幕間の楓恒⑧頬に触れる丹楓の手の温もりにゆっくりと瞼を下ろすのは、口付けをする時はそういうものだと知識として持っていたからに他ならない。
手のひらや指先で擽るように触れてくるせいで、甘い気持ちよりは何処か遊ばれているような気持ちになっていく。丹楓と口付けをしたいと考えてしまった俺がおかしいのだろうか。
「丹恒」
「…ッ、…」
「本当に良いのだな?」
「…俺も、したいと思っている…だから、」
問題ないと言うはずだったものは丹楓の口の中で溶けて消えてしまったようだ。
「…ふ、…ん…」
真っ暗な視界の中、丹楓の唇の感触が心地好い。ただ触れているだけの口付けは、すぐに終わってしまった。
「たんふう…」
「物足りない顔をしているな」
「ぅ、…ん…」
すり、と指先で耳飾りと耳の間を擽られると耳がぴくりと震える。
丹楓の顔を見ようと瞼を開けば思ったよりも近くに丹楓の顔があって息を飲んだ。
「た、んふ…」
「…余もまだ足りぬ、丹恒」
「んぅっ…!」
瞼を閉じる暇もなく重なった唇に目を見開く。先程までの重ねるだけの口付けと違って丹楓の舌が、口の中へ入ってくる。
「ふ、…ん、んんッ…ぅ…」
舌先で口の中を舐められているとくちゅ、くちゅと水音が鳴りだして、それが俺と丹楓の混ざりあったものから鳴っていると思うと頬が熱くなってくる。
「ふ、ん、んんーッ…は、ふ、っ…」
息も苦しくてとにかく離れようと首を振るが、逆に頭を掴まれてしまいそれもできない。
滲んでいく視界が瞳に涙が集まりだしていることを教えてくれているのに、丹楓の口付けからは逃れられなかった。
「は、ッ…ん、はぁ、…たん、ふ…」
「ふ、…熟れた顔になったな」
「だれのせいでこうなったと…」
「ならば、もうやめるか?」
「………」
唇は離れたが、顔の距離はまだ近い。距離が近いせいで丹楓の唇が俺と丹楓の唾液で濡れそぼっているのが見えてしまって、こくんと喉がなった。
「たんふう」
「…そうだな、其方と余が飽きるまで」
再び重なった唇は俺から口付けたのか丹楓から口付けたのかわからない。