無糖と微糖「 はい、千空ちゃん♬」
あたたかげな湯気を漂わせて、コトンとカップが目の前に置かれる。
白いカップには、濃い琥珀色の液体。それにいつもの角砂糖とミルクピッチャーが添えられている。
「 大学のレポート?……あんまり根詰めすぎないようにね」
「 おう。……テメーは飲まねぇのか?」
カップに口をつけながら問いかけると、答えずににこにこ笑ってこちらを見ていた。
やや濃いめのコーヒーに、オーガニックの角砂糖とミルクの甘さがやわらかくて。
好みを完全に把握されている。
「 ご馳走さん。……じゃあ、テメーの分は俺が淹れてやるわ」
カップを手に立ち上がると、ゲンは焦ったように両手をバタバタさせた。
「 えっいいよ千空ちゃんレポートあるでしょ!」
「 いいからテメーは黙って座っとけ」
それを手で制して、キッチンに向かった。
「 ほら」
声をかけて、目の前にコトンとコーヒーカップを置く。アメリカンのブラックだ。
ゲンは差し出されたカップをじっと見て、キョトンとこちらに視線を向けた。
「 ……あれ?俺、ブラックって」
言ったことあったっけ?
続く言葉に、ニヤリとわらう。普段はこちらに合わせて、ミルクと砂糖をたっぷり入れて飲んでいる。
甘いのおいしいよねぇ、と笑いながら。
けれど、一人の時に好んで飲むのは、このアメリカンのブラックだ。
……最近、気づいたことではあるが。
普段はおおかた、子供舌のこちらに合わせているのだろう。
「 もう、千空ちゃんにはかなわないな〜♬」
少し苦笑して、ゲンはカップに口をつける。
「 ……うん、美味しい」
「 おう」
短く答えて、ぽんぽんと頭を撫でてやると、ゲンはありがとね、と湯気でふんわり染まった顔をこちらに向けてほほえんだ。