顔立ちを窺い知る事はできない。同じくスーツを身につけており、シルエットからは男性と推測はできた。真っ直ぐに立つ彼は細身ながら服の下にしっかりと筋肉を身につけていて、スタイルがいいのは一目瞭然だ。
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