ただいま、おかえり、また明日「 ……ただいま」
そう言って扉を開けると、当たり前のように。
「 おかえり、千空ちゃん!おっ疲〜♬」
そう言って笑顔で迎えてくれる存在がいることが、面映く、……けれどやはりとてもうれしい。
お互いに不規則な生活だけれど。
どちらかが先に帰宅した時の、自然なルーチン。……一日の疲れが吹き飛ぶなんて、どんな理屈だなどと呆れていたこともあったが、実際にそうなってみると、なるほどこれは大樹を笑えない。
疲れた脳には、覿面に効く。
「 今日寒かったし、お鍋にしよっか」
「 おう」
いいな、と頷いて。手早く部屋着に着替えると、エプロンを付けて手を洗う。
「 豆乳白湯鍋でシメはラーメンにするか」
「 わあい!千空ちゃんのラーメンひさしぶり〜♬」
あたたかく、賑やかなキッチンで。
二人で鍋の具材を考えながらてきぱきと準備を進めた。
豆腐に白菜、ネギ、椎茸、えのき、花型にんじん、白滝、鶏つみれと練り物を少し。
豆腐は八つ切りに。白菜とネギ、練り物は食べやすい大きさに切る。
椎茸は石づきを取り、ひだを軽く刷毛で払ってから、洗って切り目を入れた。
つみれはすでに団子状にして小分けに保存してあったものを、冷凍庫から取り出す。
食卓にカセットコンロを設置すると、火の通りにくい順に鍋に入れていく。
それから、二人で鍋をつつきながら、互いに今日あったことなどを取り止めもなく話した。シメのラーメンまできっちり完食して、ごちそうさま、と手を合わせる。
「 ふ〜、冬はやっぱり鍋だよね〜。ゴイスー美味しかったよ千空ちゃん!」
「 ククク、隠し味に生姜パウダー入れたから、あったまんだろ」
「 あー、あれ生姜かあ〜。うん、ポカポカしてるよ〜 」
ひとしきり、鍋の話題で盛り上がって。
「 んじゃ、後片付けは俺がやるから千空ちゃん、先にお風呂どうぞ〜 」
そう勧められて、浴室に向かった。
柑橘系の匂いがして、元をたどると、湯船に柚子が浮かべてあった。
……ああ、今日は冬至か。
相変わらず、こういう行事ごとには律儀だ。
そう思いながら、やや熱めに沸かされた風呂に身を浸す。
さわやかな柚子の香りも相俟って、ゆったりと身体を伸ばせた気がした。
……風呂から上がると、テーブルにコーヒーとかぼちゃのプリンが用意されていて。
やはり律儀だなと思った。
それから、後片付けをして、並んで歯を磨いて。リビングでまた、取り止めのない話をして、ベッドに入った。
……時計が深夜に差し掛かった頃。
ふいに気配を感じて目を開けると、ベッドの側にゲンが立っていた。
なんだか申し訳なさそうに、枕を抱えている。大体の状況を悟って。
身体を起こすと、ベッドにひとりぶんのスペースを空けた。
ぽんぽん、とマットレスを叩いてやると、やや遠慮がちにゲンが潜り込んでくる。
「 遅くにメンゴ……どしても、寒くて」
……ゲンはもともとの体温が35℃前後と平均的な体温に比べて低い。
だから、寒い日はより一層こたえるようだった。隅っこに丸くなるゲンを抱き寄せて、抱え込んでやると、暖を求めるようにしがみついてきた。
「 ……千空ちゃん、あったかい…… 」
こども体温だね、とからかわれて。
ベッドから放り出そうとすると、ぎゅっとさらにしがみつかれる。
腕の中を覗き込んだところ、すでにうとうとし始めているようだった。
腕の中の体温は、35.8℃。
こちらの体温は、36.5℃。
二人の平均体温、36.1℃。
二人でようやく平均値か、とひとりごちて。
毛布をかぶり直すと、お互いの体温を分かち合った。
……おやすみ、かわいいひと。
また明日。